小籔千豊「KOYABU SONIC」はなるべく小さく? その真意に迫る
INTERVIEW

小籔千豊

「KOYABU SONIC」はなるべく小さく? その真意に迫る


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:23年09月12日

読了時間:約11分

 小籔千豊主宰の“音楽と笑いの融合”をテーマにしたフェスティバル『KOYABU SONIC 2023』が、9月16日、17日、18日にインテックス大阪4号館、5号館で開催。2008年から開催している『KOYABU SONIC』(通称、コヤソニ)。2019年以降、コロナ禍で中断されていたが4年ぶりの開催となる。これまでは音楽とお笑いの融合で見せてきた同イベントは、今回新たに人気オンラインゲーム『フォートナイト』も加え、3つの柱で展開。今まで以上の盛り上がりが期待できる。インタビューでは、KOYABU SONIC 2023主宰の小籔千豊に今回の見どころから、まだ知られざる未来の展望まで話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

バレンシアガは地味に自分のやることをやるだけ

村上順一

小籔千豊

――4年ぶりの『KOYABU SONIC』開催となりますが、この4年間どのように考えていましたか。

 コロナ禍が終わったらフェスができるのだったらやろうかなというくらいで、「何でできへんねん!」ということはなかったです。2020年にやろうと思いましたが、直前で中止にしたんです。そこは申し訳ないなと思ってました。

――今、お笑いはもちろん、ジェニーハイでのバンド活動もあり、フェスを行うとなると大変ですよね?

 『KOYABU SONIC』は当日は全然大変じゃなくて。ワンマンだとだいたい1時間45分やり続けているけど、それからみたら30分とかで短いので。それまでの準備、10カ月間くらいのブッキングや調整などが大変なだけで、『KOYABU SONIC』をやること自体は「チケット売れるのかな…」「赤字にならないかな」というのはありますけど。本番は凄いメンツが出てくれるので盛り上がるのは100%ですから。このイベントに関しては他と比べて始まるまでの不安がゼロなんです。僕が凄い、面白いと思う人しか出てもらってないので、中身も不安がなくて気が楽なんです。

――今回、新たにオファーした方は?

 新しい学校のリーダーズさん、Awichさん、anoさん、kroiさん、DOPING PANDAさん、コロナナモレモモさんなどですね。

――毎回、アーティストに関しては色々とチェックされているのでしょうか。

 僕はそれほど音楽は詳しくなくて。渋谷系の音楽を聴いて育ち、バンドをやり始めた時に「先輩アーティストはどんなことしてるのかな?」と、ゲスの極み乙女さんなどを色々と観たなかで繋がりができて、ジェニーハイにつながりました。2023年に来そうなバンドというのは2015~2016年頃からいろいろ観ていました。

――チェックし始めていたのですね。

 そんな中でおとぼけビ~バ~さんを見つけて。それでオファーさせていただきました。それと同じ感じでいうと、新しい学校のリーダーズさんとanoさんに関してはTikTokです。僕はおっさんなのでTikTokはあまり観ない文化ですけど、勉強のためにTikTokを観ている中でanoさんや新しい学校のリーダーズさんなど「フェスに出てもらえたらいいな」と思ってオファーさせていただきました。

――小籔さんのアンテナに引っかかったんですね。

 anoさんはバラエティーに出ているところしか観たことがなかったんですけど、「歌も歌ってはるんや」と思ってずっと観ていたら「こっち本業なんや」と知って。凄く魅力があって面白そうな人やなと思い「来てもらったらお客さんも喜ぶやろな」と思いました。新しい学校のリーダーズさんも名前は聞いたことはあったのですが、TikTokを観ていたら、これは凄いと思って会ってみたいと思いました。

――フェスを盛り上げてくれる感じがありますよね。個人的に小籔さんもドラムで参加するバレンシアガにも注目しています。一度解散しましたが『KOYABU SONIC』で復活します。この期間は全く音出しをしていなかったんですか?

 もう全く。昨年で終わりでしたね。

――前回はチャットモンチーの「シャングリラ」でしたが、今回演奏するのはBLANKEY JET CITYの「PUNKY BAD HIP」です。かなり難しい曲ですよね?

 そうですよね。みんなもいま必死に練習してるんじゃないですか? まだリハーサルは全然してないですけど。僕はジェニーハイのツアーがあったので、これから練習しはじめようかなという感じです。(※取材時)

――この曲を選らばれた理由は?

