成底ゆう子「ダイナミック琉球」が応援歌に使われる理由を探る
INTERVIEW

成底ゆう子


記者:編集部

撮影:

掲載:18年08月08日

読了時間:約13分

 7年前に発売された楽曲が今、応援歌として意外な広がりを見せている。楽曲は、沖縄・石垣島出身の歌手、成底ゆう子が歌う「ダイナミック琉球」。昨年、沖縄県内の高校バスケ大会で前原高校の女子生徒が応援合戦としてその曲を歌った。その様子がYouTubeに投稿されると瞬く間に広がり、夏の甲子園大会で応援歌として使用する出場校が増えた。成底本人も「びっくり」と驚きを隠せない。歌詞には「応援」に関する言葉が出てこない。それなのになぜ応援歌として使用されるのか。そこには楽曲が持つ力がある。それは何だろうか。成底への単独取材を通して探ってみたい。【取材・撮影=木村陽仁】

甲子園の応援歌に使われる理由

(記者)甲子園でも応援歌として使用する高校があり、盛り上がりを見せています。この状況は想像できたのでしょうか。

 成底「いや、びっくりです。7年の歳月を経て甲子園の応援歌になるというのは想像していませんでした」

(記者)最初に聴いた印象では溢れ出るエネルギーを感じましたが、何度も聴くと涙がこみ上げてきます。

 成底「それはこの曲が持つパワーだと思います。胸の奥から沸き起こる何かが起きてきて、それが最後に浄化されるような、そんな歌だと思っています」

成底ゆう子

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 そもそもこの楽曲は、2008年に沖縄で、平田大一さんが総合演出を務める現代版組踊(くみおどり)絵巻『琉球ルネッサンス』のテーマソングとして作られた楽曲。平田さんが作詞を手掛け、作曲はプロデューサーとしても活躍するアーティストのイクマあきらさんが担当した。

 組踊は、琉球王国時代の沖縄で生まれた歌舞劇で、現代版組踊はそれをベースに「演劇」「舞踊」「音楽」の要素を組み込んだもの。現代版組踊推進協議会によれば1999年に沖縄県うるま市での「肝高の阿麻和利」初演をきっかけに誕生した。

 『琉球ルネッサンス』のテーマソングとして作られた「ダイナミック琉球」は、アカペラで<海よ 祈りの海よ 波の声響く空よ 大地踏み鳴らし叩く 島の太鼓(てーく)ぬ響き>と謳うところから始まる。歌詞には応援という言葉はないが、「海」「風」「島」「太陽」と沖縄の土地を連想させる言葉が並び、土地と共に生きていく人々が思い浮かぶ。

 そのアカペラの箇所を、高校生が一人で歌いあげているところにも反響を呼んでいる。

 成底がこの曲と出会ったのは、石垣島を舞台にした現代版組踊『オヤケアカハチ』の公演だった。「ダイナミック琉球」をそのまま使うこととなり、平田さんからゲストボーカルとしてオファーを受けた。当時の印象をこう振り返る。

 「男の人が歌っている音源を聞いた時は、力強い歌詞ですし、エイサーをやっているような男っぽい曲でした。声楽出身の私には合わないのでは、という不安もありましたが、いざ舞台で歌ったら雷で打たれたような衝撃がありました。曲が持つ力が会場を一つにするんです。その感動が物凄く体に響きました」

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 石垣島から出たくて18歳で上京。音楽大学で声楽を学ぶもイタリアで挫折。その後はインディーズで活動していた成底にとってこの曲に出会たことは、彼女自身大きかったという。

 「島が嫌いで上京したんですが、一方で私は『島人』(しまんちゅう)としてどうなのかなど、私自身もがいていた時にこの曲に出会えて。この曲から『あなたは島人なんだよ』『あなたのままでいいんだよ。誇りを持って歌い続けなさい』と言われたような気がして、その日からこの曲は私の応援歌だと思うようになりました」

 それがきっかけで彼女の歌唱力が認知されるようになり、同年には日本テレビ系『誰も知らない泣ける歌』で、自身作詞作曲の「ふるさとからの声」が紹介され、俳優の森繁久彌さんからは「21世紀を託した歌姫」と称された。その曲で2010年にはメジャーデビュー。2011年7月リリースのアルバム『宝~TAKARA~』にこの「ダイナミック琉球」を収録した。

 「アルバムのタイトルは『宝』です。この曲は私の宝なので『カバーさせて下さい』と懇願しました。ミュージックビデオも撮らせて頂いて…。それが7年の歳月を経て甲子園の応援歌になるというのは想像していなかったです」

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