ロックバンドのPOLYSICSが11月29日に、ニューアルバム『That's Fantastic!』をリリース。ロックとシンセサイザーを融合した独自の音楽性で唯一無二の存在感を発揮し、海外でも積極的にライブをおこなっている。今作『That's Fantastic!』は結成20年目を飾るアルバムで、新メンバーとしてナカムラリョウ(Gt、Vo、Syn)が加入して最初の作品となる。今作について「よりバンド感が増して、今まで出なかったアイデアもたくさん生まれた」とハヤシ(Vo、Gt、Syn、Pro)は話す。新メンバー加入の意図、結成から20年変化を止めないPOLYSICSの真意をハヤシに聞いた。【取材=榑林史章】
よりバンド感を出したくて
――今作から新たにギターのナカムラリョウさんがメンバー加わったわけですが、どのような経緯で?
7年くらい3人体制でやって来たのですが、もう一人ギターがいたら、僕がライブ中にもっと自由にパフォーマンスが出来るんじゃないかと思って。それに、打ち込みで流していたシンセのフレーズを、その場で手弾きしたほうがよりライブ感が出るし。そういう思いがあって、1年半くらい前からメンバーを探し始めました。
――よりライブを良くするためにと。
そうですね。前作の『Replay!』に収録した「Tune Up!」という曲でもツインギターっぽいアイデアが出ていたから、曲作りの面でも、より楽しいものが出来るだろうなと思って。それで、ギターが弾けてシンセも弾ける人がいいな、と。
――ギターもシンセも両方出来る人って、あまりいないですよね。
そうなんです。だから、なかなか見つからなくて。メンバーが見つからなさすぎて、「いっそダンサーでも良いんじゃないか?」って、迷走した時期もありました(笑)。そんな中で、去年の夏にナカムラリョウと再会したんです。
――ナカムラさんとは、以前からの知り合いだったんですか?
13年前に、彼がやっていたバンドと対バンした時に知り合って、それ以降POLYSICSのワンマンをちょくちょく見に来てくれていたんです。
それで、「遊びで曲でも作ってみようよ!」という感じで、最初はデータのやりとりをして。自分が投げた曲に面白いアレンジをして返して来たので、これは良さそうだと思って、第二段階でスタジオに入ってポリと彼とでセッションしました。で、次にスタジオに入ったときに、曲作りを一緒にしようとなって、今作に収録している「Pretty UMA」とか「Sea Foo」とかが出来て。今までになかったアイデアがたくさん出て来たのですごく良いなと思って、その時に初めて「POLYSICSの新メンバーにどう?」と話をしたわけです。
――どんな反応だったんですか?
想像もしていなかったみたいで、驚いていましたよ。でも入ってくれることになって、その勢いのままアルバムを作っちゃおうと。
――1人加わって、レコーディングや曲作りはどう変わりましたか?
3人の時は、コンピュータがもう一人のメンバーみたいな感じで、3人+電子音という形だったんです。電子音で厚みを出していくみたいな。それが4人になったことで、電子音はどんどん必要最低限に削られていって、よりバンド感が増していきましたね。
――アレンジのアイデアは、ナカムラさんからも?
表題曲の「That's Fantastic!」は、ナカムラくんがうちに来て、2人でアイデアを出し合いながら作りました。こういう作り方は今までなかったので、とても新鮮でした。今までは、僕がある程度まで作ったデモを作って、スタジオでセッションして詰めていくことが多かったので。
やったことのないビートやリズムの曲を集めた13曲
――表題曲の「That's Fantastic! 」には、ブラックミュージックの要素を取り入れていますね。
ブラックミュージックのビート感やリズムの多様化みたいなことに興味があって、それをPOLYSICSの新しいアプローチとして展開出来ないかなと思って。ポリって速いビートが得意で、2分半くらいの短い時間にいかに情報量を詰め込むかみたいな曲のイメージがあるけど、そうではないものが作りたかったんです。
それで、「Tune Up!」の時にアフロビートを取り入れて、こういうのもアリだなと手応えを感じていたので、その方向性をより突き詰めて行った感じです。結果、いろいろなビートにチャレンジした作品になりました。
――そのアイデアを実現する上で、何かモチーフや参考にしたものはありましたか?
実際にブラックミュージックのビートを取り入れたイギリスのニューウェーブバンドが好きで、たとえばトーキングヘッズとかポップグループとか、ピッグパグとか。あとは、コントーションズ、スリッツ、ESGなど。あまり滑らかではないギクシャクしたグルーヴを持った、ニューウェーブ/パンクが僕のルーツにあるので、そういうバンドを改めて意識したところはありました。
でも「That’s Fantastic!」は、もうちょっと最近の、ベースメントジャックス(英ダンス・ユニット)とかのアイデアを取り入れています。あとザ・ゴー!チーム(英ヒップホップ/ロックバンド)とか。そこらへんの、わりとゴチャゴチャした感じの音と、クラブミュージックみたいなものを混ぜてみようかなと。「That's Fantastic!」を作った時は、そんな風に思っていました。
曲は絶えず作っていて、その都度スタジオに入って形にすることを繰り返しているので、その中から最終的に今の自分たちのムードに合ったもの、POLYSICSとして今までやったことのないビートやリズムの曲を集めた13曲という感じですね。
――今回は歌詞の面でも、すごく聴きやすく分かりやすい気がしました。
「Cock-A-Doodle-Doo」、「ルンバルンバ」、「Pretty UMA」など、あまり人が歌わないようなテーマの曲は、書いていて自分でも楽しかったです。分かりやすい言葉でその曲が個性的になるなら、それに越したことはないなと思っていたし。去年のアルバム『What‘s This???』から、そういうことを意識するようになって。それ以前は語感で気持ち良ければいい、ストーリーまで考えなくていいと思っていたので。
――何か音的なアイデアが先にあって作った曲は他に?