 僕以外の3人、フットボールアワーの後藤(輝基)さんと岩尾(望)さん、そして(千原)ジュニアさんがBLANKEY JET CITYが好きでして。僕はその時期はあまり音楽を聴いてなくて、20歳くらいの時に、スチャダラパーさんやTOKYO No.1 SOUL SETさん、カジヒデキさん、EGO-WRAPPIN'さんなどを聴いていたので、ほかのジャンルをあまり聴いてこなかったんです。

 BLANKEY JET CITYは伝説のバンドですし、絶対演奏するのは難しい、無理ちゃうかなと思ったんですけど「いけるいける!」って後藤さんがめっちゃ言ってたけど、みんなは「めっちゃ難しい」って言いだして「だから言ったやん」って。だからこれが一番大変なんですよ。ハッキリ言ってこれ以外は何も大変なことないですよ。

――楽しみですよね。課題曲が難しいことでバンドがどんどん上手くなっていくのかなと。

 でもこれでまた解散して、活動しないので振り出しに戻ると思うんですよ(笑)。

――小籔さんはバレンシアガにどんなやりがいを感じていますか。

 お三方、特にジュニアさんと岩尾さんが練習してきたものを見せることが一番の見どころだと思っています。だから、お客さんからしたら「ちゃうねん。この2人が見たいねん。お前いらんことすんな」となると思うので、僕は粛々と2人を立てるために、地味に自分のやることをやるだけと言う感じです。

『KOYABU SONIC』をやり続ける意義

村上順一

小籔千豊

――さて、『KOYABU SONIC』は『SUMMER SONIC』に出れなかったことをエネルギーに立ち上がった企画です。その役目を2014年で一旦終え、2017年から再び走り出しました。第二章という感じもあると思うのですが、今『KOYABU SONIC』はどういった姿勢で動いているのでしょうか。

 最初は僕とレイザーラモンの2人とビッグポルノというヒップホップユニットをはじめて、それでサマソニに「出演させて」とお願いしたけどダメだったので、じゃあ自分たちで作らないとどこも出してくれないと思いました。それでいろいろな人にお声がけしたらみんな協力してくださってフェスっぽいことができて。それでみんなが「これ毎年やろうよ」と言ってくれたから続けていました。その時は「ビッグポルノを広めるため」ということが前提にあったんです。

 でも、ビッグポルノが終わることになったので、大義名分がないのにフェスをやっているのも気持ち悪いなと思って。「何、芸人がフェスやるねん」とか言われた時に、「いや違うんですよ、他に出られへんからやってるんですよ」という言い訳があったのに、それが無くなったらフェスを止めるべきだと思い一回閉じました。そうしたらみんなから「閉じるな」と言われて。

――もったいないと思います。

 藤井隆さんからも1時間くらい説教されて。「これだけのこと続けてきたのに閉じるな」と。「いずれ復活しようと思います」と言ったら「いや、1回閉じたらまた戻すのしんどいから続けろ」って。でも僕は「最初の理由がなくなったから閉じるのが筋だと思うんです」と話したら、「そんなの誰も気にしていないし、やってくれと思ってる人が多いんだからやったほうがいい」と言ってくれて。でも「仰ることわかるんですけど、ここは筋を通させてください」と僕は一旦終わりを選びました。

――小籔さんの筋を通すかたちになって。

 それで、打ち上げの時に「やれへんの?」って言われて、「こういう理由で1回閉じるんです」と伝えて。そしたら「そんなんええのに!」と、やっぱりみんな言うんですよ。ビッグポルノの理由がなくなったらもう一つ理由作ればいいと考えて、2017年に吉本新喜劇ィズというバンドを広めるためにフェスをやらせてくださいと。そのために2015年からバンド練習を始めて、2016年にデビューして、1年間ライブを経験して、2017年に『KOYABU SONIC』を復活させます、ということは2014年の打ち上げでみんなに話していたことです、

 それで吉本新喜劇ィズ広めるという建前で続けて居たんですけど、コロナ禍になり、ボーカルとキーボートとベースが全員同時期に出産することになって。だから「子育ての方向性の違い」という名目で活動休止中なんです。それで、今年だったらいけるかなと思ったんですけど、ボーカルが2人目を産みまして。それもあって今回は無理かなと、どうしようかなという時に「ジェニーハイがあったわ」と思って。だから今回ジェニーハイが2日間出演するのは、ジェニーハイを広めるためのフェスだと。

――常にグループがあるなかでのフェスなんですね。

 それがないと僕は多分やらないです。

――とはいえ、ジェニーハイはかなり有名ですけど...。

 ジェニーハイは『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』にも出させてもらったりしてるので、別に広めるとは違うんですけど(笑)。「大切にしている音楽ユニットのため」ということが建前です。

――音楽とお笑いの融合もこのフェスの大きな特徴ですが、このスタイルについて今はどんな思いがありますか。

 最初の頃、取材してくれた方々が「珍しいですね」「唯一無二ですよ。音楽とお笑いを同量で出しているフェスなんてない」と言ってくれて。でも昨今、音楽とお笑いのフェスなんてゴロゴロあるし。

――番組などでもありますよね。それは『KOYABU SONIC』が元祖みたいな?

