シンガーソングライターの伊東歌詞太郎が21日、埼玉県さいたま市の角川ドワンゴ学園N高等学校・大宮キャンパスで、特別授業をおこなった。高校での講義はこの日が初めてだという伊東は、自身の経験談を踏まえ「失敗しても次成功したら全てが成功になる」と述べるなど、2時間にわたり熱弁を振るった。

失敗談から得た“教訓”

 メッセージ性のある歌と歌唱力で若い世代を中心に人気を集める伊東。今年5月に発表した自身初の小説『家庭教室』(KADOKAWA・刊)はデビュー作でありながらも5万部を突破。11月末にも重版が決定している。

 今回はKADOKAWAが、『家庭教室』に込められた想いを、さらなる若い読者に伝えたいと企画した。

 デビュー以前は、塾の講師や家庭教師をしたこともある伊東。高校の教壇に立つのは初めてだが、緊張した様子もなく、柔らかみのある声で「僕は先生ではないし、専門はミュージシャンなので、不手際がないように頑張りたい」と挨拶した。

 特別授業のテーマは「実行教室 ~失敗しても一歩踏み出し続けるために」。伊東は「僕が“伊東歌詞太郎”になる前の方が今の君たちに刺さるようなことがたくさんあると思う」として、デビュー前のバンド時代などの失敗談などを明かしながら、それらの経験で学んだ「人生の教訓」を紐解いた。

 伊東がこの日、強調したのは「夢を持っていなくてもいい。もし夢を持っていたら諦めることはない。ただ、自分の心と体が耐えきれなくなったなら諦め時である。それまでは失敗してもいい。失敗しても次成功したら全てが成功だ」という趣旨のもの。

講義する伊東歌詞太郎

重版は勲章

 ネット時代の昨今は、様々な情報が手軽に入手できることから「売れるまでの大変な過程が事前に分かってしまい、ミュージシャンを目指そうという人が少ないのではないか」と指摘。対して、自身はそうしたことを考えずに、まずは行動という姿勢でその世界に飛び込んだと明かした

 デビュー前のバンド時代は詐欺に遭ったり、ライブ活動を積極的におこないながらも実らず解散してしまったという伊東。それでも「音楽を辞める」という選択肢はなく、聴いてもらう人を増やすために路上ライブという地道な活動をおこなったとを紹介。「足を止めて聴いてもらうこと自体が大変だった」と振り返った。

 生活費を稼ぎながら音楽活動の時間を確保するために塾講師をやったことも。そして、「一人ひとりに届けていく」活動が少しずつ実り、メジャーデビューも果たした。また、初の自著『家庭教室』についても、自らが出向き売り込みをおこなったという。

 しかし、声帯結節がみつかり、今年1月に手術。術後1カ月は声を出せない状況になったという。それでもタイミング良く出版社から執筆の話があり、その期間を利用して書き上げた。1日15時間をそれに充てた結果、それまで2.0あった視力は0.8まで落ちたという。

 刊行後は好評を集め、これまでに6度の重版が決定。伊東は「信じられなくて。何回重版かかるかは勲章みたいなもの。本好きだからその価値が分かっていて。皆さんのおかげ」と感謝した。

 また、アーティスト活動や執筆活動で大事にしているのは、直接会いに行き、感謝を伝えることだという。「僕はファンの人数を増やしていきたい。でも(直接感謝を伝える)このスタンスは変えたくない。この先も人の目を見て、心を通わせてやりたい」と語った。

「言霊」の力、嘘はつかない

 更に、これまでの活動のなかで実感しているのは「言霊の力」だという。

 「言ったことが自分に返ってくるし、実現もする。『夢を叶える』と言っている人は結構、叶っている。逆に『あいつむかつくよね』と言っている人はうまく行かなくなっている。魔術やスピリチュアル的な話ではなくて、短い人生ながらも色んな人を見てきてそう思う」

 その「言霊の力」を高めるためには「嘘をつかないことだと思う」とし、「嘘をつくことは相手を信用をしていないことでもあり、信用もされない。僕はボーカリストだから特にそう。嘘くさいと思われたら聴いてくれない。ステージでは絶対に嘘をつきたくない」と語った。

 失敗を繰り返しながらも諦めなかったのは「音楽が好きだから」という伊東。一方で、夢が持てないことへの理解も示し「夢は見つからなくても問題はないと思う。そもそもそう簡単に見つかるものではない。自分で自分の手で選んで、自分の手で捨てるしかない」と述べた。

 一方、夢を持っている人には「問題なのは夢をいつのタイミングで諦めるか、ということ。僕は音楽を辞めたい、と思った瞬間は1ミリもない。ただ、夢を追うために無理をしろ、ということではなく、負担に耐えられるか。一番大事なのは自分の心と体。キツイな、しんどいなというのが耐えきれず、これ以上やったらダメだと思ったら辞めて、別の夢を見つけよう。でもそれまでは誰かに諦めろと言われても無視してやった方がいい」と力説。

 更に、「失敗しても次成功したら、すべてが成功になると思う。だから心と体を大事にして頑張ればいい」とも語った。

講義する伊東歌詞太郎

歌唱でエール

 その伊東は、受講した学生に歌でエールを送った。路上ライブ時代に一緒にやったという柴田氏によるアコースティックギター伴奏のもと、まずは「さよならだけ人生だ」。伸びやかで澄んだ歌声で歌い上げた。

 そしてもう1曲。「不器用な人間を応援したい曲です」として「パラボラ~ガリレオの夢~」を熱唱。内にあるエネルギーを吐き出すかのように感情たっぷりに熱唱。学生も手拍子で応えた。

 繊細な歌声に対するエネルギッシュな歌声。両方併せ持った伊東ならではの歌声は、曲に込められたメッセージ性をより強いものにしていた。

 歌い終えた伊東は、改めて「やりたいことをやろう、地に足をつけて、学びたいことを学んで」と語り、締めくくった。

 特別授業を終えた伊東は、取材に応じた。2時間にわたり熱弁を振るったが「まだまだたくさん伝えたいことがある。自分の人生の5%しか伝えられなかった」と語った。

 なお、特別授業後の取材記事は別途掲載。【取材・撮影=木村陽仁】

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