INTERVIEW

堀家一希

「この経験はすごく大きかった」長編映画初主演作で感じたこととは


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年01月14日

読了時間:約6分

 俳優の堀家一希が、1月13日に公開の映画『世界は僕らに気づかない/Angry Son』に出演。本作で長編映画初主演を務めた堀家は、群馬県太田市に住む高校生の純悟を演じる。『世界は僕らに気づかない』は、群馬県を舞台に人種差別とジェンダーアイデンティティの両方を描く。

 脚本・監督は飯塚花笑が務めた。本作は2022年の大阪アジアン映画祭でワールドプレミアを迎え、“来るべき才能賞”を受賞。その後ニッポンコネクション(ドイツ)、ニューヨークアジアン映画祭(アメリカ)、香港レズビアン&ゲイ映画祭(香港)、カメラジャパン・フェスティバル(オランダ)など世界各地で高評価を得て日本公開となった。

 インタビューでは、映画『東京リベンジャーズ』で、パーちんこと林田春樹を演じたのも記憶に新しい堀家に、長編映画初主演への心境から、撮影の舞台裏、いま追求していることなど話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

こんなにも僕のことを思ってくれる人がいるんだ

村上順一

堀家一希

――2022年を振り返るとどんな一年だったと感じていますか。

 人との出会いに感謝した1年でした。以前もお仕事をしたプロデューサーさんだったり、新しく出会った監督だったり、今回の作品で知り合った人もいて、今年は自分と関わる人が増えたという印象があります。

――その中で気づいたこともありましたか?

 自分って意外と人から愛されているんだなって(笑)。僕は「自分なんか…」と思ってしまうところがあるのですが、すごく気にかけてくれる人もいるんです。例えば、プロデューサーの菊地さんは僕の最初のマネージャーさんで、僕が落ち込んでいる時も「飲みに行くか」と誘ってくれたり、助けられてばっかりで。こんなにも僕のことを思ってくれる人がいるんだなって。

――堀家さんが落ち込むのはどんなことがあった時?

 仕事がない時とか。僕はちょっとした嫌なことがあると、けっこう沈んでしまいます。例えば、パーちんを演じるにあたって15キロ体重を増やしたんですけど、友達に会うと太ったなと言われるんですけど、「気にしてるから言わないで」と思ったり。役のためにしたことではあるんですけど、やっぱり太るのは嫌ですから(笑)。

――さて、『世界は僕らに気づかない/Angry Son』は、長編映画初主演作品ですが、どんな思いがありますか。

 撮影期間中はすごく必死でした。この作品を良いものにしようという思いはあったのですが、主演だからとか、自分に対してどうとかは全くなかったんです。撮影を駆け抜けて、今わかったのはこの経験はすごく大きかったんだなということです。役に大小はないと良く言うんですけど、その役をどっぷりとやるというのは、役の厚み、深さが変わってくると言いますか。それを感覚として経験できたことが、すごく大きいことだと思っています。

――純悟はLGBTQや家庭環境など、色んな事に悩んでいる人物ですけど、この役と向き合うにあたって準備されたことは?

 どんな役でもそうなんですけど、僕の場合「難しいな」というところから入るんです。「無理かも」と思ってしまうこともあります。今回もそこから、純悟を形成しているものを紐解いていきました。その中でやっていたことは、LGBTQの方やフィリピンダブルの方に実際にお話を聞いたり、監督と話し合って進めていきました。準備期間はけっこうあったので、緻密にやっていくことで純悟という人間像が見えてきました。

――その中で一番意識していたことは?

 当事者の方々がどんな思いをもって、人と接しているのか、そういった感情面は探って行かなければと考えていました。監督が書かれた脚本自体が、気持ちの流れに沿ってセリフも書いてあったので、実際に演じてみても違和感はなかったです。

――自転車でぐるぐる回るシーンの表情も印象的でした。あのシーンはどんな気持ちで臨んでいたのでしょうか。

 自転車のシーンは気に入ってくれる方が多くて(笑)。父への手がかりを見つけたことへの執着だったり、暑いなかずっと自転車でぐるぐる回っている、その執着を伝えるチャンスは顔が見える瞬間がチャンスなんです。もう、岩谷(健司)さんの全身を見回すような目で、内心では「言わないと酷い目に合わせるぞ」くらいの気持ちでそのシーンは臨んでいました。

――そして、母親レイナ役のガウさん。すごい迫力があるお芝居でしたが、一緒にやられてみていかがでした?

 ガウさんがもともと持たれているエネルギーとか、声量はすごかったです。もう僕は負けていたと思うくらい(笑)。僕の中で生み出してレイナと対立していくんですけど、それをエネルギーとして返していただけるので、どちらかが浮くというのがなかったです。リアリティラインを一緒に作って下さったので、すごくやりやすかったです。

――ガウさんから引き出された部分もあったり。

 ガウさんの声の大きさや横柄な態度といったところから自然と動きがついたところもありました。僕が豆を投げつけるシーンがあるのですが、その場で思ったことをやっているだけなんです。

――アドリブ的なところもあったんですね。

 ちょこちょこそういったところはありました。それはやっぱりガウさんのお芝居から引き出されたところもあったと思います。あと、ベッドで暴れるシーンは台本にはなかった描写で、監督が純悟の部屋に入った後も撮ろうとなって追加されたシーンなんです。

実感を持って演じられる役者になりたい

村上順一

堀家一希

――この作品を一言で表すとどんな言葉が当てはまりますか。

 「愛」です。LGBTQやフィリピンダブルといったマイノリティの要素はあるのですが、根本にあるものはレイナ、母親に対する愛が欲しいということです。人間の根源的な欲求として誰しも持っている感情だと思います。それがあるから反抗が起きてしまいますし、好きなのになぜ好きになってもらえないのか、という感情は大事にしていました。

――どの行動や言動にも愛が起源となっているわけで。

 そうです。愛がないとただ怒っているだけの人になってしまい、どこか薄いものになってしまうと思います。この作品を観て切なくなってしまう人もいると思いますが、それは正解でムカつくけど嬉しい、嬉しいけど切ないみたいな、そういった複雑な感情が混ざっている作品だと思います。それは愛して欲しいという背景からくるものだと思いました。

――ちなみに堀家さん、撮影の中でのハイライトは?

 全力疾走したシーンです。何テイクも撮ったので印象に残っています。速度は40キロくらい出ていたんじゃないかなと。思っていたよりも僕の足が速かったみたいで、最初カメラマンさんが一緒に並走する予定だったのですが、車になりました。その中でちょっと速い、ちょっと遅いというのを繰り返して、最終的に40キロという速度で固定となったのですが、今度は僕が置いていかれてしまうという(笑)。

――それは注目ポイントですね! ところで、堀家さんが役者としていま追求されていることは?

 どんな役でも実感を持って演じられる役者になりたいと思っています。例えば、誰かを失ったとか、殺人犯の役とか、当事者の持つ感情と言いますか、そういったものを実感できる役者です。

――それをできるようになるには、どんなことが必要なのでしょうか。

 色んな経験を積むことかなと思っています。でも、犯罪者の役は実体験することはできないじゃないですか。なので、それに近い感覚のものを自分の中から引き出せる練習が必要だと思っています。

――最後に、この映画を楽しみにしている方へ一言お願いします。

 純悟はLGBTQ当事者だったり、フィリピンダブルなど色んな要素がこの映画には入っているのですが、先ほどもお話したように根源にあるテーマは愛です。誰しもが思ったことがある感情が入っているので、色んな人に楽しんでもらえる作品だと思います。ぜひ劇場でご覧いただけたら嬉しいです。

(おわり)

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