坂本龍一

 音楽家の坂本龍一が1日、東京・六本木で開催中の『第30回東京国際映画祭』内でおこなわれた、イベント『東京国際映画祭 マスタークラス 第4回“SAMURAI”賞受賞記念 坂本龍一スペシャルトークイベント~映像と音の関係~』に登場。「戦場のメリークリスマス」を始め自身が手掛けてきた音楽制作のエピソードなどを振り返った。

 このイベントは、アカデミー賞など数々の国際的賞に輝いてきた坂本の軌跡をたどるとともに「映像と音の関係」を題材にしたトークを音楽・文芸批評家の小沼純一氏とともに進めるというもの。

 坂本は今回、「時代を切り開く、革新的な作品を世界に発信し続けてきた映画人に贈られる」というコンセプトのもとに設けられた「SAMURAI賞」を受賞したことに対し、祝いの言葉が贈られると「僕、侍ですかね? そぐわないような気もする?」といきなりコメント、笑いを誘う。

 この日は若年期に触れた映画、および印象に残る映画音楽などを回想「人生で最初にいいと思った映画音楽は、なんだろうかと思ったら、ニーノ・ロータ(イタリアの作曲家)。『フェリーニの道』とか。昔はラジオでも映画音楽がかかっていたんですけど」などと振り返り、ほかにも同じく「太陽がいっぱい」「第三の男」などといった思い出の曲を挙げる。

 この日は、これまで坂本が手掛けてきた映画音楽にまつわる制作エピソードや、そこから見える、「映像と音の関係」に対する坂本の考えなどをトーク。初制作となり、映画にも出演した「戦場のメリークリスマス」では「映画は普通は音楽家がオファーはできないんですけど、大島渚監督が台本を持ってきて出演依頼をした際に『音楽もやらしてくれるのなら出てもいい』と言ったら、大島さんはその場で『ハイ、お願いします』と」と自身のオファーを通したという驚きのエピソードが。

坂本龍一

 さらにはオーケストラ演奏を中心とした『ラストエンペラー』は、当初シンセサイザーで演奏したかったことを明かしながら「自分のシンセサイザーを東京からロンドンに持って行って、ベルナルド・ベルトルッチ監督の前で演奏を披露したら『演奏者の衣ずれの音はどこなんだ?』『椅子のきしむ音は?』と突っ込みが入り却下された」という知られざる話や、「リトル・ブッダ」のクライマックスシーンの音楽制作では「(ベルナルド・ベルトルッチ)監督が最初に『龍一、僕はティッシュ・カンパニーを起業する。世界中の人が大泣きして、莫大な富を得るだろうから。だから世界一泣ける曲を書け』と。それで1、2曲目は『もっと悲しく。これじゃ儲からない』って。3曲目は『悲しすぎる。希望がない』と言われて、さすがに僕も本気で怒ってしまって。『希望』なんてそんな話は聞いてないし。4曲目で却下されたものは、別のシーンで使用されていますよ」と5回も書き直したエピソードを告白、会場を沸かせた。

 また、「戦場のメリークリスマス」については、曲にまつわる深い話も様々。もともとはタイトルにちなみ「クリスマスソング=鐘の音」を想起しながらも、南洋が舞台であることを考え、シンセサイザーにプリセットしてあったワイングラスの音を基本とし、2週間ほどの作業に手メロディを構築。そして2週間程度の作業の後、「突然意識がなくなって、目が覚めたら譜面が書いてあったんです。ハーモニーの調整はありましたけど、まさに自動筆記みたい、自分が作った気がしないんですよ」と振り返る。

 一方で「戦場のメリークリスマス」の音楽については「シーンに対して“切り貼り”的なんですよね。つまり同期させてしまっている。まだ自分で気づいていない頃ですね」と回想、『リトルブッダ』は「ちょっと詰め込み過ぎなんですね。一呼吸置いた方がいいだろう。改めて聴いてみたら、わかってないなという感じ」と、自身が作り上げたものを振り返りまだ発展途上であった様子を語る。

 そして、かつて自身がいい映画と感じたいくつかの映画に、音楽が全く入っていないことに気が付き「自分の職業を疑った」という思いを回想しながら「良い映画ってあまり音楽は必要ないんですよ」と幾度も語りながらも「音楽のみの場合と、映画の中に組み込まれた場合では、音楽のその役割は違うと思っている。映画音楽というのは、仮に役不足でも充分機能を果たす場合も多々あります。その点がわかると、映画の見え方が変わってくるじゃないでしょうか」と改めて「映像と音の関係」に対する自身の考えを述べていた。【取材・撮影=桂 伸也】

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