自分で見て知ったものでないと信じるべきではない
――「TV Show」は「Love Is There」とはまた180度違った世界観です。これは何か思うことがあって書いたと思うのですが。
松尾レミ 色んな媒体があって、自分から発信ができる発信側にも全員がなれる時代になりました。そのなかでどれが本当で嘘かもわからないし、もしかしたら今まで社会が隠してきた真実も拡散できる社会にもなったと思うし、逆もある世界になってしまったと思います。例えばテレビでも今流れていることが、「何かをカモフラージュするためのものなんじゃないか」とか考えてしまうんです。
――それは私もよく考えます。
松尾レミ そういうことが出来る時代で、例えばネット上にあるGLIM SPANKYの情報も、私達とは全然関係ない、身に覚えのない事が書かれていたり…。でも、それが本当のことだと思って見てしまうじゃないですか。それって本当に怖いことですけど、それを誰も正せないので、ちゃんと自分で見て知ったものではないと、信じるべきではないのかもしれないと、私は改めて強く感じてそれを訴えかけている曲です。「TV Show」とテレビを標的にしたタイトルになってますけど、テレビだけではなく発信できる全てのものに対してのものなんです。もしかしたら私も洗脳されている可能性もあるんですけどね。
亀本寛貴 そんなことないよ。
松尾レミ (笑)。たまたま、そういうことを考えていた時に映画『インクレディブル・ファミリー』を観たんですけど、そのなかでテレビを見ていて洗脳されるシーンがあったので、「やっぱりな」と(笑)。
――考えていたことが確信に変わったわけですね。歌詞も鮮烈ですけど、バックトラックもクールですよね。
亀本寛貴 この曲はトラック、ギターリフから出来ていきました。
――Fuzz(歪みエフェクター)を使ったギターサウンドがエグいです。
亀本寛貴 そうですね。けっこう今の日本では使っている人が多いと思うんですけど、Z.VEXの FUZZ FACTORYというFuzzを使っています。この曲はわりと普通のバンドアレンジなので、混み入ったことはしていないんですけど、敢えてこだわりをあげるなら、リフの裏で薄っすらとオートワウを掛けたようなギターをいれているところです。普通のギター1本だとオールド感があるというかガレージ感が強すぎるので、そこにシンセっぽいギターを入れることで、モダンに聞こえるようにしています。
――隠し味ですけど、良い効果を生んでいますよね。たしかこの曲はLAでレコーディングした1曲でしたよね。
松尾レミ そうです。エンジニアはザ・ブラック・キーズを録っているケニー・タカハシで、ドラムにジャック・ホワイトのサポートで叩いてるカーラ・アザー、ベースはザ・デッド・ウエザーやザ・ラカンターズのジャック・ローレンスというメンバーで録りました。
亀本寛貴 まず、エンジニア優先でオファーさせていただいて、エンジニアの方にやってもらいたいミュージシャンのリストを送って、その中から適役なミュージシャンを選んでもらって、レコーディングをしました。ミックスダウンは日本でやったんですけど、LAのレコーディングは豪快でしたね。コントロールルームでも爆音で(笑)。
松尾レミ そうそう。ミックスをして頂いた日本のエンジニアさんがすごく勉強熱心な方で、時間があったら海外まで行って見学しに行ってしまうような方なんです。今回のレコーディングにも来てくれて、作業すべてを見てそれを持ち帰って日本でミックスしてもらいました。しっかりと筋の通った作品になったので、完成度には非常に満足しています。
――そこでの作業工程を見ているのと見ていないのでは、ミックスにも大きな差が出ますよね?
松尾レミ そうなんです。あと、衝撃的だったのはLAのスタジオには良い楽器が沢山あるんですけど、日本だと大事に保管しているんですが、あっちではそんな楽器もその辺にゴロンと置かれていて(笑)。
亀本寛貴 エフェクターもその辺に適当に山積みで(笑)。
松尾レミ ギターのレコーディングも日本だったら絶対に他の音が入ってこないような防音のブースでやるんですけど、階段の下みたいな、扉もちゃんと閉まらないようなところで音が漏れた状態で録ったりとか(笑)。
――海外でレコーディングされたバンドさんに聞くと、日本とはこだわる部分が全然違うみたいですね。
亀本寛貴 ストイックな箇所が全然違います。ノイズなんか気にしないですから。
松尾レミ ノイズは全然あっていいです! この「TV Show」はブレイクが多いんですけど、無音になるところは、楽器と一緒にボーカルの空気感も切ってしまうことが多いんです。でも今回はそれをせずに全部垂れ流し状態で(笑)。良い意味で大胆なところを求めにLAに行ったので良かったです。
亀本寛貴 なので、よく聴くとサーってノイズ入ってますよ。
松尾レミ リップノイズやブレスなど通常、ノイズとして処理されるものもそのまま残っています。もう“全部見せ”ですよ(笑)。LAでそういったダイナミックなレコーディングを見たからこそ、エンジニアさんもこういったミックスにしてくれたと思います。みんながみんな、何かを学んで帰ってきた旅だったので、今回のレコーディングはめちゃくちゃ刺激になっています。
――表題曲である「Looking For The Magic」はどのような想いで描かれた曲なのでしょうか。
松尾レミ これは5月にアメリカに行った時の思い出を綴っています。なので、仮タイトルが「LA旅」でした。でも、私たちが何を求めてLAに行ったのかを考えた時にタイトルでもある「Looking For The Magic」、魔法や奇跡、ときめきを探しに行ったし、それがこの曲にピッタリだなと思ってこのタイトルにしました。内容は友達4人で行った青春旅を綴っています。
――良いタイトルですよね。歌詞にある<花輪をかぶり笑った あのムービーみたいに>というのは、レミさんは明確なイメージがあるんですよね?
松尾レミ あります。敢えて言わないですけど(笑)。ここはそれぞれ好きな映画を思い浮かべて頂けたら良いかなと思っています。あの映画ではなくて、何かの映画みたいな表現でも良いと思います。
亀本寛貴 僕ならば『プレデター』ですね。今ハマっているので(笑)。
――曲の雰囲気と『プレデター』が合わなすぎますけど…。カントリーチックな「Hello Sunshine」という曲もそうなんですけど、アメリカにインスパイアされた曲が入っていますから、良い刺激になっていたんだなと想像できますね。
松尾レミ 意識はしていなかったんですけどね。やっぱり見てきた景色というものを飲み込んでクリエイトしていく作業なので、経験したものが出てしまうなと改めて思いましたね。