SNSで書けない部分を描く、クアイフ 2018年のポップスとは何か
INTERVIEW

SNSで書けない部分を描く、クアイフ 2018年のポップスとは何か


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年06月13日

読了時間:約12分

 鍵盤を前面に出したポップバンド、クアイフが6日、1stアルバム『POP is YOURS』をリリースした。クアイフは森彩乃(Vo/Key)、内田旭彦(Ba/Cho/Program)、三輪幸宏(Dr)による3人組で、昨年11月にメジャーデビュー。この『POP is YOURS』が待望のメジャー初アルバムとなる。今回はそんなクアイフの3人にインタビュー。本アルバムに込めた意味や意図を聞いた。このなかで彼らは「SNSで書けない部分を歌詞にしないといけない」と語った。彼らがイメージする2018年のポップスとは一体何なのだろうか。【取材=小池直也/撮影=村上順一】

音楽好き以外に届けることの難しさ

森彩乃

――サッカーの応援ソング作りが皆さんの転機になったそうですね。

 (編注=Jリーグ「名古屋グランパス」のオフィシャルサポートソングに、2016~2017年「Don't Stop The Music」、2018年「未来emotion」が起用されている)

内田旭彦 それを担当した事がきっかけで、音楽好きではない人にちゃんと届く様な作品を作る難しさと価値を感じたんです。それがベースにあって、今回の作品を作りました。

 自分たちもその考えが深まっていく中で「言葉やメロディを伝える為に音楽的なツマミがゼロで良いのか?」というところまで考えたんです。でも、そうではなくて両方のツマミのバランスが良いバランスで成り立つ事で、音楽好きでない人に届くという目的が達成されるんだなと。そういう意味で『POP is YOURS』は音楽的なツマミを上げた状態で作り上げる事ができたかなと思っています。

森彩乃 「今までライブハウスに行った事がない」というサッカーファンの方が、ドキドキしながら足を運んでくれる事がめちゃくちゃ嬉しかったですね。それによって、普段音楽をあまり聴かない人にも届くものをより一層作りたいなと思いました。

 それと同時に私たちはライブハウスのシーンでずっとやってきたので、音楽的要素も絶対に必要。わかる人には、わかってもらえるポイントが散りばめられているアルバムになっています。

三輪幸宏 一番伝えたいのは歌なんですけど、インストで聴いても楽しめる、格好良いオケになったなと思っています。良いバランスで録れた1枚ですよ。

――作曲は内田さんが基本的にされているそうですが、3人で話合われたことなどは?

内田旭彦 1曲ごとにテーマをみんなで共有して作りあげていきます。ですが僕が曲を作ってバンドを通して、最終的にリスナーに伝える時に、僕のビジョンを忠実にやってもらうスタンスだと単純に気持ちや情報がろ過していくだけだなと思ったんですよ。それだと誰かとやっているという価値が下がっていくなと。

 会社でも上司が部下に指示を出すじゃないですか。その部下がまたその部下に情報を伝えますよね。それでもちょっとずつ情報は変わっていく。それと一緒でそういう風にするとバンドはつまらなくなるなと。だからこのメンバーでやっている事を掛け算にしなきゃいけない。なので今回は大きなテーマは皆で共有するんだけど、それぞれの解釈に任せるところも結構ありました。

――任された側としてはいかがでしたか。

三輪幸宏 ドラムのフレーズとかに関してはおおまかな設計図だけは作曲者が作ってくれたりはします。でも今回に限らず、今まで細かいアレンジは自由にやっていたなと思いますね。新作は目指すべきところの共有がしっかりできていたと感じました。

森彩乃 過去にも、私が作る歌詞、内田が作る歌詞、一緒に作る歌詞とパターンはあるんです。内田が作ってきた物に関しては、今まで飲み込むのに時間がかかったりしたんですよ。もちろんしっかり自分のものにして歌ってはいたんですけど、最近はすっと歌えるようになりました。

 それはやりたい事や、伝えたい事の共通認識がしっかりしてきたからだと思うんです。その上でどうプレイするか、どう歌うか。そこさえしっかりしていれば全然難しい事ではなかったんだなって。今では全部自分の中から出てきたんじゃないか、と勘違いするくらい全曲入り込めています(笑)。

 あと、これは私の性格の話なんですけど。感情移入がひどいんですよ(笑)。日常生活でも自分の話じゃなくても移入してしまうので、疲れるくらい。それって、歌に活かせるなと最近よく考えていて。自分の歌詞はもちろんですけど、内田の曲にどれだけ感情移入できるか。どれだけ本当の気持ちで歌えるか、自分がそれをできていなければ人にも届かないよなと思ってます。そういう意味で1曲1曲に入り込んでいますね。

――イタコみたいな感じですか。内田さんが降りてきてしまう様な?

森彩乃 (笑)。それこそ『POP is YOURS』、「クアイフが作ったポップソングはあなたのものですよ」とタイトルを付けました。色々な性格の人がいて、色々な仕事の人がいて、色々な環境、色々な人間関係でそれぞれ生きていますよね。でも共通する感動はどの人でも絶対あると思っているんです。

 真逆の人でも「ああいう経験した事あるよね」とか「こういう時はこんな気持ちになるよね」とか、共通部分は探せばあるなと。だから内田の曲でも「内田になりきる」のではなくて、彼の言葉に共感できるんです。まず自分が共感する事で、歌って届けた時に更なる共感を届けられる。だからまず私が共感できていないと、聴く人には届かないなと。

――共感の力をより音楽的に使える様になったと。

森彩乃 歌詞の書き方も人の感情により深く突っ込んだものになっているんだと思います。昔はもっと広いテーマで歌っていた曲も多かったですね。より人間の複雑な感情に突っ込んでいく曲が増えたので、そこに森彩乃という性格を活かすしかないなと。ライブも最近はそういう気持ちで臨んでいます。

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