柴田淳「やっぱり自分の声が好きなんだ」自身を客観視して辿り着けた境地:「ブライニクル」インタビュー
INTERVIEW

柴田淳「やっぱり自分の声が好きなんだ」自身を客観視して辿り着けた境地:「ブライニクル」インタビュー


記者:榑林史章

撮影:

掲載:18年11月10日

読了時間:約10分

 シンガーソングライターの柴田淳が10月31日、12枚目のアルバム『ブライニクル』をリリース。2001年10月31日にシングル「ぼくの味方」でデビューし、自身の恋愛観をリアルに投影した楽曲で若い女性を中心に人気を集めている。今作は、自身の恋愛観を客観的に見つめて楽曲を制作したとのことで、「恋の相手の気持ちを無視しているという点では、どの曲も独り言に近いかもしれない」と語る。今作における気持ちと、約6年ぶりに開催する来年2月のツアー『JUN SHIBATA CONCERT TOUR 2019 月夜PARTY vol.5 ~お久しぶりっ子、6年ぶりっ子~』について話を聞いた。【取材=榑林史章】

私自身がブライニクル

『ブライニクル』通常盤ジャケ写

──前作『私は幸せ』は2年9カ月ぶりのアルバムでしたが、今回は約1年ぶりのリリースで、ペースが早くてびっくりしました。

 深い意味はありません(笑)。ただ私は人前で歌うのがあまり得意ではないので、ライブやツアーはあまりおこなわず、リリースばかり重ねてきて。前作『私は幸せ』を出した後も、とくにツアーがあるわけでもなく普通の日常に戻っていて、「私は曲を作る以外に何もないんだな」って、ふと思ったんです。役者さんは演じなければただの人、私も曲を作って歌わなければただの人で、つまりアルバムを出してしまえば、私は無職なんです。かと言って趣味もなければ物欲もない。それで「自分は何なんだろう?」と思い悩み、じゃあやることがないなら曲を作ろうと思って。

──いつものマイナス思考が引き金になって、アルバム制作に着手したと(笑)。今回は、何かテーマにしたようなものはあったんですか?

 いつもは、アルバムというものは幕の内弁当のように、どれをシングルにしても大丈夫なくらい、ベスト盤みたいなつもりで作っていて。でも今回は、そういう計画性みたいなものは抜きにして、一度自分が好きな曲だけをとことん作ってみようと思って取りかかりました。そうしたら予想はしていたけれども、『火曜サスペンス』とか『土曜ワイド劇場』とかの2時間ドラマのエンドロールに流れそうな、いわゆるマイナー調ソングばかりできてしまって。スタッフにも「いっそのこと『サスペンス』というタイトルにしませんか?」と、提案したくらいです(笑)。

 とは言いつつ、そんなアルバムで大丈夫なのか? と、ちょっと不安になった部分もあったので、作った曲の中からアップテンポやロック調を引っ張ってきて、じゃあバラードも入れようとか、若干バランスをコントロールしたところがありますけど。でも基本的にはどれもマイナー調ソングなので、トータルバランスの観点では、今までの他の作品よりもいびつかもしれないです。

──今作は『ブライニクル』というタイトルですが、海底が一瞬で凍り付く現象のことです。どういう経緯でこれに決めたんですか?

 2014年12月にアルバム『バビルサの牙』を出した時も、みんなバビルサという動物のことを知らなくて、私自身も何で知ったのか思い出せなくて。今回の『ブライニクル』も同じで、制作中に行き着いた言葉だと思いますけど、どういう検索をしてここに辿り着いたのか、自分でも分からないんです(笑)。

(※編注 バビルサ=インドネシア・スラウェシ島とその周辺の島々に生息する豚に似た動物。頭に向かって湾曲しながら伸びる牙が特徴)

──何かの番組で、逃げているエビやカニがそのブライニクル現象に捕まって、端からどんどん白く凍っていく映像を見たことがあります。

 私はネットで見たんですけど、南極の海で超低音の海水が流れ込んだときに起きる現象らしいです。どうして『ブライニクル』という言葉に辿り着いたかを逆算すると、いくつか思い当たるふしがあります。きっと自分の感情がフリーズしていて…フリーズという言葉も凍るとか固まるという意味だし、そこから辿り着いたのかな? というのが一つあって。

 私は、20代はダメダメな恋愛ばかりしていて、もがき苦しんで心をたくさん動かして、30代は純粋に愛を知ってたくさん心を動かして。それで40代になった今、まだ独身で、もう相手がいなくなってしまったんじゃないかと思うようなプライベートを感じていて。本当は甘えたいし、誰かに愛されたいとか愛したいという感情があるのに、そこを見ちゃうと辛いから、それをフリーズさせているんじゃないかって思うんです。

 それにブライニクルという現象は、触れるものを凍り付かせてしまうわけで、創作中の私は、まさにブライニクルそのものです。私の創作スタイルは、本当に感度を鋭くして自分の経験を掘り起こして、極限状態まで追い込んでいくんです。外に出たくても出ないようにしたり、いろいろなものを我慢して、そのフラストレーションから曲が生まれる。そういう時に、悪気なく家族が電話をしてきたり、スタッフが間違えて電話してきたりすると、「キィー!」ってなってしまうんですね。だから、私自身がブライニクルだというのもあるし。

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