言葉、サウンドで表現する映画のような世界観
<YTとJun Inoue、そしてGin Kitagawaという同級生が、氷室京介を軸に集まり、そこにTesseyも加わり、更に今回はCharlie Paxsonもゲストで参加。それぞれが才能を持ち合わせるなかで、氷室京介から多くを吸収した“神童”たちが今、『IF』という作品を生んだ。この作品には、氷室京介がライブ活動休止前に歌った新曲「Mystic Beauty」「Star Fire」や、YT自身が歌う楽曲、そしてGin Kitagawaが歌った楽曲が収録されている。そして、前記の「Mystic Beauty」「Star Fire」は全英語詞。全英語詞を歌った氷室の曲は2006年の「Pain」「Miss Murder」などと限られており、貴重ともいえる。そこに何か狙いがありそうだ>
――ボーカリストはどのように決めたのでしょうか。
YT 初めは僕も歌うつもりはなかったんですよ。でも、氷室さんに言われて「頑張ります!」となったんですけど。
Jun Inoue 初めに「Bloody Moon」と「Play Within A Play」という2曲(いずれも氷室歌唱曲)があり、更に氷室さんに歌って頂いた曲があって。そこにYTの作った6曲が入って、GODBROTHERの曲が2曲という感じでアルバム流れが出来ました。
――アルバムのタイトルが『IF』ということで、テーマは「非現実」ということですが、このテーマにした経緯は?
YT GOSPELS OF JUDASとして曲を書く時のイメージが、初めから「近未来」としてあったんですね。キラキラしたものではなくて、SF映画のような少し現実味のある世界観と言いますか。
Jun Inoue 「IF」と決めたのはYTなんですけど、今ある現実って、いろんな人が決断をしてきた結果として、あると思うんですね。それで、もし5分前の決断がなかったら今はどうなっていたんだろう、ちょっと違う世界があり得たんじゃないかと…ということをYTと話してはいましたね。
――1作品を通して、リスナーに感じて欲しいものはありますか。
YT 1枚を通して見えて来る、映画の様なストーリーはあると思います。
Jun Inoue 「音楽でどこまで表現できるか」ということは、DiGiTRONiXの頃から氷室さんに与えられた命題みたいなものなので、音と歌詞でどれだけ物語が作れたかは感じてもらいたいですね。
――以前、雑誌のインタビューでYTさんはお兄さんの影響でギターを始められて、当時『スター・ウォーズ』を観て映画音楽を作りたいと思われたと語っていますね。
YT 兄がヴァン・ヘイレンの音源を「これ世界一のギタリストが弾いてるから」と持って来て。それを聴いてぶっ飛んで「ギターやろう」と。(『スター・ウォーズ』シリーズなどの音楽を手掛けている)ジョン・ウィリアムズさんはコンポーザーとして凄い好きなので。『スター・ウォーズ』のあのオープニングで鳥肌が立って、「こういうのやろう」と思いました。
――その想いがずっとどこかにあったわけですね。
YT そういうのはずっとどこかにあると思います。
Jun Inoue YTは「オーケストレーションやりたい」というのは19歳の時から言っていましたね。
――この作品が生まれた脈絡みたいなものが見えた気がしますが、この作品を聴いた時に、1曲目のインストナンバー「Nexus -Overture-」から惹きこまれる感じで、映像が目の前に広がるような映画作品だなと感じました。氷室さんが歌う新曲の歌詞が全英語なのですが、意図みたいなものがあったのですか?
Jun Inoue あの2曲は、GODBROTHERのGinが歌詞を書いたんですが、初めから氷室さんが「英語で歌う」という指定がありました。
――勝手な解釈なのですが、氷室さんがボーカルを務める曲は今作のキーとなっていて、神がいて「人間とは何ぞや」ということを作品を通して伝えているのではないかという気がしました。そして、肝心な部分はすべて英詞で書かれているのかなと。それを氷室さんが歌うことに意味があるのではないかとも。
Jun Inoue 素晴らしい解釈だと思います。あの2曲を軸にして作られていったことは確かです。
――曲順はアルバムにとって重要なことですが、とりわけこの作品についてはかなり重要であると感じますが、どのように決められたのでしょうか?
