不安や寂しさに寄り添いたい、手嶌葵 自身にも重ねた「東京」
INTERVIEW

不安や寂しさに寄り添いたい、手嶌葵 自身にも重ねた「東京」


記者:榑林史章

撮影:

掲載:17年11月24日

読了時間:約8分

  ボーカリストの手嶌葵が11月22日に、初のEP盤『東京』をリリース。2006年公開のジブリ映画『ゲド戦記』の挿入歌「テルーの唄」でデビュー。唯一無二のファルセットボーカルで幅広い世代からの支持を得て、10周年となった昨年はフジテレビ系月9ドラマ『この恋を思い出してきっと泣いてしまう』の主題歌「明日への手紙」がヒットした手嶌。今作の表題曲「東京」は、テレビ東京系『ワールドビジネスサテライト』エンディングテーマとしてOA中で、11月10日に『ミュージックステーション』で歌唱したことから問い合わせが急増した。「お仕事をされている方に共通の、不安や寂しさに少しでも寄り添いたいという気持ちで歌いました」と話す、彼女にとっての“東京観”や、オペラや松田聖子の楽曲カバーなど多彩な収録曲について話しを聞いた。【取材=榑林史章】

曲の素敵さと歌詞の素敵さのダブルで泣きそうに

手嶌葵「東京」ジャケ写

――11月10日に、約1年8カ月ぶりにテレビ朝日系『ミュージックステーション』に出演して、いかがでしたか?

 1986年から30年以上続いている音楽番組ですから、そこにまた出させていただいて、とても光栄だと思いました。生放送ですし、朝からずっと緊張していて、出演を終えたときは正直ホッとしました。多くの方がSNSで感想を書いてくださって、それもとても嬉しかったです。

――その『Mステ』でも歌った「東京」は、すべての働く人への癒やしソングといった感じですね。

 ありがとうございます。もともと昨年リリースしたアルバム『青い図書室』に収録する予定で、東京でお仕事をするということを見つめ直して作った1曲です。仕事をする、つまり大人でいることは、とても大変なことです。それでもみんな頑張っているし、自分も頑張らなきゃいけないし。大丈夫だ! 出来る! と、自分に言い聞かせるようにして作りました。

 結局『青い図書室』には収録しなかったのですが、代わりに今テレビ東京系『ワールドビジネスサテライト』のエンディングテーマとして、お仕事をされているみなさんに聴いていただけて、とても嬉しく思っています。

――手嶌さんご自身は福岡在住で、仕事のときに東京に来ていて。そこで感じることもあったわけですね。

 18歳からお仕事をさせていただいて、周りの大人にたくさん助けていただきながら、「大人って大変だな〜」と思ったことを思い出します。私自身30歳になり、お仕事をするということに対して、自分の中でルーティーンが出来ていたり、頑張れているなと、多少なりとも自信が付いていたので、みなさんに向けて「一緒に頑張りましょう」と伝えられるんじゃないかと思いました。

――作詞はいしわたり淳治さんで、シンプルにあえて簡単な言葉だけで書いているので、それで余計に胸に響く感じがしますね。

 シンプルだからこそ、それぞれの中でああでもないこうでもないと、想像を巡らすことが出来ると思います。いしわたりさんには、私が東京でお仕事をするときに少し不安があることや、大丈夫だ、頑張れる、と自分自身に言い聞かせながらやっていることをお伝えして。基本的にお任せしたのですが、<直したい気持ちがある>というフレーズには、こだわりました。

 「直す」というのは博多弁で、「片付ける」という意味で、「片付けておいて」と言うときは「直しとって」と言うんです。私の中では、地元の言葉が入っていることが嬉しいし、「仕事を片付ける」という意味と「気持ちをリセットする」という意味を重ねています。

――非常に落ち着いたミディアムバラードで、優しさや温かさが感じられる歌声ですが、どんなことを意識して歌いましたか?

 キーが少し高めですけど、歌いにくさみたいなものはありませんが、曲の素敵さと歌詞の素敵さのダブルでくるものがあって、最初に仮歌で歌ったときは本当に泣きそうなりました。今やっているツアーでも、泣かないようにと気持ちを落ち着けて歌うように心がけています。

 久しぶりに『Mステ』に出演させていただいたときは前の晩から緊張して眠れなくて、ホテルの窓からビルの灯りや夜景を眺めていました。この歌詞はまさしく自分に当てはまったし、実際の私にとても近い歌詞だったので、私の気持ちを分かってもらえたら嬉しいなと思って歌っています。

――働く人へのある種の応援歌ですが、手嶌さんが仕事を頑張りたいときの栄養源は何ですか? やはりもつ鍋とか?

