今年結成20周年を迎えたロックバンドのPOLYSICSが2月22日に、結成20周年記念アルバム『Replay!』をリリースした。代表曲8曲を新録した他、昨年10月にShinjuku ReNYでおこなわれたライブ音源3曲、さらにアフリカンビートを採り入れた新曲「Tune Up!」を収録。これを聴けば間違いなくライブで盛り上がれるアルバムになった。ハヤシは「バンド結成のきっかけになった、DEVO(ディーヴォ=米・ロックバンド)に対する変わらない熱が、今も自分を突き動かしている」と語る。結成20周年、そして、バンドに変化をもたらせた海外経験などについて話を聞いた。
DEVOは20年聴いても発見がある!
――結成20周年ということで、思うところはありますか?
ハヤシ 正直に言って、実感があまりなくて。こういう取材があるたびに、徐々に自分の中で20周年モードが高まりつつあるんですけど、ぶっちゃけ3月8日になったときに実感するのかどうなのかって感じです。
フミ 実際に20年やっているのはハヤシだけですけど、きっと終わったあとにジンワリくるんじゃないですか?
ヤノ ライブやって落ち着いたところでね。
――フミさんとヤノさんは、客観的な部分でPOLYSICSの20周年をどう感じていますか?
ヤノ 第一に20年バンドをやり続けることは、本当にすごいことだと思いますね。自分が入ってからは13年目ですけど、その間にもメンバーチェンジがあったし。そういうことを繰り返しながらの20年だから、さらにすごいなって。
――メンバーチェンジというのは、辞めるときも入るときもエネルギーを使いますよね。
ハヤシ メンバーチェンジがあるとサウンドも変わるので、そのときごとに新しくなったPOLYのサウンドを、自分の中でどう形作るか考えるわけで。この3人になってからは6〜7年で、ようやく固まってきた部分があって。それでも時期ごとに変化していったので、その変化に対応するのでいっぱいいっぱいなところもあります。
――フミさんは、客観的に20周年はどうですか?
フミ 私は最初、友人と言うかお客さんとして見ていて、そのときはこのバンドが20年続くなんてまったく思ってなかったです。でも、そのときからハヤシの熱量がすごくて、それは今も変わってないですね。客観的なところで、その「ハヤシの熱量ってどこからきてるのかな?」と、今でもたまに思います。そういうハヤシの「好き」の力、初期衝動が今も衰えずにあるから続けられているのかな〜なんて、はたから見ていて思います。でもそれって希有なことだと思うんです。どんどんベテランになると、ルーティンになっていくところがあると思うけど、それが良くも悪くもできないバンドなんだなって、一緒にやっていて思います。
――ハヤシさんがバンドを始めるきっかけになった、アメリカのバンド“DEVO”が大好きな気持ちは、20年前と変わっていないですか?
ハヤシ 今のほうが、もっと好きです(笑)。この間のツアーでは、客入れと客出しのBGMを全部DEVOの曲にして、自分でノンストップMIXを作ったくらい好きです。
DEVOが最初にやったコンセプトというのは、今でもすごく面白いと思うんですよね。機械がどんどん進化すると人間は退化していくというメッセージは、今の時代でも通じるものがあると思うし。そういうDEVOのメッセージや受けた影響を、上から頭ごなしに伝えるんじゃなくて、毒っけたっぷりのユーモアを含みながら、面白おかしく伝えていくやり方が、自分らしいと思っていて。DEVOが僕にとって、素直なロックの原体験になっていて、そこは未だに変わらないし。うん。DEVOは、今も大好きです。
――20年も聴いていて、飽きないですか?
ハヤシ まったくですよ。むしろ聴くたびに新しい発見があります! 正月にも、普通に1stアルバム『Q:Are We Not Men? A:We Are Devo!』を引っ張り出して聴いてましたから。それもアナログレコードで。
海外経験で培ったお客さんをハッピーにさせるライブ
――長いキャリアの中で、やはり大きいのは海外でのライブ経験ですか?
