ダイナミックな男踊りと官能性を帯びる女踊り。徳島発祥の伝統芸能である“阿波踊り”は、全国にそれを踊る“連”が存在する。祭りやイベントが催されるたびに見かけることも多い踊り子たちの姿は、見る者の気持ちを高揚させ、ついつい手足を動かしたくなる魅力に満ちている。=写真はコヤブソニックのもよう=

 2人組バンド・チャットモンチーが24日、バンドの公式サイトで来年7月をもって解散することを発表した。“阿波踊り”のふるさと、徳島が生んだガールズバンドが、一つの歴史にピリオドを打つ。

 11月3日、大阪市住之江区の「インテックス大阪」。3年ぶりの復活を遂げた『コヤブソニック2017』のステージに、チャットモンチーの姿はあった。“こやびん”のニックネームを付けて慕う吉本新喜劇座長・小籔千豊が主宰する音楽フェス。なんと小籔が“大阪支部”としてバンドを担当する異色のステージを実現し、計6曲を演奏した。

 小籔は演奏合間のMCでこう話した。「あの時が一番かなって思ってましたけど、軽く超えましたね。自分のフェスでめちゃめちゃ緊張してる」。主宰者が自虐を込めてコメントした“あの時”とは、『チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2016 ~みな、おいでなしてよ!~』のこと。彼女たちが自らの故郷で主宰した音楽フェスだ。

 徳島で産声を挙げたチャットモンチー。地道なライブ活動を経て、2005年にメジャーデビュー。翌年発表した3枚目シングル「シャングリラ」がヒットし、チャットモンチーの名前は広く浸透した。2008年には初の日本武道館での公演『チャットモンチーのすごい2日間 in 日本武道館』を実現。その後も「風吹けば恋」「染まるよ」など人気楽曲を次々に生み出した。

「コヤソニ」でのもよう。囲み取材に応じる小籔千豊とチャットモンチー

 ただ、2011年には、2004年からドラムを担当していた、現在は作家としても活動する高橋久美子さんが脱退。バンド活動はつねに“変化”と隣り合わせだった。

 解散発表のメッセージの中で、チャットモンチーはメジャーデビューして以降の12年をこう表現している。

 「3ピースバンドとして駆け抜けた三人官女時代。2ピースバンドとして駆け抜けた二匹オオカミ時代。男陣、乙女団とともに駆け抜けた大人青春時代。そしてもう一度2人に戻って機械と取っ組みあったメカニカル時代」

 さらに、「どの時代にも、偽りない色んな感動があり、そこで生まれた曲たちは私たちの一生の宝物です」とも綴る。

 12年という月日にかけがえのない思い出が詰まっていることを断言し、“解散”というファンにはショッキングなニュースを提供する中で、笑顔でサヨナラを告げようとする“元気印”の2人をのぞかせた。

 『コヤソニ』出演後の囲み取材で、ベースの福岡晃子は小籔についてこう話していた。

 「後ろで支えてもらってる感じがめちゃくちゃバンドマンで、“こやびん”は、これからバンドマンとしてやっていくんだろうなって思いました」

 ボーカル・橋本絵莉子の印象はこうだ。

 「学生の時からずっとバンドをやってますけど、改めて音楽にのめり込んでいく人を間近で見るようで、『なんか、ええな』ってめっちゃ思いました」

 率直に感じた小籔の印象。ただ、“解散”という決断をしたチャットモンチーの気持ちに踏み込めば、その言葉には多くの意味が見えてくる。

 今年3月~6月に開催した全国ツアー『チャットモンチーと機械仕掛けの 秘密基地ツアー2017』の最中、“解散”について考え始めたという2人。「三人官女」「二匹オオカミ」「大人青春」「メカニカル」――。それぞれの時代を生きたチャットモンチーは、小籔という音楽に対するチャレンジャーを目撃し、“変化”の一つの形を確認した。だからこそ、小籔の『これから』をまぶしく感じ、『なんか、ええな』と新鮮な気持ちを抱いたのかもしれない。

 引退メッセージの中で、2人はこうも綴っている。

 「私たちは何度も変身を繰り返してきましたが、どの変身も不安より期待の方が大きいものでした。でも今回の変身(というか脱皮)は正直、不安と期待が同じくらいあります。だからこそ直感を信じ進んでいきたいと思います」

 “変化”は“変身”、そして、殻を打ち破り、羽ばたくための“脱皮”という通過点。まだまだ続く2人の音楽活動。新たな旅立ちを決意した橋本と福岡は、不安と期待を抱えていることを伝えるが、その未来に一番よく似合うのは「希望」の二文字だ。

 4日、『コヤソニ』の出演を終えたチャットモンチーだったが、再びステージに舞い戻った。舞台に立っていたのは、そのタイミングでの出演アーティストだったミュージシャンのレキシ。彼は自身の楽曲でコラボするアーティストにそれぞれレキシネームを付けているが、楽曲「SHIKIBU feat. 阿波の踊り子」で、チャットモンチーは“阿波の踊り子”のネームをもらっている。

 会場が歓喜に包まれる中、体を揺らし、リズムに身をゆだねる2人。<シキシキブンブン シキブンブン~♪>との軽快な歌声に誘われるように、会場の興奮は一気に高まる。なかなか見ることは叶わないレアなコラボ。官能的とは言わないまでも、楽しそうに踊る“阿波の踊り子”の目の前で、観客もまた、魅了されるように体を揺らしていた。

 チャットモンチーはファンへの感謝を寄せる。「こんな私たちを愛してくれた皆さま、曲を聴いてくれて、ライブに来てくれて、本当に本当にありがとうございました」

 その一方で、こんなメッセージも。「しかし、ただでは終われない私たちですので、また元日にいろいろ発表しますね」

 2人の“阿波の踊り子”は、解散することを決断した。ただ、「笑顔でゴールテープを切るまで」とメッセージに込めたように、チャットモンチーというバンドのエネルギーは衰えることなく、ファンに向けてますます放散されていくことになりそうだ。【小野眞三】

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