 どれだけ博多のイメージなんですか(笑)! でも焼き肉とか、最近はサムギョプサルが好きなので韓国料理屋とか、スタッフさんとお肉を食べながらお話をするのが栄養源になっています。マネージャーさん、衣装さん、メイクさん、私を支えてくれているみなさんと「今日はああだったね」「こうだったね」と、ワイワイ話しながら食べるご飯は本当に楽しいです。

――手嶌さんが大きな声でワイワイと話すのは、あまり想像が付きませんけど。

 けっこうしゃべりますよ。もしかすると、歌うときの声よりも大きいかもしれないです(笑)。 (※「それは無い」(笑)マネージャー談)

イタリア語のオペラに初挑戦

手嶌葵

――2曲目に収録の「赤い糸」は、NHK BSプレミアムドラマ『女の中にいる他人』の主題歌で、情念と言いますか内側に激しいものを感じますね。

 両親に「見てね」とは、薦めづらいドラマです(笑)。歌詞も女性特有のドロッとした感じがあり、なかなか激しいなと思いました。自分の中で当てはまりそうな映画のシーンを浮かべて「こういう感じかな」と、想像を巡らせながら歌いました。

――基本は暗めですが、サビは少し明るさを感じて、そこは救いが感じられると言うか。

 浄化される気持ちになっていただけたら嬉しいです。私自身今まで、愛や恋を歌った内容の曲は少なくて、それだけに「今までと違う」とか、驚いたという意見も多くて。新しい一面を見てもらえたと思います。

――「オンブラ・マイ・フ」は、映画『永い言い訳』挿入歌で、オペラ楽曲ですね。

 はい。オペラを歌ったのは初めてでしたが、毎回無理難題を言ってくる(笑)プロデューサーさんが関わっていて、今回もすごくハードルが高いものをご提案いただきました。

――この曲自体は、どこかで聴いたことが?

 何かの映画で使われていて、耳にしたことはありました。でもそれはプロのオペラ歌手の方が歌っていたので、まさかそれを私が歌うことになるとは思わなくて。

――イタリア語で歌われていますが、発音は難しかったですか?

 イタリア語の先生にチェックしていただいたのですが、イタリア語は耳馴染みがないのですごく大変でした。でもカタカナっぽい発音が多かったので、耳で聴いたものをそのまま発音するという歌い方が出来て、少し助かりましたけど。

 同じフレーズを何度も繰り返す歌で、でも少しずつ譜割りやメロディが変わっていく、ポップスとはまったく違った構成や表現の曲です。実際に歌って思ったのは、本当に気持ちがそのまま歌になっているようだということです。気持ちのままに抑揚を付けて、歌って行くものだなって。オペラであることは意識せず、私らしく歌って良いとおっしゃっていただいたので、すごく安心しました。

良かったらお一人で聴いていただけると嬉しい

手嶌葵

――そして、松田聖子さんの楽曲「瑠璃色の地球」のカバーも収録。

 実は以前に違うCMでカバーさせていただいたことがあって、同じ曲を2度カバーするという貴重な経験をさせていただきました。前回のカバーのときに初めて聴いたのですが、聖子さんの音源を聴いて、とても落ち着いて丁寧に歌っていらっしゃることが伝わって。アイドルとしての松田聖子さんの印象とは違っていたので、すごく驚きました。

――前回のカバーと今回では、何か変わりましたか?

 特別何かが違うわけではありませんけど、今回のほうが、テンポが少し遅いくらいです。今の時代は、若い子がいろいろな事件に巻き込まれたりとか、暗いニュースがたくさん流れている中で、こういう優しい気持ちの曲もあるんだよって伝えたいし、たくさんの方に聴いてほしいと思います。

――そして、「The Christmas Song(Live)」も収録。

 12月が近かったので、入れてみようと。でも、そんなに明るいクリスマスソングというわけではなくて、落ち着いた大人のクリスマスといった感じは私らしいと思います。クリスマスをお一人で過ごされる方に、楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。

――今回はEPという形式で、全体に優しい気持ちになれる1枚だと思いました。手嶌さんとしては、どんな1枚になりましたか?

 『東京』と名付けてはいますけど、東京に限らずお仕事をされている方には共通の不安や寂しさがあると思うので、そういう気持ちに少しでも寄り添えたらと思いました。歌詞カードを読みながらじっくり楽しんで欲しいですし、通勤通学のときはちょっと目をつむって聴いていただけたら嬉しいです。全体に静かめでゆったりとした1枚ですので、良かったらお一人で聴いていただけると嬉しいです。晩酌しながらも良いかもしれません。

――現在は、来年にかけて年またぎで『手嶌葵 Concert Tour 〜J’ adore chanter〜』を開催中ですが。

 以前はずっと変に緊張し通しでしたけど、最近はライブ自体楽しむ余裕も出て来て。それがツアーとして長く続けられるのは、本当にお客さんが優しく見守って下さっているからだなと思います。

 今はアルバム『青い図書室』の曲をメインに歌わせていただいています。12月はクリスマスっぽい選曲も歌いたいと思いますし、さすがにお正月の曲はありませんけど(笑)。そのときの季節を感じながら、楽しんでいただけるものになればと思っています。

作品情報

手嶌葵
初EP盤『東京』
11月22日発売
1500円(税抜)VICL-64898

▽収録曲
1. 東京(テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」エンディングテーマ)
2. 赤い糸(プレミアムドラマ「女の中にいる他人」主題歌)
3. オンブラ・マイ・フ(映画「永い言い訳」挿入歌)
4. 瑠璃色の地球(薩摩酒造 白波「この地球の日々たちへ。」CMソング)
5. The Christmas Song(Live)
6. 東京(instrumental)
7. 赤い糸(instrumental)

ライブ情報

▽『手嶌葵 Concert Tour ~J’ adore chanter~』
12月3日 神奈川・パシフィコ横浜国際会議センター メインホール
12月17日 東京・中野サンプラザホール
2018年1月13日 福岡・福岡市民会館
2018年1月27日 愛知・名古屋市芸術創造センター

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