YT 「Mystic Beauty」と「Area 51」は始めの方に来るということは何となく決まっていて、歌詞とかできてまた多少の入れ替えはありましたけど。
Jun Inoue 「Area 51」はもう最初からタイトルが付いていて、その言葉を聞いた時に「どういう場所だろうと想像して。環境破壊で地球に人間が住めなくなって、火星に移住するとか『ガンダム』で描かれているスペースコロニーみたいなそういう場所を思い浮かべたんです。そこで歌詞には主人公がいるんですけど、「Pris‘ Dream」が別れの話で、「White Moon」がその前の話という感じでちょっと時間をさかのぼるんですけど、そういう話を展開しました。「Area 51」でまず場所を確定して、先程おっしゃられたように英語で一本筋を通したというか。
――「Silent Train」とかのタイトルもお洒落ですよね。タイトルが先に決まっていたとおっしゃいましたが、タイトルはどのように決めているのですか。
YT 曲を書く時に絶対タイトルは付けるんですよ。それが残ろうが、残るまいが、僕にとってはタイトルがあってイメージが形になっていくんです。何かしらイメージが湧いたらタイトルを決めるんです。そこから深めていく感じで。
――作品をつくるときに環境の変化など何かしら動機があると思うんですけど、その辺りはいかがですか。
YT うーん。どういう時に生まれるか…そういうのは言葉にするのが難しいですね。「Area 51」はもっとオルタナティブ・ロックみたいな曲だったんですけど、あの曲を作った時は“隔離された場所”というイメージが出来上がっていたんです。それで破壊的な、オルタナティブなアレンジにしたんです。でも、GOSPELS OF JUDASでやった時に合わない気がして。それでTesseyさんにアレンジをお願いしたら、想像以上のドンピシャなものが返って来て。
音楽と真っ向勝負
――Charlie Paxsonさんがドラマーとして参加されていますよね。彼のドラミングを観た時、音の迫力やグルーヴが凄まじいなと感じました。彼の印象は?
YT そうですね、グルーヴ凄いし、歌を支えてあれだけ疾走感を出せるというのは。テクニックはあるけど、それを出すより曲を如何に良くするかということに重きを置いていますし。
Jun Inoue 良いドラマーの条件として、音がでかいということ、音が緻密ということが挙げられると思うんですが、彼にはどちらも備わっていますよね。ペダルから足がはみ出てるんで(笑)。ドスッってドラムが破れるんじゃないかと心配なくらいのパワーで歌を疾走させますから。
――それぐらい凄いんですね! 収録曲にある「LIAR~世界中の哀しみ集めて~」の歌詞は、進むにつれて感情が荒くなっていく様に感じました。そういう意図はあったのでしょうか。
Jun Inoue 感情が荒くなったかは分からないですけど、主人公は年齢が若くなくい設定なので潔くなっていく過程は反映されていると思います。
――物語という話もありましたが、全体を通しての主人公がいますか?
Jun Inoue 「Area 51」でみんなが脱出していく中で残る男が主人公としてイメージされていると思います。
――やはり映画ですね。Interludeも場面転換という捉え方でいいですか?
Jun Inoue そうですね。「Nexus ~Overture~」から「Area 51」までが第一幕ということなので。
――先ほど氷室さんはコンマ何秒単位でこだわるという話がありましたが、今回の収録曲で、氷室さん以外の曲もそういう緻密なところまでこだわりましたか?
YT タイミングというか、グルーヴは根本的に大事なことなのでこだわりました。
Jun Inoue ボーカルを聴きながら、まずドラムを入れていくんですけど、そのタイミングは凄く細かいところまでこだわっています。
――別のインタビューで、YTさんは「グルーヴが大事」ということをおっしゃられていたんですが、やはりグルーヴが核となっているのでしょうか。
YT そうですね。グルーヴしてないと、人の心も身体も動かないし、グルーヴはすごく重要だと思います。
――サウンド面でのこだわりもそうですが、歌詞についてはいかがでしょうか? 環境が作用するのか、先ほど音が求める言葉という話がありましたが。
Jun Inoue 僕の場合は日常と一度切り離さないといけないので、日常でやらなきゃいけないことを取りあえず全部やります。何もやらなくていい状態になって初めて曲ができる環境になるので、音楽で心身を満たして何を呼んでるかということを理解することに集中します。
――どのくらいの時間をかけるんですか?
