伊東歌詞太郎(撮影=桂 伸也)

 シンガー・ソングライターの伊東歌詞太郎が初の小説『家庭教室』(KADOKAWA)を発表。その出版記念イベントが27日、都内でおこわれた。伊東はイベント前にマスコミへの囲み取材に応じ、小説執筆の経緯や物語の概要を明かすと共に、苦労した執筆の日々を振り返った。

 2012年からネット動画投稿を開始、注目を集めたのちに2014年にはメジャーデビューを果たした伊東だが、2016年より声帯結節により喉を患うことに。そして今年の1月に手術を実施、発声のできない期間に「まだ歌が歌えない状況の中、それでも何かを伝えたい…」という思いで執筆した物語がこの作品となった。出版された本は早くも売り切れが続出し、発売1週間で重版出来を達成した。

 大学生時代は、年間に約1000冊を読んでいたという「本の虫」である伊東は「それ(重版出来)が小説家にとっては重要なことだということは分かっていたし、この作品で僕が取れるとは思わなかったんです。だから嬉しいより驚きでしたね」と世間からの注目に驚きの表情を見せている様子。

伊東歌詞太郎(撮影=桂 伸也)

 また、喉の手術のために空けた1カ月で書き上げるというハイスピードで進められた本作。その理由として、もともと執筆前の打ち合わせで編集者と納期について話していたとき、その「1カ月間で」と答えてしまい、この期日で原稿を書く羽目になったことを明かしながら、執筆は「メッチャ必死でした」と回想。それでも「締め切りは守るもの」という自身の信念に基づいてその期間内での執筆を終わらせた。「編集者からは『これまで1カ月で執筆した人は見たことがない』と言われて。それ、早く言ってよって…」と苦心の日を回想した。

 そんな一方で、サイン会などで受け取った、手紙などによる好評な反応を受けたことを振り返り「やって良かった。こういうイベントは、ある意味答えあわせみたいなもの。大変な思いをしたことに対して、報われた気持ちになりました」とホッとした様子。

 本の内容は、プロローグ、エピローグを含み全部で7章に分かれた構成となっており、間の5章にそれぞれ別のテーマによって物語が描かれている。本の主題としては「大きいテーマとしては、メチャメチャ大きな言葉でいうと“社会貢献”なんじゃないかなと思います」と語る伊東は「本って僕の中では、疑似体験ができる。だからこういう経験をしたら、こういうことを感じるだろうな、ということを5つ考えたんですが、それを読み終わる前と後の自分で、誰か他の人に優しい気持ちを持つことができるようになってもらえれば、と思ったんです。それが社会に広がれば、みんな優しくなるわけだから」とその真意を明かす。

 さらに「まだまだ僕の頭には伝えたいテーマがいろいろあるので、それがある限りはシリーズ化していきたい」と創作意欲の程を明かした。また、執筆活動と音楽活動の違いについては「“言いたいことを言う”という最終的なゴールは変わらないけど、音楽とはプロセスが違うなと。音楽はずっとやってきたことなので、“このくらいのスピード感で”という予測はできるけど、小説は書けば描くほど全然先が見えない」と新たな挑戦に戸惑った様子を振り返りながら「苦労の度合いとしては100倍くらい違ったけど、芸術としては同じ、結果として誰かに何かを伝えるのは変わらないという答えあわせが、自分の中でできたと思います」と語った。

 また、「歌が歌えなくなったら、最悪はあきらめることも?」と問われると「それはあきらめが付かないんですよね。声が出なくなったら、僕は表現をすることをやめてしまうと思う」と語ったが、少し間をおいて「いや、でもどうだろうな…分からないですね。自分の人生のビジョンで、“声が出なくなる”というビジョンを持つことができないんです。医者は最悪のことを言うから、今回“一生声が出せなくなる可能性がある”とも言われていたんですが…絶対何とかなると思っちゃってたんです。例えば頭が良かったら、ミュージシャンになるのはどれだけ大変か、どれだけお金に苦労するかという未来が見えるはずなんです。でも僕はバカだから、そこまで考えずにここまできたんです。だから本当のところは、自分の声が出なくなったらどうなるかは…考えられない。だからその時に小説が書けるかも分からない」とコメント、今回の執筆で自身の様々な思いに触れたようだ。

 なお、このイベントは5月から6月にかけて全国11か所の書店でイベントツアーとして実施される。【取材・撮影=桂 伸也】

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