たとえば「Shut Up Baby」は、速い曲は得意だから逆にすごく遅い曲を作ってみようと思って。BPM74くらいという、今までやったことがない遅さで作りました。それを倍のテンポでリズムを取るようにしたところ、結果ものすごく踊れる曲になりました。
あと、「Toisu Non Stop」という曲は、お客さんの「トイス」と言う声を170数人分集めて1曲にしました。10月13日を「トイスの日」として、「トイス感謝祭」というライブを新宿ReNYでやったんです。その時に、お客さんの「トイス」と言う声をスマホとかで録って送ってもらって。きっとみんな、自分の声は分かるんじゃないかな? 「あ、今言った!」って。
――今さらですが…トイスって?
2001年くらいから使っているんですけど、最初は飲み仲間の間で、「乾杯」の代わりとして生まれた言葉です。それで、そのテンションのままライブの挨拶としても使うようになって、それがファンの間でもお馴染みの挨拶として浸透したという。
新しいPOLYSICSがここから始まる!
――「You Talk Too Much 」は、ギターが2人になったからこそ出来たような曲ですよね。
そうですね。ギターのアンサンブルもけっこう考えました。僕自身ツインギターのバンドをやったことがなかったので、最初はどう棲み分けしようか悩みましたけど。
――本来なら、リードとバッキングと分けるんでしょうけど。
でもポリは明確に分かれていなくて。曲によって役割りがどんどん変わって、ツインリードになる時もあるし、ライブでは僕がハンドマイクでナカムラくんにギターをすべて委ねる時があるし。分かりやすい棲み分けではないので、お互いいろいろなことが出来ないといけないっていう。
――やれることの幅が広がった分、やらなきゃいけないことが増えたという面も。
それはまあ(笑)。やることが増えて大変ですけど、それ以上に曲作りやライブパフォーマンスの幅が広がる楽しさのほうが勝っちゃっているので。
――10月14日にナカムラリョウさんのお披露目のライブ『POLYMPIC 2017 FINAL!!!!』をおこなったわけですが、実はその前に覆面バンドで肩慣らしライブをしていたんですよね?
そうです。「THE TOISU!!!!」という名前で4本ライブをやって。気づいたファンが拡散してくれるんじゃないかと期待していたんですけど、ファンが変に空気を読んでくれちゃって、まったくバズらなかったという(笑)。
――実際に初めての4人でのライブは、どうだったんですか?
ナカムラくんが緊張するのは分かりますけど、僕のほうがめっちゃくちゃ緊張してしまって。リハーサルではどうなるか分からない部分も多かったし。それにイベントだったのでバタバタで、セッティングしてすぐ本番みたいな感じで、緊張したまま終わってしまって。
だからライブがどうだったこうだったとか、客観的に見ることがまったく出来なくて。当日終わってからその日の映像を見て、それで初めて4人での活動が始まったんだなって実感した感じでした。その時の模様は、初回生産限定盤のDVDに収録されているので、ぜひ見てほしいです。
――バンドを長くやっていると、どこかでルーティーンになってしまうというわけではないでしょうが、新しい血を入れたり新しい風を吹かせたくなるものなんでしょうね。
他のバンドは分かりませんけど、ポリの場合はずっと20年同じメンバーでやって来たわけではなくて、むしろメンバーチェンジが多いほうですからね。メンバーが替わる都度音も変わるので、それを形にする作業をやり続けて20年という感じです。
――スクラップ・アンド・ビルドの精神みたいな?
確かに4人から3人になった時は、そういう感じでした。でも今は、3人で形になったものの上に1人プラスして、その幅を広げた感じになっていて。そういうやり方で、今までとは違う新しいPOLYSICSを作りたいという気持ちでいます。自然とそうなると思うし。ナカムラくんにもそれは伝えているし。単なる焼き直しをするのではなく、新しいPOLYSICSを作っていきたいんだ、と。
――タイトルの『That’s Fantastic!』は、まさに今のPOLYSICSを表す言葉ですね。
新しいPOLYSICSがここから始まる! という気持ちです。新メンバーが入ったことや新しいPOLYSICSになったということが、すごく分かりやすく表れているのが1曲目の「That’s Fantastic!」なので、これをどうしても1曲目にしたくて。それで、タイトルもそのままこれにしました。でも、良くないですか? 「Fantastic!」っていう響きが。
作品情報
POLYSICS
ニューアルバム『That’s Fantastic!』
11月29日発売
初回生産限定盤(CD+DVD+12cm缶バッジ)4104円(税込)KSCL3001〜3003
通常盤(CD)3059円(税込)KSCL3004
▽CD収録内容
1. That's Fantastic!
2. Crazy My Bone
3. Cock-A-Doodle-Doo
4. ルンバルンバ
5. Sea Foo
6. Pretty UMA
7. Shut Up Baby
8. Toisu Non Stop
9. You Talk Too Much
10. I Have No Idea
11. Ga Ga Ga Ga Gaping
12. ダンスグミグミ
13. ロックンロー
▽初回生産限定番DVD収録内容
“THE TOISU!!!! 1st LIVE”at SHIBUYA CLUB QUATTRO
& “Tune Up!” from
“20周年 OR DIE!!! All Time POLYSICS!!!