Jun Inoue 10分やって駄目だったら一度諦めます。僕の感覚では、それ以上は無理して出した言葉になってしまうので。
――文章とは違い、歌詞はどうしても抽象的なものになると思います。受け手によっても意味がずいぶん変わってしまうと思いますが、そこの意図はいかがですか。敢えて抽象的にするのか、補足的な言葉も選ぶのか。
Jun Inoue 自分の為だけに書いているものではなく、リスナーがいて成り立つものなので、プロとして誰かが自身と重ねられる部分がないといけないと思っています。だから、そこの重ねられる部分を抽象的な言葉にして、具体的な言葉はそこ以外で使うようにしています。一定のリアリティーがあることがいい歌詞だし、あとはサウンドとのブレンディングですかね。
――崩したくない言葉もあると思います。流行りの言葉を入れる必要性など、そこの葛藤は?
YT 僕は、歌詞は任せちゃってますね。ギターで表現する方が楽なんで、歌詞はやらないですね(笑)。
Jun Inoue 「Cryin’with my guitar」という曲は、ギターソロが言葉以上に語り掛けるものだったのでそこから逆算して歌詞を書きました。YTがこのギターソロ前にどういうことを語るのかを想像して。だから、アルバムのストーリーからは少しはみ出したものになっていますね。YTのソロは言葉よりも雄弁なのでそういうところも聴いて頂ければと思います。
YT 表現方法というか、身体の一部という感じですね。ないと落ち着かないですね。
Jun Inoue YTはずっとそうでしたね。19の時からギターが身体から伸びてる感じでした(笑)。大抵の人は腕から下で演奏すると思うんですが、YTは肩で弾いているんで今度ライブの時はその辺りも見て欲しいです。本当に肩で弾いている人は少ないので。
――お二人は音楽シーンの中でもトップを長い間走られてきていると思います。音楽シーンに期待してることや義務みたいなものは感じていますか?
YT 音楽シーンがどうということは、僕はよく分からないですけど、やっぱり良い作品を作っていくということでしょうか。あまり器用な方ではないので、それくらいしかできないというのもありますが。あとは、僕の場合はギターを弾くということですかね。
Jun Inoue YTの言う通り、僕も音楽に正直にならないといけない時代が来てると思います。僕も今まで色んなアーティストさんの曲を作ってきてその時どきで真剣に向き合うようにしてきました。音と正直に向き合って、この音が呼んでいる言葉は何か、この言葉が呼んでる楽器は何かということに真剣に向き合うことが重要だと思います。
もちろん好き嫌いはあると思いますし、ジャンルによって嫌いだなと思われても、何かリスナーの心に熱量みたいなものを残したいなと思います。それは氷室さんがDiGiTRONiXで教えてくれたことでもあります。何の駆け引きもなく音楽と真っ向勝負するということですかね。その片鱗しかまだ見えていませんが、この作品ではそれを精一杯やったつもりです。
(おわり)
作品情報
GOSPELS OF JUDAS (ゴスペルズオブジュダ)
1st ALBUM 「IF」 発売日:2018年7月18日 価格:3,240円(Tax in)
参加アーティスト:YT、氷室京介、TESSEY、Charlie Paxson、GODBROTHER
収録曲
1. Nexus 〜Overture〜
2. Mystic Beauty
3. Area 51
4. Interlude 1
5. Pris' Dream
6. LIAR 〜世界中の哀しみ集めて〜
7. Bloody Moon
8. Artificial Selection
9. Star Fire
10. Interlude 2
11. White Moon
12. Silent Train
13. Tears in Rain
14. RAIN
15. Play within a play
16. Cryin' with my guitar
ライブ情報
GOSPELS OF JUDAS LIVE 2018 FINAL SUPER
「AREA51 -REINCARNATION-」
9月2日に東京、9月8日に大阪でライブが決まっているが、ドラムにCharlie Paxsonを迎えたスペシャルライブが決定した。
日程:2018年9月15日(土)
会場:渋谷CHELSEA HOTEL
開場18:30 / 開演 19:00
日程:2018年9月17日(月祝)
会場:代官山UNIT
開場16:00 / 開演 17:00
関連リンク
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