シンガーソングライター・吉澤嘉代子が3月22日に、東京・恵比寿LIQUIDROOMで東名阪ワンマン春ツアー『ウルトラスーパーミラクルツアー』のファイナル公演を開催した。ツアーは横山裕章(Key)をバンドマスターにハマ・オカモト(Ba)や生ブラスを初投入したバンドによる演奏で、このツアーで初披露された「怪盗メタモルフォーゼ」や昨年10月にリリースされた「残ってる」など全17曲を披露した。6月13日に通算3枚目となるニューシングル「ミューズ」をリリースすることを発表した。【取材=村上順一】

吉澤嘉代子史上、一番密集しているライブ

吉澤嘉代子(撮影=田中一人)

 超満員の会場には、篠原ともえ「クルクルミラクル」などツアータイトルに洒落た邦楽のヒットソングが流れる空間。すでに吉澤ワールドに一歩踏み入れてしまった感覚もあるなか、多くの人の期待感で満ちていた。定刻を少々過ぎた頃に会場が暗転すると、PARCOのテレビCMでもおなじみの楽曲が響き渡り、高揚感を煽るなかバンドメンバーと共に吉澤がステージに登場。アコギを手に取り、腕を掲げると伊藤大地(Dr)のカウントから、モラトリアムとも言える彼女のルーツが垣間見える楽曲「ストッキング」でツアーファイナルの幕は開けた。

 そして、クラップで盛り上げながら、「私たちと一緒に楽しんでくれるかな?」と吉澤のヴィヴィッドな<1、2、3、4>のカウントから「ユキカ」に突入。バンドには自身初のトランペットとサックスも加わり、管楽器の煌びやかな音色が軽快に初恋を彩る。後方のライトが吉澤の歌に応えるように瞬き、好きだという感情が歌から溢れていた。

 「吉澤嘉代子史上、一番密集しているライブです」とフロアを見て話し、さらに「ライブって楽しいな、北から南までもっと周りたい」と告げ「綺麗」を披露。体を優雅に動かしながら楽しそうにパフォーマンスする姿に目を奪われる。吉澤はおもむろに取り出したロープをハンカチーフに変えるマジックパフォーマンスから「手品」へ。軽快なリズムに合わせ左右に手を振る吉澤に合わせ観客も大きく手を振りあげ、一体感を感じられる空間を作り上げた。

 このツアーで初披露となった「怪盗メタモルフォーゼ」は異国の城下町に住む町娘が女怪盗に変身するというストーリーを新バージョンで届ける。地中海を感じさせる異国情緒溢れるサウンドスケープに、吉澤の妖艶な歌声が鮮明に情景を映し出す。ハマ・オカモト(Ba)のウォーキングベースもキラリと光るナンバーだ。

 続いて、「自分のなかで最高だなと思える曲だけを届けます」と、本日のセットリストの趣旨を話し、ハマがサウンドプロデュースした「ユートピア」を披露。吉澤もエレキギターでアクセントを与え、尾崎博志(Gt)のスティール・ギターが混沌とした空間を作り出す。おどろおどろしいイントロからビートの効いたロックチューンを披露。市民プールが海になるという吉澤らしい世界観のナンバーで扇情させる。

 加藤雄一郎(Sax)との寸劇を挟み、昭和歌謡+ジャズ要素がミクスチャーした「地獄タクシー」は、吉澤の艶らかな低音と、セクシーな高音が堪能出来る昭和にタイムスリップしたかのような感覚を与えてくれた。

自由に歌えて幸せでした

ライブの模様(撮影=田中一人)

 ジェームス・ブラウンばりのファンキーでグルーヴィなサウンドで届けた「麻婆」。体全身を使って楽曲を表現する吉澤。サビではコール&レスポンスで観客と楽しみ、続いての「えらばれし子供たちの密話」では、ハンドマイクで言葉を吹き込んでいく。後奏ではサポートメンバーを紹介。ノリノリで紹介する吉澤の姿。不思議な世界へといざなうような湯本淳希(Tp)のトランペットと横山裕章(Key)のシンセサイザーによるサウンド。エンディングに向かう中での彼女のシャウトは心に突き刺さるような迫真の歌声。

 場面は一転。吉澤は椅子に座り、尾崎のアコギによるアルペジオが奏でられるなか、夕暮れをイメージさせるスポットライトを浴び揺れながら「ぶらんこ乗り」歌い紡ぐ。加藤のソプラノサックスの音色が歌詞に寄り添うように哀愁を感じさせ、吉澤は丁寧に歌い届ける姿が印象的だった。「movie」に続いて、星を連想させる照明が瞬くなか、少女時代との決別とも言える「一角獣」を叙情的に届ける。心を浄化させてくれるかのような歌声に観客もステージを見つめ、その世界に浸る。

 「私の歌が必要だと思ってくれた人は大切な人です。でもみんながすごく辛いと思った時に会いにいくことはできないんです…。でも、歌を通してひとときの間うっとりしたり、意地悪な気持ちになったり、泣いたりしてもらえたらと思っています」と話す。

 さらに続けて「自分を救うのは自分だけで、誰かが何かをしてあげられないのが人かなと思っています。主人公を通して一番近くにいられたら」と、このツアーをやるにあたって最後に絶対歌いたかった曲で1stアルバム『箒星図鑑』に収録の「雪」を届ける。歌詞と連動し、桃色の照明、すぐそこまで来ている春を感じさせる、吉澤の歌声は穏やかな気持ちを与え、本編を終了した。

 アンコールの手拍子に導かれるように吉澤が再びステージに。吉澤は「演奏も素晴らしいし、自由に歌えて幸せでした。この10日間で色々あった。誰かに何かを伝えようとするときに、その人の核になる部分を知ることが大事だと思いました。曲の主人公と自分を重ねず、主人公の気持ちを優先して曲を書きたい」と想いを告げた。さらに、このツアー中に花粉症になったと悪い知らせを語ると、良い知らせとして6月13日に通算3枚目となるニューシングル「ミューズ」をリリースすることを発表。ここ1〜2カ月ずっと書き続けていた曲で、最近の自分の気持ちや言葉を大切にした新曲だという。

 ツアー初日で曲を飛ばしてしまったが、それが功を奏したとハプニングからまさかの好転劇を見せたと話し、まさに“ウルトラスーパーミラクル”なポジショニングでの披露となった「月曜日戦争」。途中、バズーカを担ぎ客席に向け発射。バズーカから放たれたのはお菓子の「ルマンド」。「みんなルマンド大好き?」と笑顔で投げかける吉澤。ラストは朝帰りの女性が主人公の楽曲「残ってる」。ステージ上は朝焼けのような。ライブの余韻を与えるように、透明感のある歌声が会場を包みこむなか、ツアーの幕は閉じた。最後までステージに残り観客に手を振り続ける吉澤は、「名残惜しい」と言葉を残し、ステージを後にした。

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