2.5次元パラレルシンガーソングライター酸欠少女さユりが11月24日に、TOKYO DOME CITY HALLでワンマンライブ「夜明けのパラレル実験室2017〜それぞれの空白編『       』〜」をおこなった。デビューシングル「ミカヅキ」や2月にリリースされる新曲「月と花束」など全18曲を届けた。透過スクリーンを使用した演出で楽曲の持つ世界観を聴覚だけでなく視覚でも堪能させ、オーディエンスを魅了した。【取材=村上順一】

広大な宇宙から「ミカヅキ」で幕開け

さユり(撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-)

 ホールのフロアにひしめく人々によって、これから始まるワンマンライブへの期待感で満ちていた。開演時刻になるとスクリーンには広大な宇宙が広がった。そして、スクリーンに満月が投影され、その向こう側にさユりのシルエットが映し出された。メジャーデビューシングル「ミカヅキ」でライブの幕は開けた。葛藤とも言える思いを歌にぶつけていくさユり。オーディエンスもその姿を見つめながら、その音を浴びるように聴き入る。

 バンドメンバーはガスマスクを装着し異質な空間がステージに広がる。そのバンドサウンドが光る「平行線」をアグレッシブに歌い上げていくさユり。平行線が交わる、その矛盾とも言える言葉は無限の可能性を感じさせ、その発せられるエネルギーに吸い込まれていくような感覚。まさにこの“パラレル実験室”のタイトルを表現している楽曲のひとつだと感じた。

 「スーサイドさかな」ではスクリーンの上方に輝く光に向かって、集まっていく空気。それは我々を海の底に誘うかのような演出。視覚だけでなく内面を誘うのはさユりの歌声。この相乗効果で楽曲の世界観はより強固なものになっていく。そして、2月28日にリリースされる「月と花束」。鎖のように紡がれるメロディから放たれる言葉たちは、これからの彼女を垣間見れたと言っても過言ではない。

 心の奥底を見透かされているような感覚を得た「オッドアイ」、歌詞の世界観がまさにこの時期に聴きたい1曲でもある「プルースト」に続き、4枚目のシングル「フラレガイガール」へ。RADWIMPSの野田洋次郎によって斬新な切り口で描かれた楽曲は、さユりの表現力によってとてつもないリアリティで迫ってくる。

空白は未来ではなく過去や現在に

さユり(撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-)

 さユりは、今回のタイトルについて言及。空白は未来ではなく彼女の中では過去や現在にあるという。過去にある人それぞれの空白。その空白、空洞はとても大事なもの、その違った空白を持つ人たちが同じ場所に集まって、その空白がこのライブの色や形になると思ったと、タイトルをつけた意図を話してくれた。

 その想いを告げ「私なりのラブソングです」と投げかけ始まったのは「十億年」。壮大なスケール感を持つ楽曲は、オーディエンスの心の“空白”に色をつけるかのように紡がれていく。それは未来への希望を指し示すかのような、温もりを感じさせた。

 本編ラストは「birthday song」。アコースティックギターのボディを叩き、心臓の鼓動を連想させる音を発信するさユり。それは今まさに生を受けた瞬間とも取れる音。そして、生まれ生き抜いていく真理を追求していくかのようだ。「ミカヅキ」から始まり「birthday song」で終わるという、感情を内から外へ放出するような感覚のなか、さユりはステージを後にした。

 アンコールに応え、透過スクリーンの前へ表れたさユり。生声でオーディエンスに語りかける。ギターのチューニングもその場に座り込み調整する姿に、ストリートライブのような雰囲気があった。そして、「あなたが暖かい朝を迎えられますように...」と弾き語りで「夜明けの詩」を届ける。全てが生というダイレクトなサウンドがホールの隅々まで浸透していくようだ。

 そこには静かにその歌と言葉を受け止めるかのように、佇むオーディエンスの姿。聴くものの心の隙間を埋めていくような不思議な感覚。改めて、さユりの音楽の力を感じさせたステージであった。

この記事の写真

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)