井上陽水が7月2日と3日、東京・Zepp DiverCity Tokyoでワンマンライブ『井上陽水 コンサート2018 ROCK PICNIC』のツアーファイナルをおこなった。4月18日の東京・EX THEATER ROPPONGIを皮切りに全19公演をおこなうというもの。盟友・小島良喜(key)とギター、ベース、ドラムに若手のバンドメンバーを起用し、いつもとは違ったサウンドやアレンジでライブは展開。井上陽水ならではのトークと新曲「care」や代表曲「夢の中へ」などアンコール含め全17曲を披露し観客を魅了した。【取材=村上順一】

最後まで誠心誠意努めたい

井上陽水(撮影=三浦憲治)

 定刻になり会場が暗転すると、バンドメンバーに続き、陽水がステージに登場。拍手に迎えられ陽水の威勢のある掛け声を合図に「アジアの純真」でコンサートの幕は開けた。個性的な言葉の羅列は、陽水の歌声によって言霊のように響き渡る。オープニングから“ROCK PICNIC”のタイトルにふさわしいロックアレンジで魅了した。

 NHK『ブラタモリ』のオープニングテーマである「女神」、25年前の楽曲とは思えない色褪せない輝きを放つ「Make-up Shadow」とご機嫌なリズムアレンジで、いつもとまた違った表情を映し出した。陽水の歌もアグレッシブさを感じさせるアタックの強さでバンドをけん引していく。MCではお客さんをいじりながらユーモアの溢れるトークで笑いの絶えない空間を作り上げた。「最後まで誠心誠意努めたいと思っています」という言葉からブルージーなアレンジで「映画に行こう」をセクシーに歌い上げたかと思うと、「My House」で“大人のロック”をソウルフルに届けた。対照的だったのはNHK『ブラタモリ』エンディングテーマであるゆったりとしたナンバー「瞬き」。陽水の歌とアコースティックギターをメインに空を包み込むかのようなバンドのサウンドは、レイドバックした空間を提供。時間がゆっくりと流れるような穏やかな瞬間だった。

 今回はライブハウス、そして滅多に行けないところをコンセプトにツアーをおこなったと話す。北海道の利尻では公民館でライブをおこなったというツアーの思い出話しから「東へ西へ」を披露。乾いたアコギのサウンドに情景を映し出すかのような陽水の歌声。歌詞を利尻島にちなんだ言葉に変え、その利尻での模様をここで再現。続いて、ツアー先で星や蛍を見て、自身が学生だった頃を思い出したと話す陽水。ノスタルジーに満ちた話に続いて届けられたのは「帰れない二人」。月明かりのような照明を浴びながら、情緒溢れる歌を歌い上げる陽水。感情を揺さぶりかける歌声を堪能。

新曲の「care」を披露

井上陽水(撮影=三浦憲治)

 近年恒例となっている15分の休憩を挟みコンサートは第2部へ。シャッフルのブルースをベースにしたアレンジが体を揺らした「感謝知らずの女」、田口慎二(Gt)によるサイケデリックなエレキギターのフィードバックから、クールなロックサウンドを放った「Just Fit」では、エネルギッシュな陽水の歌に呼応するかのように、バンドサウンドも後半に行くにつれ熱を帯びていく。そして、代表曲のひとつ「少年時代」をオリジナルとはひと味違った跳ねたリズム、南国の風を感じさせるアレンジで歌い紡いだ。新たな一面を見せた「少年時代」、改めて楽曲は生きているということと、名曲はどんなアレンジでも輝きを失わないことを感じさせた瞬間でもあった。

 続いては7月25日にリリースされるシングル「care」を披露。夏にピッタリな軽快なビートに爽快さを感じさせる歌声。“陽水節”の中に新しさを感じさせるサウンドで名曲が並ぶセットリストをより彩った。そして、手に汗握るスリリングな演奏で聴かせた「夜のバス」、続いて陽水の持つ世界観のスケールの大きさを感じずにはいられなかった「最後のニュース」。朗読のような語りかけるスタイルはより歌詞の持つメッセージ性を強く打ち出し、陽水にしか出せないオリジナリティをぶつけ、圧倒的な存在感のなか本編を終了した。

 観客の鳴り止まない手拍子に再びステージに陽水とバンドメンバーが登場。現在サッカーW杯が盛り上がっていることもあり「スパシーバ」とロシア語で観客に感謝を告げ、アンコールは「氷の世界」を披露。観客も立ち上がり手拍子で楽曲のグルーヴに乗り楽しむ姿が観られた同曲は、陽水の類い稀なる表現力で季節外れの吹雪をお台場に吹き付けるようなインパクト。陽水自身によるブルースハープソロも印象的であった。

 セッションをするかのようにヒット曲「夢の中へ」を披露。過去の楽曲は観客各々の当時へと連れて行ってくれるかのようなノスタルジーを感じさせる。音楽は時に記憶を蘇らせる力を持つが、このアンコールの2曲はよりそれを感じさせてくれるような演奏と歌であった。盛り上がりはピークを迎え、ロックの真髄とも言える生き様を見せた『井上陽水 コンサート2018 ROCK PICNIC』の幕は閉じた。

▽バンドメンバー

小島良喜(key)
田口慎二(Gt)
なかむらしょーこ(Ba)
張替智広(Dr)

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