井上陽水、“ピュア”な音楽愛が溢れたステージ 渋谷2日目
単独公演『井上陽水 コンサート2017秋 ″Good Luck!″』のもよう
シンガーソングライターの井上陽水が12日と13日に、東京・Bunkamura オーチャードホールで単独公演『井上陽水 コンサート2017秋 ″Good Luck!″』をおこなった。10月3日の埼玉 ・大宮ソニックシティを皮切りに、12月3日の東京国際フォーラム ホールAまで全国13公演をおこなうというもの。この日は7公演目となる東京公演。「ワインレッドの心」や「夢の中へ」など定番曲も盛り込んだアンコール含め全23曲を披露。13日の公演のもようを以下にレポートする。【取材=村上順一】
テーマは“誠実”
ステージ上には数多くの楽器が存在感を放っていた。これから始まるパフォーマンスへの期待感は時計の針が進むにつれて大きくなっていくのがわかる。開演時刻になると、ゆっくりと暗転し、サポートメンバーがステージに登場。キーボードの小島良喜による幻想的なサウンドに、コーラス隊のLynによる透明感あふれる歌声が会場を包み込んだ。その中を井上陽水がステージ中央にゆっくりと歩み寄り、柏手をひとつ打ち、これから始まるライブへの、気合は十分と「この頃、妙だ」でライブの幕は開けた。
今回のツアーのテーマは“誠実”の2文字だと語る陽水。改めて半生を振り返り思いついた言葉だと話す。独特な空気感を放つMCに続いて披露された「Make-up Shadow」では、アグレッシブなビートの上を泳ぐように歌い紡ぐ陽水の歌に、観客の目と耳はステージに釘付け。陽水ならではの個性的なグルーヴで観客を揺さぶっていく。
陽水のワイルドなアコギのストロークが響き渡り、観客の歓声とともにフェードインしたのは「東へ西へ」。山木秀夫(Dr)のバスドラムが陽水の声に絡み合うように後押し。迫り来る歌で高揚感を煽っていく。シーンを一転させバラードの「ワインレッドの心」を届けた。円熟した歌声は、グラスの中で揺れるワインのように優雅に紡がれていく。そっと心に語りかけてくるような繊細な歌声に酔いしれた。
陽水の独特なMCで和んだ後はNHK総合『ブラタモリ』のオープニングテーマである「女神」を届ける。ブラスの効いたラテンを感じさせるリズムに、歌謡曲のテイストが絶妙にブレンド。なんとも躍動感のある陽気な空間に変えてしまった。続いては同番組のエンディングテーマの「瞬き」とゆったりとしたリズムの相対的な楽曲でライブに彩りを与える。
ライブは後半戦へ。陽水、長田進(Gt)、今堀恒雄(Gt)の3人がアコギを手に取り、アコースティックコーナーからスタート。陽水は改めてこの半生を振り返り、故・忌野清志郎との共同作曲について話してくれた。当時を垣間見れる貴重な話からその合作曲である「帰れない二人」を披露。その時代にタイムスリップしたかのような錯覚を与えてくれるような、情景がリアルに映し出される歌と演奏を堪能。続いて、この季節にマッチした「神無月にかこまれて」や、沢田研二に提供した楽曲「Just Fit」など、懐かしい楽曲たちを当時のエピソードとともに披露し観客を楽しませる。
薬師丸ひろ子提供曲の「めぐり逢い」を披露
再びサポートメンバーが集結しフルバンドで届けたのは、南国の風を感じさせる名曲「コーヒー・ルンバ」を披露。先ほどまでは時間旅行といった趣の流れから、次は世界旅行をしているかのような感覚を与えてくれた。この懐の深さを感じさせるのは超一流のメンバーによる演奏が、陽水を後押ししているからといっても過言ではない。
そして、「割と新しい曲を...」と陽水が投げかけ始まったのは、薬師丸ひろ子の歌手活動35周年を記念し陽水が書き下ろした楽曲「めぐり逢い」。しっとりとしたナンバーで、陽水の表現力の幅の広さを見せる。そして、広がりのあるサウンドで聴かせた「夜のバス」に続き、観客もスタンディングで盛り上がった「氷の世界」。タイトルとは対照的にサルサ調のアレンジで展開。日本人といえどもラテンの血が騒ぐかのような躍動感。陽水もステージをリズミカルに動きながら観客を煽る。
その騒いだ血を落ち着かせるようにスローナンバーの「結詞」を届ける。ライブを締めくくるのに相応しいナンバーだ。子守唄でも聞いているかのような、心地よい揺らぎが会場を包み込む。エピローグのように響き渡る楽曲を浴びながら本編を終え、ステージを後にした。
蒼い光が会場を照らすなか、観客は手拍子で陽水を呼び込む。「感謝の気持ちをアンコールに乗せて...」と投げかけ、もともと「熊猫深山」と言うタイトルだったと言う「アジアの純真」を披露。ブリッティシュロックアレンジで、原曲とはガラッと趣を変え放つ同曲は、全く別の面を見せ楽しませる。<今アクセスラブ♪>のフレーズで手をハート型にして見せた陽水も印象的だった。
続いて、代表曲のひとつである「夢の中へ」では、トップミュージシャンたちの遊び心が存分に発揮され、ステージ上もポジティブなエネルギーで溢れていた。このまま終幕を迎えるかと思いきや、ラストは陽水の初期のナンバー「傘がない」をブルージーな演奏とともに、叙情的に歌い上げる陽水は圧巻の一言。生き様を放出するようなパフォーマンスで、ライブの幕は閉じた。
ステージは嘘偽りのない“誠実”さが滲み出た公演だったことは言うまでもないだろう。ツアーはまだ折り返し地点。ファイナルの東京国際フォーラムでは、どのような進化を見せてくれるのだろうか。
セットリスト01.この頃、妙だ ENCORE EN1.アジアの純真 ライブ情報11月17日 徳島・鳴門市文化会館 |