ハヤシ そうですね。車で全米を回ったりするようになって。
フミ 行くたびにいろんなトラブルがあって、それを乗り越えるごとに吹っ切れていった感じがあります。日本では考えられない、もう抗いようがないことばかり起きますからね。
例えば頼んでいた機材とは違うものが届いて、発注し直したらまた違うのが届いたりとか、モニター担当のPAの人がライブ中にいなくなるとか。
――PAがいないって?
ハヤシ サンフランシスコだったんですけど、ライブ中にマイクの調子が悪くて、PAに指示を出そうとしたら、バーで友だちと談笑してたんです。おかげでフミのマイクに二人で顔を寄せて歌って、ビートルズみたいになっちゃって(笑)。あと、舞台監督が途中で帰ったこともあった。
フミ その人はリハだけ見て、自分はここまでの契約だからって。本番のときは違う人が来て、リハやってないから分からないっていうし。
ヤノ いつも上手にあるドラムセットが、本番になったら下手にあって。あれ? ってなったり、アンプの位置が変わってたりとか。リハをやった意味がまったくなかったという。
――でも、そういう経験をたくさんすると、ハートが鍛えられますね。
ハヤシ ですね。それにお客さんには、そんなこと関係ないですから。その場をいかに楽しませるかって、吹っ切って考えられるようになりました。それまでは、1時間半のステージでも30分のステージでも、その中でいかに自分たちが完全燃焼するかを考えていたんです。でも海外をやるようになってからは、完全燃焼するのではなく、次にまた見たいと思わせるにはどうしたら良いかと考えるようになりました。
例えばそれまでまったくやってなかった、ハンドクラップのあおりを採り入れて。初めてで、どうノっていいか分からないお客さんもたくさんいるから、こちらがクラップするとみんな一緒にやってくれるんです。お客さんはハッピーになりたいわけだから、この場をハッピーな空間にするにはどういう曲がいいかとか考えて、曲作りも変わっていきました。それがちょうど『Now is the time!』のころかな?
――曲作りの目的が変わったと。
ハヤシ それまでは、もっと驚かせたいとか周りと違うことをやりたいという気持ちを原動力にして曲を作っていたけど。『Now is the time!』のときは、いかにお客さんをハッピーにさせるかを考える曲作りをしました。
新曲「Tune Up!」はアフリカンビート
――結成20周年記念アルバム『Replay!』は、今の3人になる以前の過去の曲を、3人になって今やっている新しいアレンジで聴いてもらおうというものですね。
フミ まさしくそうです。
――入れたい曲がたくさんあって、困ったんじゃないですか?
ハヤシ 僕が最初に出した案は、30曲くらいあって。そこからみんなでどんどん削っていったんです。
フミ これだけ長くやっていると、リリースしたアイテム数も多くて、フェスのお客さんなんかで「多すぎて何を聴けば良いかわからない」という人が、けっこうたくさんいて。それで、「これを聴いて予習してくればライブが楽しめるよ!」というものを軸にして決めていったんです。今やっている3人でのライブアレンジを、音源として残したい気持ちもあったし。今作の収録曲は、けっこう時代もバラけていて。1stアルバム『P』に収録の「Buggie Technica」なんか、初ライブからずっとやってるし。
ハヤシ それが今もやって盛り上がれるんだから、すごく不思議だけど、それがPOLYらしいと思うし。ただ、「Buggie Technica」をやるのに、温度差があるようなバンドにはならないようにと意識があったかもしれないです。バンド感を大事にしてるんで。
フミ 初ライブでやった曲を同じ温度感で、今もできるバンドで居続けたいっていう。
――今回のアルバムで、印象に残っている曲は?
ヤノ 僕は、「URGE ON!!」とか「カジャカジャグー」ですね。リリースした当時は僕が叩いてなかったので、それを今回叩けたのは嬉しかったです。昔は「Buggie Technica」を叩けたことが嬉しかったというのもあったんだけど、今回初期のこの曲をこの3人で音源にできたのは、すごく嬉しかったです。
ハヤシ 「Buggie Technica」は、これまでに4回スタジオで録り直していて。内容は同じですけど、録り直す度にそのときの空気感とかぜんぜん違うなって思います。
――今回はバージョンいくつくらい?
