歌手のLinolino(リノリノ)。音楽をやろうと2016年に熊本から単身上京した。日本武道館でのライブを夢に歌い続ける。先月25日に発売されたコンセプトEP『SEKIRARA』には彼女の決意表明とも言える2曲が収録されている。彼女にとって音楽とは何か。【取材=木村武雄】
「音楽をやらなければ生きている意味がないと思っています」
そう語る目に力がみなぎっていた。
熊本で生まれ育った。音楽はもともと好きだ。高校時代にはバンドを組んだこともある。憧れはLiSA。福岡などで行われたライブに観に行っていた。転機が訪れたのは2015年。LiSAの2度目の日本武道館公演。それまで東京は怖いものだと思っていた。
「私は田舎で生まれ育ったので地元から出るのも怖かったですし、ましてや東京。大都会に一人で行けるとは思ってもいなくて」
意を決し向かった日本武道館。LiSAの音楽を全身で浴びた。自然と流れる涙。終演を告げるアナウンス。このとき思った。
「私もここで歌いたい、音楽をやりたい」
東京で活動するために必死で働き、貯金した。そして翌年、単身上京した。しかし、夢見た音楽活動は順風満帆なものではなかった。応援してくれた人たちも次第に離れていった。その中には家族もいた。
「応援してくれたけど、友達も家族もどんどんいなくなって、今は疎遠になっています」
それでも歌い続けている。新たな出会いも生まれた。
「支えてくれる人を幸せにしたいという気持ちと、自分の人生は自分だけのものだから後悔しないようにしたいという思いがあります。音楽を続けていくことが自分であり、音楽をやっていなければ生きている意味がない」
ライブハウスや自主でCDもリリースした。しかし、コロナ禍で思うような音楽活動ができていない。それでもYouTubeなどを通して発信している。
紆余曲折の人生。それも全て音楽に繋がるときがある。
『SEKIRARA』に収録の「VICTORY MONSTER」「Heart Beat」には、這いつくばる彼女の生き様が込められている。
「自分の事を赤裸々に話していきたいと思いました。過去や夢、自分のバックグランドを明かすのは怖いし、勇気がいるけど、自分をさらけ出せば楽にもなれると思いました」
もう一つの曲「VICTORY MONSTER」の歌詞にはこんな一節がある。
<運命なんて覆せ>
<欲張って求めてよ何度でも>
「夢を語るとき『できるわけないじゃん』と言われることがあって。でもやってみないと分からないと思うし、たとえ否定されてもやり通した方がいいと思うんです。なんでもやってみて、全力で楽しむ方がいい」
力強い言葉が並ぶが、彼女が自身の歩みは間違ってはいないと肯定させたい思いも見え隠れする。
「もし、武道館でこの曲を歌えたら?」という記者の問いにこう答えた。
「嬉しいし泣いちゃうと思います。続けていくことや夢中でやってきたことは間違っていなかったんだな、と思えると思う」
人には様々な人生がある。歌うことも夢を見ることも止める権利は誰にもない。
その過程で体験する喜怒哀楽、すべての感情はやがて歌詞の養分になり、やがて曲という花を咲かせる。
生き様――。
彼女の生き様は何か。
「どんな事があっても、心が折れるような事があっても、私は折れてまた強くなれる。辛い時もあるけど、毎日が辛いわけではないですし、それを歌詞で伝えることで報われます。あの時に経験したことがいつか曲になり今に繋がっていて、いろんなことを積み重ねて私の音楽は出来上がります。私の歌を聞いて『よし!頑張るぞ!』と思ってくれたら嬉しいですね」
歌は彼女の人生の一部を切り取った自叙伝だ。
(おわり)
◆Linolino(りのりの)プロフィール 熊本県出身。2016年に上京して、下北沢を中心にライブ活動を開始。2018年4月に1stミニアルバム『Red Journey』を発売。2019年2月に『okonanno』、2021年2月に『MAGIC TIME』、2021年8月に『SEKIRARA』と配信EPをリリース。配信ライブ『Linolino Unplugged ONLINE Live〜Welcome to Lino’s toy box~Lv.4』を9月26日に開催。公式HP:http://linolino.jp/