本の詰め合わせみたいな感じ、杏沙子 日常から紡ぐ物語と音楽
INTERVIEW

本の詰め合わせみたいな感じ、杏沙子 日常から紡ぐ物語と音楽


記者:榑林史章

撮影:

掲載:18年07月11日

読了時間:約11分

 シンガーの杏沙子が11日に、メジャーデビュー・ミニアルバム『花火の魔法』をリリース。2016年から活動をスタートし、インディーズ時代には3曲のMVを動画サイトのオフィシャルチャンネルにアップして、総再生回数が500万回以上を記録。音楽投稿アプリで10代を中心に女性からの圧倒的支持を得て、メジャーデビューの切符を手にした。どこか少し懐かしくて、耳馴染みのいいポップな楽曲のルーツとなっているのは、「地元の鳥取と母親です」と話す彼女。同作の制作裏話と、彼女の音楽のルーツに迫った。【取材=榑林史章】

『花火の魔法』は、5冊の本の詰め合わせ

『花火の魔法』ジャケ写

――杏沙子さんは、「道」「アップルティー」「マイダーリン」といったMVの動画サイトでの総再生回数が500万回以上と、インディーズ時代から話題でした。MV撮影のときには、どんなことを意識していましたか?

 歌詞の世界観を伝えることを大事にしています。「マイダーリン」も「アップルティー」も、歌詞の世界観に没入して頂けるようにと思って作っていて。例えば「アップルティー」は学校を舞台にした恋について歌っているので、その空気感も伝えたくて、実際に学校で撮影をさせて頂きました。一方「マイダーリン」にはメリーゴーラウンドが出てくるのですが、メリーゴーラウンドは「マイダーリン」の歌詞の世界への入り口となる乗り物の象徴として登場させ、より世界観をイメージしてもらいやすいようにと撮影しました。500万回と言うのは、それだけの方が観てくれているということなので、本当にうれしいです。

――満を持してメジャーデビューですが、何か変化はありましたか?

 これまでは、CDを自主制作してライブ会場でのみ販売していましたが、全国のみなさんに私の音楽を手にしていただけること、より多くの方に聴いてもらうきっかけをいただいたことがとても嬉しいです。

 このミニアルバムは夏をテーマに、物語もカラーも違う5曲を収録していて、5冊の本の詰め合わせみたいなものになっています。幅広い世代の方に聴いていただいて、「2018年の夏はあのミニアルバムを聴いていたな〜」と思い出してもらえるような、それぞれの夏の思い出と一緒にしまってもらえる作品ができたと思っています。是非たくさんの方に聴いて頂けたら嬉しいです。

――まず表題曲の「花火の魔法」は、どういうきっかけで生まれた曲ですか?

 友だちと6人くらいで花火をした経験を元に書いています。歌詞に出てくる花火は手持ち花火で、棒状の先からキラキラした光が出ているのが、魔法の杖みたいだなと思って、その魔法が好きな人にかかって恋が実ったらいいなと。友だちと花火をして、そのなかに気になる相手がいるという経験は、わりと多くの方がしているんじゃないかと思います。

――場所は海ですか?

 いえ、今回私がイメージしていたのは川なんです。花火大会で浴衣を着て、好きな人と花火を見るシチュエーションの曲はたくさんありますけど…。この曲は、川辺の高架下みたいなところで、部屋着みたいな格好のまま集まって花火しているイメージです。それを、ひとつの小説を作るような感覚で、1曲にギュッと詰め込みました。

――また「マイダーリン」は、リレコーディングバージョンを収録しています。インディーズ時代のバージョンとは、具体的にどんなところが変わりましたか?

 メリハリのあるパキッとしたサウンドにしたくて、トランペットなどの管楽器が入っています。インディーズのときはフワッとしていて、今回のバージョンはコントラストがはっきりして、より色をしっかり出している感じです。インディーズのバージョンを発表して以降、「もうちょっとこうしてみたい」というイメージがあって、やってみたいことも増えていたので今回チャレンジしました。毎回その時のベストは尽くすけど、アイデアは尽きないので、それを試していくのが楽しいです。

――歌詞は、夢の世界に王子様が迎えにきてくれる…みたいな感じですね。

 私は、生活の中で物語の入り口みたいなものを探すのが好きで、気づけば、日常と非日常の間みたいなものを歌詞にしていることが多いです。でも完全なおとぎ話ではなくて、普段の日常と重ねられるような。「マイダーリン」も夢と現実を行き来しているような歌詞なんです。

――杏沙子さんの作詞・作曲による「流れ星」は、静かな部分からバンドサウンドになっていく感じが格好いいですね。

 これも実体験で、好きな人に会いたくて夏の夜に走っているイメージで作りました。切なさと疾走感を併せ持った曲にしたくて、鼻歌で作ったときから、疾走感があって、ギターの入ったバンドサウンドにしたいと思っていました。

――そのバンドサウンドは、ベースに沖山優司さん、ドラムに佐野康夫さんなど、参加ミュージシャンがすごいメンバーばかりですね。

 素晴らしいミュージシャンの方々とやらせて頂けたことで、自分だけでは気づかなかった楽曲の可能性を知ることができました。音楽的な部分でより幅が広がったのは、メジャーで制作させていただいたことの醍醐味だと感じました。

 楽器録りのときは、私も一緒にスタジオに入って歌わせていただいたんです。生の演奏と一緒に歌うことで、「ここはもっと、こう歌ったほうがいい」など、発見することが多いです。本番の歌録りでは、それを活かして録ることができました。それによって、生感やライブ感が出せたと思います。

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