夢は行動しなければ無と一緒、高橋優 歌は矜持ではなく生き甲斐
INTERVIEW

夢は行動しなければ無と一緒、高橋優 歌は矜持ではなく生き甲斐


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年06月08日

読了時間:約15分

メガネツインズのときはスイッチがオフになったことがない

高橋 優

――高橋さんは曲を作るのは早い方ですか?

 余談なんですけど『ガラスの地球を救え!』原作の手塚治虫さんは原稿書くのをよく遅れていたらしくて、“手塚遅虫”って編集の人に言われてたらしいんです。あんな天才でもそんな逸話があったとドキュメンタリー作品を見て知りました。ちなみに僕も曲を書くのは遅いです。“高橋遅虫”ですよ(笑)。

――それはギリギリまで悩むからでしょうか?

 悩む時間も長いし、自分の中でスイッチが入るタイミングがあって、そのスイッチが入らないまま曲が完成したことも今まで何回もあったんです。でも長くやればやるほど、そのスイッチの大事さに気付いてきて、パチーンとなったときって後で見て驚くくらい膨大な情報が書かれていたり、「この言葉自分から出てきたのか?」とびっくりすることがあって面白いんです。

 その“やる気スイッチ”を探しているみたいなことは毎回やっていて、それに時間がかかっていますね。メロディだけしかなくて、レコーディング当日までほぼ言葉はラララしかなくて、そのままバンドメンバーに録ってもらっている最中に、カフェで一人でパーンとスイッチが入って書き出して、夕方から歌い出して、みたいなこともけっこうありますし。

――近年恒例のメガネツインズ(高橋 優&亀田誠治)の楽曲も入っていますが、これはスイッチが入った状態で?

 メガネツインズのときはスイッチがオフになったことがないです。これほどスリルのあるレコーディングもなかなかないですけどね。レコーディングのときはだいたいもっと設計図があるんですけど。「こうなる」と決まっていてみんなスタジオに到着して、準備してしてきたものを表現して帰るだけなんですけど、メガネツインズに関してはレコーディングスタジオに入ってからみんなの準備が始まりますから(笑)。

――曲は準備してあるんですよね?

 僕の弾き語りの音源だけはあります。でも「この曲はこのままじゃないんです!」ということをその場で熱弁して。亀田さんが「マジで? そっちだった?」みたいな(笑)。

――面白い作り方ですね! 「メガネツインズのテーマ」は凄くキャッチーな楽曲ですよね。亀田さんの合いの手がまた良くて。

 それがメガネツインズの魅力になっています。亀田さんのベースはもちろんなんですけど、声が本当に愛おしい声でして。メガネツインズのレコーディングで何が一番幸せかって、ミックスのときに演奏と亀田さんの合いの手だけのカラオケバージョンが聴けることです。それが凄く贅沢なんです。亀田さんの「メガネ! メガネ!」と言っているのが裸で聴けるという。他では絶対歌わないですから(笑)。

――亀田さんは曲の中で「愛してる」とも言っていますね。

 言ってます(笑)。どんな言葉にするかそこも僕がディレクションさせて頂いているんです。

――突発的にやっているようで、緻密に作り込まれている?

 だいぶ緻密だと思います。あの作業は僕の34年間の音楽人生の中での総決算みたいなものを亀田さんのセリフに費やしていますから(笑)。

――それは凄い(笑)。ということはじっくり時間をかけて出てきた「愛してる」というワード?

 めちゃくちゃ考えましたね。でも、2分くらいで出てきましたけど(笑)。

――時間ではなく密度ですね。

 そうです。人間関係と一緒です。長く付き合えば良いというものではないですから。ライブも特にそう思っていて、ライブに来てくれる人って、友達とか恋人、家族という関係を超越すると思って接しています。それは時間の長さじゃないんだなと。その瞬間の、そのときの何かパーンと弾ける何かがあると思うんです。その密度で「愛してる」という言葉があります。この部分が僕は一番好きです。

――さて、今作には『僕らの平成ロックンロール2』に収録されていた「昨日の涙と、今日のハミング」のアコースティックバージョンが収録されています。

 「昨日は泣いていたけど今日は」というモチーフの曲なんですけど、もうすぐ平成も終わってしまうし、「平成ロックンロール」と歌っていた自分のCDシリーズもこれからどうなるか考えている部分もあるんですけど。

 平成が終わったときに、いつか平成が過去形になって、今で言う「昭和だよね」と言われるみたいに、巡り巡って「平成っぽくて良くない?」という風に言う日が来るかもしれないとなったときに、じゃあ平成が昨日になったときにどうだったとなったら、決してただただ明るく笑って過ごせる平成ではなかったじゃないですか? 凄く色んなことがあった平成だったと。僕個人的にそうだし、世間的にみてもきっとそうだし。

 変わりゆく中で「昨日の涙と、今日のハミング」という言葉は、今歌われるべき曲なんじゃないかという話をレコード会社の10年来のスタッフの人に提案されて。その人はアーティスティックというか、グサっとくることを言うような感じの人で、その人に意向に沿ってみようと思いました。

 僕も大好きな人なんですけど、僕以上に熱を持ってその曲を推してくれたことが嬉しかったし。“シングルの3曲目に今までやった曲を改めてシリーズ”みたいなのをここ何枚かやっているんですけど、その流れもあるし。「プライド」という曲で初めて高橋 優を知ってくれたくれた人に「昨日の涙と、今日のハミング」も新曲と思って聴いてもらってもいいから、今このタイミングで聴いてもらおうという思いで録ることにしました。

――改めて歌い直してみて感じたことは?

 2013年当時に歌っていたときは、もうちょっとネガティブだったような気がします。その当時の精神状態に比べると今の方が「昨日の涙」より、「今日のハミング」の方にフォーカスになっている気はしました。あの曲自体を既存の曲として少し俯瞰(ふかん)して歌っている自分がいたので、そこは個人的に嬉しいし、ライブで早くやりたいなという気持ちになりました。

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