復讐とは女一人で仕事に生きてきたことの誇り
──「Heart of Grace」という曲は、アルバムタイトル『Gracia』と通じる“Grace”という言葉が使われていますが、アルバムのテーマ曲的な感じでしょうか?
そういう意味合いはありませんが、タイトルの『Gracia』に結びつくようなものも入れたいと思って、ここで“Grace”という言葉を使いました。
──歌詞は、戦士の意志を歌っている感じでしょうか。
どうしてもそういうものになりますね。生きることに対して真摯に向き合っていくことは、イコールではないけど、何かと戦うことと似ています。そこにおける精神は、優美であり高潔でもありたいと願います。
──それはボーカリストとしての、浜田さんが根底に持っているものですね。
それもありますけど、どこか今の日本に対するものと言いますか…。そういう高潔な魂、民度と言いますか、それはもともと日本人が持っていた美徳で、世界に誇れるものだったと思います。しかし時代の移り変わりによって、「それが日本人だったはずなのにな〜」と、ちょっともやもやとした気持ちにさせられるところがあって。
──ずっと海外で活動してきた上で、感じたことなんでしょうね。
そうですね。だからどうしたというものでもないのですが、音楽という面では、日本も海外もそれほど大きな違いはないと思います。だから音に対してどうというのではありませんが、それに対する姿勢という面、そして外国人とのお付き合いにおいても、日本人としての美しさをいつも持っていたいと思っています。そういう気持ちを持って、外国のミュージシャンとコラボレーションしているのは確かなことです。音楽については同じ目線で、海外の有名ミュージシャンと一つの作品を作るために、アイデアを出し合いながらやっている。そこで難しさを感じるようなことは何もないですし、大きな違いは感じません。
ただ、私の作品には大勢のミュージシャンが参加してくださっていて、いろんな個性を持ったミュージシャンたちを一つの作品の中で、いかにそれぞれの持つ最高のプレイで昇華させてあげるか。それがプロデューサーとしての手腕だと思って、いつもやっています。
──この『Gracia』は、35年のキャリアの中でどんな作品になりましたか?
今の等身大の自分と、これまで積み重ねてきたノウハウをすべて凝縮したアルバムができました。ぜひたくさんの方に聴いてほしいです。
──ちなみに、昨年SNSで「私を追い立てるもの、それはいつも自分への復讐なのかもしれない」とコメントされていましたが、復讐と言うのは…。
取材するみなさん、必ずそのことについて聞かれるようになってしまって。ああいうコメントをSNSで発信すると、みなさん驚かれるんだなと、とても勉強になりました(笑)。
私は歌詞を書いている人間でもあるので、ドキッとするような言葉を使ってファンの方にメッセージするのが私のやり方で、前からそうなんです。書いている気持ちのベーシックに流れているものは嘘ではないですけど、そういう一貫で書いたものでした。
上手くは説明できないのですが…女一人で仕事に生きてきたわけで。それに対しては、誇りみたいなものと、すべてを背負ってやっていくんだという強い意志みたいなものがあります。でもそれとは別に、女性としての幸せもあるわけで、その道を裏切って生きてきたと言うか。そういう生き方をしてきた自分に対する、何らかの復讐みたいな気持ちが、音楽の道で生きていく方向へと、さらに自分を駆り立てているといった感じでしょうか。
──選ばなかったもう一つの道を後悔しないためにも、選び取った道により誇りを感じたい、と。一つを選ぶために何かを諦めたと言うと違うのかもしれませんが、そういうことを復讐と表現していたわけですね。
単に自分の中の言葉遊びの一つですね。おっしゃる通りで、でも“諦めた”という言葉を使うのは、格好悪いじゃないですか。それを別の言葉で言い換えて、自分の生き様みたいなものを表現したくなることが、たまにあるんです。
──女性としての幸せを選ぶ道もあったわけで。
これまでの人生で、何度かそういう岐路に立たされる瞬間がありましたけど、その都度あえて今の道を、自分は選んできました。それだけのものを、音楽に感じているのだと思います。私が歌うことを通じて、みなさんの心に何かを残す役目を負っている気がするのです。そのときはまだ言葉にできませんでしたけど、何かしらの使命感や天命のようなものをどこかで感じていたのだと思いますね。
──では最後に、ライブについて。10月から、『The 35th Anniversary Tour “Gracia”』を開催。
今回は、長年ファミリーとしてやってきたサポートバンドを一度解体して、新たな気持ちでメンバーを人選させていただきました。新体制の、世代の垣根を越えたコラボレーションになります。きっと新鮮なものを感じていただけると思います。今年のツアーはソールドアウトとなりましたが、来年早々に予定されているコンサートで、たくさんのみなさんにお目にかかりたいと思います。楽しみにしていてください。
(おわり)