ソロは責任の全てが僕一人にある、高橋幸宏 実験的だった40年前の名盤を振り返る
INTERVIEW

ソロは責任の全てが僕一人にある、高橋幸宏 実験的だった40年前の名盤を振り返る


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年10月24日

読了時間:約14分

 YMOやTHE BEATNIKSなどで活動し、今年でソロ活動40周年を迎えた高橋幸宏が10月24日に、アルバム『Saravah Saravah!』をリリースする。今作は1978年に高橋ユキヒロ名義でリリースされたソロデビュー作『Saravah!』の当時の24トラックマルチテープが発見されたことをきっかけにボーカルを再録し、ミックス・マスタリングも新たにやり直した1枚。40年前のレコーディングとは思えない極上のサウンドに、今の高橋の歌声により新たな作品として蘇った。インタビューではYMO結成の年でもあった40年前の音楽シーンについてや、シャンソンやカンツォーネなど実験的な選曲も映える『Saravah!』の制作背景など多岐にわたり話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】

圧倒的にクロード・ルルーシュの作品が好きだった学生時代

高橋幸宏(撮影=冨田味我)

――この『Saravah!』が出た1978年というのは、どのような時代だったのでしょうか。

 音楽としては過渡期だったと思います。YMOが始動したのもこの年で、教授(坂本龍一)の『千のナイフ』や細野(晴臣)さんのアルファレコードから出した『はらいそ』もそうですね。

――この時はYMOとソロは同時進行だったのでしょうか。

 ほぼ同時進行でした。細野さんのアルバム『はらいそ』に収録されている『ファム・ファタール~妖婦』という曲で僕と教授が参加していて、その後に細野さんの家に呼ばれて、“こたつにみかん”というシチュエーションがあって、そこでYMO結成の話があったんだよね。『Saravah!』のレコーディングはその直後だと思います。

――あのYMO結成の都市伝説ですね。そこに置かれていたものが、みかんかオニギリかで意見が分かれているとお聞きしました。

 たぶん時期が冬で2月頃だったから、みかんだと思うんだけどね(笑)。でも、その後にオニギリが出てきたのかもしれない。教授はみかんだと言い張ってますけど(笑)。

――時期的に考えると“みかん説”が有力そうですね。1978年は楽器やレコーディング環境というのはどのような感じだったのでしょうか。

 KORGから4VOICEのシンセサイザー「PS-3100」が出てきて、このアルバムではめいっぱい教授が使用してくれていますね。このアルバムではまだRolandのMC-8(世界初の本格的デジタルシーケンサー)はまだ使用はしてなかったですね。教授は『千のナイフ』では使っていたけどね。

――世界を見渡しても使っている方は全然いなかったようで革新的な出来事ですね。

 クラフトワーク(ドイツの電子音楽グループマルチメディア・エレクトロニック・プロジェクト)とかいましたけど、そういう感じではなかったから。

――その過渡期の中でシンセと生を駆使した今作が誕生したわけですね。

 でも、このアルバムは変わっていますよ。シティポップ路線的な言われ方もしているけど、良く聴くとそうでもない、カバー曲の選び方もおかしいし(笑)。今ではシャンソンの「C'EST SI BON」をレゲエでやってみようなんて、自分でもどこから出てきたアイデアなのかなと思いますから。あとドメニコ・モドゥーニョ(伊・歌手)の「Volare」もなぜ選曲したのか覚えていなくてね(笑)。おそらく映画に影響されたんだと思うんだけど。

――フランスなど、当時ご興味があったのでしょうか。

 高校生の時に色んな映画を観ていました。その時にアメリカン・ニューシネマとか出てきていたんだけど、僕の中では圧倒的にクロード・ルルーシュ(フランス・パリ出身の映画監督)の作品『男と女』とか好きでした。『Saravah!』というタイトルも『男と女』のなかでピエール・バルーが歌っていた「Samba Saravah」からきてますから。あと、アメリカではバート・バカラック(米・作曲家)のサントラとか聴いてました。映画音楽ではクロード・ルルーシュとバート・バカラックが僕の中では大きいですね。(※編注=アメリカン・ニューシネマとは1960年代後半から1970年代にかけてアメリカで製作された、反体制的な人間(主に若者)の心情を綴った映画作品群を指す日本での名称)

――フランス映画はシュールで高尚なイメージがあって、とっつきにくい感じがあるのですが、お若い時から他の人とは違う感性を持っていらしたんですね。

 相当ませていたんだと思いますよ。あと、ミシェル・ボワロン監督の『個人教授』は最高にいいですね。それに影響されて自分が通っていた立教高校まで、主人公のルノー・ヴェルレー(仏・俳優)がパリで乗っていたリトルホンダという原付きバイクを買って登校してました。買った状態だと買い物カゴが付いてるんだけど、それを外してルノーの真似をして、そこに教科書を挟んでいましたね。

――おしゃれですね。さて、当時ものと言えば今回マルチテープが保存状態が良いものが見つかったとのことで、ボーカルを再録することになったわけですが、当時のものですと保存状態は悪いのが当たり前だったりするのでしょうか。

 保存状態もそうだけど、そもそももうないこともあります。ほとんど破棄しちゃってるんじゃないかな。細野さんも昔の24トラックのマルチテープ探してるみたいなんだけど、「ないなあ」と言ってましたから。

――アナログといえば、今回アナログ盤もリリースされます。もともとアナログ盤としてリリースされていた作品でもあるので、アナログでも聴いて欲しいと思いました。音もめちゃくちゃ良いですし。

 レコードをカッティングする時に、エンジニアの武沢(茂)さんが、最高の音だと言ってくれていたみたいなんですよ。おそらく当時の録音物の中でも良い方だったんでしょうね。

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