人の中で生き続けていく曲を、戸渡陽太 自問自答から見えた光
INTERVIEW

人の中で生き続けていく曲を、戸渡陽太 自問自答から見えた光


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年04月26日

読了時間:約11分

 2016年にアルバム『I wanna be 戸渡陽太』でメジャーデビュー、“若きギター侍”との異名を持つほど、迫真のギタープレイでも注目を集めるシンガーソングライターの戸渡陽太。2015年8月にスタートし、様々なゲストを迎え行っているライブ『戸渡陽太10番勝負』も今年1月に9本目が終了。ラストとなる10本目の開催が待たれる中、4月18日にリリースされたミニアルバム『光へのアーキテクチャ』は、2017年の思うように活動ができない葛藤から、自問自答を繰り返すなかで見つけた光が完成へと導いた1枚。彼の新たなスタートを感じさせるこの作品について話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】

自問自答を繰り返した2017年

戸渡陽太

——『光へのアーキテクチャ』が完成しましたが、このアーキテクチャという言葉を音楽で使用するのは珍しいですよね。また、なぜ「光」というテーマで作品を作ろうと思ったのでしょうか。

 去年1年間は作曲はしていたのですが、世に出す作業というよりは、ただ曲を作っていくという1年間でした。僕の作曲は自問自答しながら進めていきます。特に今回は「そもそも、なぜ作曲しているのだろう」とか、「自分の中での音楽の在り方」といったことを何度も考え、自分の中での考えや答えのようなモノを落とし込んでいきました。そうして生まれた今作の楽曲を並べた時に、楽曲たちが、光へと向かって行くアーキテクチャ(建築物)に見えました。

——「なぜ作曲しているのだろう」と考えてしまうと、なかなか前に進めない気がします。自身のことを書くことが辛くなってきたり…。

 以前にCMを作っている方とお話しをする機会があって、その時に作曲法とか色々聞かれたことがあって、僕は「自分のことをテーマにすることが多い」とお話ししたら、「それ、キツくない?」と言われまして(笑)。確かにキツい部分もありますけど、僕の中ではそれが音楽を作ることの意義になっていて、それが当たり前になっているので周りが思うほどキツいとは感じていないかもしれないです。

——自身をさらけ出すことになるわけですから、周りからみたらキツそうですけど…。歌詞はストレートな部分とオブラートに包んだりして表現を変えたりも?

 さらけ出したい部分はさらけ出してます。例えば「愛してる」という言葉を簡単に言える人は僕はあまり信用していなくて...。それを別の言い方で表現するのが作詞かなと思っています。オブラートに包んではいるんだけど、さらけ出してはいます。たださらけ出すだけだったら、ただの文章でもいいわけで...。

——確かに作詞とはそういうことかも知れないですね。ちなみに制作のインプットはどうされているんですか。

 旅や映画などもありますけど、最近は身近にある日常的なところが多いかなと思います。例えば、ハリルホジッチさんがサッカー日本代表監督を解任されたこととか(笑)。

——そういうのもインプットの一つになるわけですね。さて、まずは1曲目の「明星」からお聞きしたいのですが、この曲が生まれた経緯は?

 この曲が先ほどもお話しした、昨年の自問自答がそのまま歌詞になった曲です。僕の中では力づくで作っていった感じがあります。自分が納得いかなくて書き直したりしましたから。でも、この曲を作った経験が今後の音楽人生のキーになっていくのかなと思いました。全部がポジティブというわけではないのですが、全てを受け入れたゆえのポジティブさ、それでも前を向いて行こうという強さがこの曲にはあると思います。

——この曲は詞先ですか?

 イントロのリフから出来た曲です。基本的にアウトプットは敢えて決めてはいなくて、詞から出来る曲もあれば、メロディやコード進行というのもあります。

——リフからですか。詞からひっぱられたのかなと思いました。戸渡さんにとっての光とはなんでしょうか。

 近いところで言えば”幸せ”ですかね…。けど僕の中で幸せともちょっと違うのですが、それを“光”という言葉に置き換えたとも言えます。でも、違う単語があれば幸せではないかも知れなくて…。存在している言葉で表現したら幸せが一番近いかなと思います。

——「明星」はどんな心境の人が聴いたらより心に刺さると思いますか。

 色んな世代に聴いて欲しいと思いますが、強いて言うなら僕と同じ20代の若い世代です。10代と30代に挟まれた板挟みの世代だと思っていて、その世代に話を聞いているとしんどいと思っている人が多い気がします。25歳くらいになると、熱く語ったりする年齢から諦めモードに入っていく年齢だなとも感じていて…。いろんなことに対して諦めモードになってしまうのが怖いんですけど、そういう風に感じている人がいたらこの曲を聴いてもらえると、何か刺さるもの、“光”が見えてくるのではないかなと思います。

——続いては「灰色のユートピア」です。また、“灰色”と“ユートピア”という対照的な言葉を組み合わせましたね。この曲を作った時はどのような気持ちだったのでしょうか。

 この曲はわりと世の中に対するメッセージが強いです。今起きている出来事が僕のフィルターを通すと灰色に見えてしまうというところがあります。何が本当なのかもわからない、しかもそれを隠していて…。この生活に慣れてしまって、今ではあまりデモ活動を起こさないじゃないですか? もっと問題提起しなければいけないところがあるにもかかわらず、違うところで騒いでいて、それってどうなんだろうと思った時に生まれた詞です。その時に自分が思っていたことを発信したくなりました。

——サビのメロディと言葉のハマり具合が気持ち良いです。サウンド的にはどういったところを意識して制作していきましたか。

 サウンド的にはもともと大サビがなかったんですけど、プロデューサーである深沼元昭さん(PLAGUES/Mellowhead/Gheee)が色々とアイデアを出してくださって、それに乗っかる感じで僕も「ここに声で和音を入れたら世界観が広がるのでは?」とアイデアを出しながらサウンドを構築していきました。あとはギターとボーカルが前に出るサウンドというものを意識して作っていきました。

——深沼さんとは付き合いが長いですよね。もう意思の疎通もバッチリなのでは?

 そうですね。2014年から制作に携わっていただいて、現在はより密接になってきていると思います。今作は深沼さんとの関係性がより濃く出た作品になったのではないかなと思います。

——戸渡さんも打ち込みとかパソコンを使用してアレンジしたり?

 はい。深沼さんのようには無理ですけど、アイデア段階では打ち込んだものを提示させていただいたりもします。今回はギター1本でデモを持っていったものが多かったです。というのも深沼さんのアイデアを聞きたかったという思惑がありまして。あとは頭で鳴っている音を割と抽象的な感じなんですけど、口頭で伝えたりもしました。

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