柴田淳「やっぱり自分の声が好きなんだ」自身を客観視して辿り着けた境地:「ブライニクル」インタビュー
INTERVIEW

柴田淳「やっぱり自分の声が好きなんだ」自身を客観視して辿り着けた境地:「ブライニクル」インタビュー


記者:榑林史章

撮影:

掲載:18年11月10日

読了時間:約10分

自分が録りたい声で録れた

──前作では、1曲ごとに誰々のことを書いたとか、モデルになっている人物がいましたが、今作ではどうですか?

 「君のこと」という曲は、ちょっと恨み節に近い感じの歌詞なので、モデルになった特定の人物がいます。でも他の曲に関しては、相手がどうということよりも自分の気持ちがまずありきで書いたから、今までよりも「自分」というものが強く出ていると思います。

 今回のアルバムは、私自身が恋愛をしていない状態なので、あまり過去の恋愛を掘り起こして書くという胸中でもなくて。若い頃はすがりつくような恋愛も多かったけど、アラフォーにもなると、相手が若い子のほうに行くのは当然だと分かっているので、そこは怒るポイントでもないし。「勝手に好きでいていいですか?」という感じで、相手の気持ちは関係ないという歌が多いです。

──「そらし目で見つけて」という曲も?

 そうですね。「あなたが泣いてしまう時は」もそうで、片想いと言えば片想いだけど、1対9くらいでこっちが好きなだけなんですよ。昔は「あなたが振り向いてくれなくても、それでいいの。好きでいさせて」という曲であっても、心の中では「絶対にいつか振り向いて欲しい」と思っているものが多かった。

 でも今は、相手の気持ちを求めない想いが強くなった気がします。恋の相手の気持ちを無視しているという点では、どの曲も独り言に近いかもしれないです。だから「あなたが泣いてしまう時は」は、相手に気持ちをぶつけているわけではなくて。涙が出るくらい相手のことが好きだけど、相手は全然自分のことを好きではなくて、でも「好きだから、勝手に力になりたいと思っているだけ」という愛の歌です。

 ただ聴く人によっては、不倫の曲にも聴こえたりすることがあるようで、きっとそう聴こえるくらい、相手にハマっている歌なんだろうなと思います。私としては単なる中学生レベルの恋だけど、聴く人によってはどっぷりつかっていると思う歌が多いんだと思います。

──あと、これは柴田さんがブログで書かれていたことですが、「今までは自分の曲を後で聴けなかったけど、今回の作品は聴けた」と書いていましたけど。

 今回は全曲ではないけど、すごく自分の録りたい声で録ることができたんです。私が変わったのか、スタジオの環境が変わったのか分からないけど、「あっ」と声を出した瞬間に、録りたい声がヘッドフォンから返ってきて、声を出した瞬間に「キタ!」と思ったんです。今までは何度も声を出して、録りたい声に近づくように調整してもらっていました。

 でも今回は、「あっ」と声を出した瞬間に一発OKで、すぐ歌い始めることができた。私の声のハスキーな部分とかも全部きれいに録れていて、自分本来の声が録れたのが嬉しくて、その時録ったものを何十回も自分でヘビロテして聴いていました。自撮りする女性が、自分の写真に惚れ惚れしながらインスタにアップする気持ちって、きっとこういう感じなんだなって。私は顔じゃなくて声ですけど、理解できた気がします。「やっぱり私は自分の声がこんなに好きなんだ」って、再確認しました。

──そういう部分では、いつも以上にぜひ聴いて欲しい1枚ですね。

 そうですね。私は、曲を聴いて欲しいのはもちろんですけど、最優先は声を聴かせたいということです。今回は、今までで一番いい声が録れているという自信があるので、ぜひ聴いて確認してほしいです。

──今回そういう声が録れたのは、歌詞がいつもより俯瞰しているからということもあるかもしれないですね。

 それは、あると思います。「人間レプリカ」という曲もあって、それは自分の感情がフリーズしていて、まるで「人間もどき」だなと思ったからできた曲です。それくらい大事な部分をフリーズさせているから、物事に対する感度が鈍いと言うか…。姪っ子や甥っ子の運動会に参加して、周りが盛り上がっている中で、盛り上がれずにいる自分を見つけた時は、「本当に自分は空っぽだな」って思いました。愛とか人を思う気持ちは一番ウォーミーな部分で、そこをフリーズさせている。だからこそ今は、自分自身をすごく客観視できていて、邪念なく余計なことを考えずに歌えたのだと思います。

──でも今のフリーズ状態はいつか溶けて、再起動するんですよね。

 きっといい人と出会った時が、フリーズが溶ける時なんじゃないかと思います。だから、早く誰かに溶かしてもらいたいです(笑)!

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