元サーカスのメンバーである原順子、叶央介による夫婦デュオ、2VOICEの楽曲「You ~120歳のラブソング~」が、3月24日に公開された映画『おみおくり』の主題歌として使用されている。【取材・撮影=桂 伸也】
映画『おみおくり』は、納棺師で作家の永井結子さんによる著書『今日のご遺体 女納棺師という仕事』を原案として作られたヒューマンドラマで、過去に心に傷を負った女性納棺師が、明るく過ごしながらも過去に起こった事件で、心に闇を背負った一人の女性と出会い、様々な気持ちに触れながら成長していく様を、7つの「おみおくり」のエピソードと共に描く。キャストには主人公の女性納棺師・満島弥生役に高島礼子、弥生の仕事に感銘を受け、自身も納棺師を目指す女性・河村亜衣役を務める文音のほか、渡部秀、風谷南友、宮下順子、加藤雅也ら若手、ベテランを織り交ぜた実力派が出演している。
原、叶の二人は、サーカス在籍時の91年に結婚、以後サーカスでの活動とともにJ&Oというデュオとしての活動を並行しておこなっている。そして2013年にサーカスを離れた二人は、2016年にアルバム『120歳のLove Song』で2VOICEとしてデビュー。公私ともに深いつながりを持ち続けている。今回は二人に、起用された映画の印象や共感した点などとともに、これまで二人が活動してきた経緯などを語ってもらった。
若い頃に想像できなかった60歳、何も変わらなかった
――映画『おみおくり』をご覧になられて感じられた印象などからおうかがいできればと思うのですが、曲を作られた時の思いと、映画のストーリーという部分で、振り返ってみると共感するものがありましたか?
原 順子 確かに。もともと2016年にちょうどダブル還暦を迎えて、何か記念に残るアルバムを作るという状況の中でこの曲は作ったんですが、それを後に人づてに伊藤監督の耳に届いて、「是非使いたいんだけど」と熱いラブコールをいただいたというのが、今回の流れなんです。
叶 央介 だから自分たちとしては「60歳なりのラブソングを作ろう」と、そんな発想で作った曲でした。だから今回この映画の話をいただいた時には、最初は「フィットするのかな?」とはちょっと思いました。でもその試写会を見て、何か大きな一つの“生きる”という意味を、この映画が、僕たちのこの歌に与えてくれたと思いました。
――何かイメージを広げてもらったという印象でしょうか。もともと2016年に、この曲とともにアルバム『120歳のラブソング』をリリースされましたが、その際にこの曲は、どのような思いで作られたかというところを、改めてもう少し深くおうかがいできればと思います。
叶 央介 まさしくダブル還暦を迎えるというタイミングでの曲作りだったんですが、一方で順子は、若い頃には自分が60歳になって歌っている姿が想像できなかったと言っていまして(笑)。
原 順子 そう、絶対リタイアしていると思っていたんです!(笑)
――確かに一昔前では60歳というと、隠居されている方も多かった印象がありました。でも近年は現役バリバリで活躍されている方も、たくさんいらっしゃいますよね。
叶 央介 そうなんです。僕はその歳になると、自分でも歌は歌っているだろうとは思っていたけど、恋の歌は卒業しているような気がしていました、若い頃には。でも二人で60歳になって何か変わったと感じたかというと“何も変わらないね”と思ったんです。だったら60歳の二人が歌う、本当のラブソングがあってもいいよね、と、そんな発想が生まれたんです。
――60歳でラブソングというのは、考えてみるとかえって若々しい感じがしますね。いつまでも年齢に影響されない感じもありますし。
叶 央介 そう、精神的なところは、本当に歳をとっていないんです。驚くことに。
原 順子 本当に、何も変わらないです。
――詞をたどってみると、若い方の印象を重ねてみても違和感がない気がします。例えば恋人としてお付き合いされた当初の思いが、長い夫婦生活の中でも変わらない、そんな印象もあり、正直には驚いていますが…(笑)
原 順子 (笑)。確かに皆さん、そうおっしゃるんですよね。だけどそんなことないのにな、と私は思うんですよ。
叶 央介 いや、本当にみんな仲良しだと思いますけどね、きっと。“サイレントマジョリティ”なんですよ、仲良し夫婦って(笑)。仲が悪いというのは。意外にマイノリティなんじゃないですかね。たまたまそれが目立っちゃうことで、そう見えることもあるんじゃないですかね。そんな感じ、しませんかね?
原 順子 そう、心のどこかでは、きっとお互い好きだと思う。そういうことだと思うんです。
――いや、でもなかなかこの歌通りの思いが言葉に出てくるご夫婦も、なかなかおられないかと(笑)。お二人が御結婚されたのが91年ということですが…。
叶 央介 そうですね、もう夫婦生活も27年になります。
――27年ですか!? 素晴らしいですね。よく尋ねられるかと思いますが、そこまで仲良く過ごされる秘訣みたいなものはあるのでしょうか?
原 順子 本当に毎回聞かれますね(笑)。で、これも毎回答えさせていただいているんですが、例えば相手は育った環境も違いますから、何かあった時に“何でこんなことも分からないんだろう”と、大体は考えるでしょう。普通はそこでぶつかることもある。だけど私はちょっと視点を変えて“あ、なるほどね。そういう考えもあるんだ”、“なるほど、この一つのことを解決するには、これもあるね”という風に思うようにしています。そうすると意外と答えは見つかると思うんです。
叶 央介 例えば歌を作っている時のことで、大体は僕が詞を書いて順子が曲を作るという格好なんですが、言葉がだんだん煮詰まってくると、順子に助けを求めてみるんです。そうすると、やっぱり意外と迷ってる時って、同じところでずっと堂々巡りをしていることに気がついたり。例えば言葉にしても、違う視点で急に言葉をポンと言ってくれるから、そこで何か新しい言葉ができたりとか。だから何かそんなお互いの違いを楽しめるようになったら、楽しいんじゃないかといつも思っているんです。
――では逆に、お互いの違いというものが分からなくなると、だんだんと…。
叶 央介 そうかもしれないすね。うまくいかないことになるのかも。
原 順子 ただ、確かに私たちは特殊なのかもしれない、という気もします、一緒に同じ音楽をやっているということもあるし。ご夫婦で同じ職業をなされている方もたくさんいらっしゃると思いますが、その同じものをずっとやってきた中で、何か自然とそんな棲み分けが自分の中に作れるようになったのかもしれません。
例えばサーカス時代には、4人で思いを合わせていくわけですが、グループの中ではどうしても1人の意見じゃなくて、4人の意見がそこに反映させなければいけないわけで、もしかするとそんな考えが自然に身についてきたのかもしれないです。