 元祖という風に思っていますけど、そうなってくるとちゃんとしたフェスが、音楽とお笑いをやり出したら、僕が音楽とお笑いのフェスをやる必要がないんですよね。全然やってもらっていいんですけど。前までは珍しがってくれてたけど、もう珍しくないと。じゃあどうしようかとコロナ禍に考えました。僕はゲーム『フォートナイト』にめっちゃハマってるし、『フォートナイト』に恩返ししたい、広めたいと思いました。海外では音楽とゲームのフェスってあるんですけど、音楽とお笑いとゲームのフェスって世界中どこを見てもないので、これを実現できたら僕がやる意味もあるのかなと思ったんです。

自分の目が届く範囲で

村上順一

小籔千豊

――新しい風ですよね。ゲームが好きという人が新たに訪れるフェスになる。そういった新機軸を打ち立てることは凄いことだと思います。

 たまたまですけど、『フォートナイト』に出会って、その世界にお世話になっているので、なんとか恩返しできたらという思いがずっとあった中で、「これらの3つ合わせたら『フォートナイト』にも喜んで頂けるかもしれない、新しいフェスになるかもわからない」と思いました。それで、来たお客さんの中高生なども、「フェス行くで」と言われて「う~ん…」となっても、『フォートナイト』目当てだったら行くとなったり。親御さんは音楽やお笑いを観て、お子さんは『フォートナイト』を観てと、前よりは家族で来やすいかなと。

――小籔さんは昔からゲームが好きだったんですか?

 小中学校の頃はよくやっていました。ファミコンとかプレイステーションくらいまでは。この世界に入ってネタを考えなければいけないので、だんだんやらなくなっていって結婚と同時にほぼ止めました。それで家族ができて、子どもがマリオシリーズをやって、そのなかで難しいと言う時に一緒にやったりするくらいでした。

――では『フォートナイト』はお仕事のなかできっかけがあった?

 子どもの影響ですね。息子がYouTubeで他の人がプレイしているのをよく観ていて、「こんなの観てておもろいのか?」と聞いたら「自分でもやるけど、観るねん」と。それで、えらい時代が来たなと感じて。ウチは嫁さんが厳しくて、1日1時間しかゲームができないんですけど、1時間ゲームで消費したら息子はやることがないんですよ。そこで僕が帰ってくると「ゲームやろう!」と誘ってきて。

――小籔さんと一緒だとゲームOKなんですか?

 息子一人だと1時間までだけど、パパとやるならいいと。なんとなくグレーなルールで(笑)。息子としては、僕をゲームにハメようとしてるんですよ。それで息子が「これやってみ? 面白いから!」と言って僕がゲームにハマるようにプレゼンしてくる。僕とだったら自分がゲームできる時間増えるから一生懸命なんです。忙しいから断ってたらまた別のタイプのゲームを「やってみ」と。

 それである時、『フォートナイト』をやってみました。それでまた別のタイミングで「もう1回やってみ?」「もうええて…」って言いながらも付き合っていたらだんだん『フォートナイト』をやりたくなって、だから息子にハメられたというかたちですね。

――さて、『KOYABU SONIC 2023』の記者会見で、後藤さんに双子が産まれたサプライズ報告がありました。逆に今回、小籔さんに何かサプライズのコメントをして頂けたらと思うのですが…。

 そうですね。テキサスホールデムポーカーという、世界大会もあるポーカーがあるんですけど、それに僕はハマってるんです。いつか『KOYABU SONIC』は音楽とお笑い、『フォートナイト』とポーカーの4本柱になるかもしれないという考えがあります。

――それにはクリアしなければいけないこともありますよね?

 多分すぐできるんですけど、会場が必要ですよね。もうひとつ借りないといけないので。

――どんどん拡大していく可能性がある?

 それほど大きくしていきたい気持ちはないんです。イメージとしては法律的にいけるのかわからないんですけど、海外の世界大会では一人100万円エントリーフィーを払って、勝ったら7億とか獲得できる大会があるんです。それを『KOYABU SONIC』内で例えば10万円出して3日間予選をやって、最後に優勝者が決まる。たとえばその人に10万円が1,000人で1億。それは無理だとしても10万円が100人で1,000万円とか。

――『M-1グランプリ』くらいの賞金になると。

 そういうの別にやってもいいのかなと思ってますけどね。そういう考えがあるということを始めて明かしました。

――でも、なぜそこまで大きくはしたくないんですか。

 旧日本軍も領土を広げようとして南下していき、物資が足りなくなって負けていきます。平清盛もそうですよね。「驕れるもの久しからず」で僕はなるべく小さく、大きいことにはしない。いまは出会う人が多いから1日では足りなくなって、3日間という規模になっていますが、それは大きくしているわけではなく、多くの人に出演してほしいからそうなっただけです。大きくしていくと、自分の目が行き届かなくなりそうなので、自分の目が届く範囲で失礼がないようにやっていきたいなと思っています。

(おわり)

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