ハヤシ 2012年の『15th P』のときが4度目のレコーディングで、その後ライブでまた変化したので、バージョン4.5くらいかな? 最新バージョンです。収録しているのは昨年10月の新宿ReNYでのライブ音源なんですが、ライブの最後にやったからお客さんのノリも最高潮で、すごくノってる良い演奏が録れてると思います。
フミ 私は、「Digital Coffee」が印象的です。ハヤシと一緒に歌詞を書いていて、半分ふざけているじゃないけど、遊びながらやっている感覚で作ったんです。アルバムの他の曲はシングル曲が多いけど、この曲はシングル曲でもアルバムリード曲でもないのにライブでちょくちょくやっていて。ライブでどんどん魅せ方が育っていった曲の一つですね。ハヤシがどんどん自由になっていくんです。
ハヤシ 最終的にギターを弾かなくなって、とにかくお客さんと握手しまくったりとかするんで。
――このアルバムには、新曲「Tune Up!」も収録。この曲はリズムが独特ですが。
ハヤシ はい。アフリカンビートを採り入れました。今回『Replay!』を出すにあたって、新曲を入れたいと思って、いろんなタイプの曲を作って。それで7〜8曲出来たんだけど、どれもあともう一歩という感じで。
フミ 何か、抜けきらないみたいな感じでね。
ハヤシ そこで、今って四つ打ちのダンスロックが世の中に多いので、そういう踊れるロックをPOLYが改めて作るとしたら? と考えていって。でもPOLYがやるなら、四つ打ちじゃないだろうと。そこで、こういうビートやリズムもあるよって聴いてほしいのもあって、アフリカンビートを採り入れたんです。アフリカンビートとPOLYのバンドサウンドを融合させたら、どういうものになるか? それもあまりテンポが速過ぎず、それでいてテンションは高いという。
――実際にアフリカンビートを採り入れて、どうでしたか?
ハヤシ 自分的にはプリミティブなビートがもともと好きで、パーカッションがバカスカ鳴っているものって、聴いただけで血が騒ぐところがあって。何度も話にでた「Buggie Technica」のズンタタズンタンっていうビートも昔から好きで、単純に身体が揺れちゃうんですね。だからそういう部分では、新しいことにチャレンジしたとは言え、けっこう素直に採り入れることができました。
――POLYSICSってデジタルな要素もあるけど、結局何だかんだでビート感だったりバンド感だったりするんですよね。
ハヤシ そうなんです。ガチガチなエレクトロビートを採り入れることは出来ないこともないけど、POLYってやっぱりバンドだから、それをやる意味はあまりないと思っていて。そこはしっかりバンドサウンドで表現したいと思っています。機械的だけど肉体的。もっともっと肉体的でいたい。だから生でビートを刻むことを大事にしているんです。
――今後目標みたいなものは?
ハヤシ この先も続けて行くために、良い意味でお客さんをワクワクさせたいですね。自分たちも含めて、まだ見たことのないPOLYSICSを探していきたいです。もっともっとトライしていきたいです。
――40代50代になっても、アンプラグドとかは絶対にやらなさそうですね。
フミ それだとハヤシが萌えないんで。
ヤノ ははは。
ハヤシ どうせアコースティックギターを弾くなら、改造するかな。ロケットを付けるとか(笑)。
(取材・撮影=榑林史章)
◆POLYSICS 1997年に、当時高校生だったハヤシを中心に結成。1999年にアルバム『1st P』でインディーズデビュー。2000年にシングル「XCT」でメジャーデビュー。何度かのメンバーチェンジを経て、現在はハヤシ(Vo&G,etc)、フミ(B&Vo,etc)、ヤノ(Dr&Vo)の3人で活動。2003年以降コンスタントに海外でライブやリリースを行い、日本のみならず海外でも名を馳せる。フェスには欠かせない唯一無二のバンドとして、確固たる存在感を発揮している。
ライブ情報
<20周年 OR DIE!!! All Time POLYSICS!!!> 3月4日(土)東京・豊洲PIT <ARABAKI ROCK FEST.17> <森、道、市場2017> |