日本ツアーをおこなったケルティック・ウーマン

 アイルランド出身の女性音楽グループ、ケルティック・ウーマンが9月12日、13日に東京・渋谷Bunkamura オーチャードホールで日本ツアー『CELTIC WOMAN JAPAN TOUR 2017「VOICES OF ANGELS」』東京公演を開催。バグパイプの音色から厳かな雰囲気を感じる「Amazing Grace」など2部構成で表現豊かに彼女たちの故郷アイルランドの景色を思わせる演奏で観客を魅了した。

 ケルティック・ウーマンは2004年、アイルランド・ダブリンで、クラシック音楽とアイルランドの伝統音楽の教育を受けたアイルランド女性ミュージシャンを集めてアンサンブルを組むというアイディアの元に結成。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在はイーハ・マクマホン(Vo)、マレード・カーリン(Vo)、スーザン・マクファーデン(Vo)、タラ・マクニール(Violin)の4人で構成されている。

 今年4月には最新アルバム『Voices Of Angels』をリリース、彼女たちの代表曲やアイルランド民謡、人気曲などをリストに連ね、アイルランドの72人編成のオーケストラと新たにレコーディングしたというアルバムは、アメリカでのワールド・ミュージック・チャートおよびクラッシック・チャートで1位を獲得している。6年ぶりの来日となったこともあり、日本でも多くの注目を集めているこの来日ツアー。今回は12日に渋谷Bunkamura オーチャードホールでおこなわれた公演の模様をレポートする。

広大なケルト、アイルランドの地への思いを感じさせるもの

ケルティック・ウーマン

 定刻を過ぎて薄暗くなった会場。ドラム、パーカッションのサポートメンバーが、断続的に長いインターバルのリズムを刻む。大きく鳴り響くその音は、リズムに合わせて点滅する照明のイメージと重なり、雷のとどろきを思わせた。その合間を縫うように、バグパイプの音が現れる。さらにギターとシンセサイザーの音が重なり、一つの風景のイメージを作り上げた。ふと頭の中に浮かんだのは、映画『ロード・オブ・ザ・リング』で見た、青々と茂った広大な草原のイメージ。この音だからこそ頭の中にフッと現れる光景がある。そんなインスピレーションを与えてくれるサウンドで会場は満たされた。

 そして、それまで暗かったステージの一角に照明が当てられ、そこに4人は登場した。タラはその場でバイオリンを奏で初め、3人がステージ前面に歩いてくる。オープニングのイメージそのままに、「すばやき戦士」で幕を開けたこの日のステージ。オープニングからつながる、3連のリズムに乗せたハーモニー。その土台に3人の女声によるハーモニー、そして2人の男声サポートが加わり、メロディが厚みを増す。その声は、それまで見せていた大地のイメージに縦軸を与え、広々とした青空や海のイメージを加え、さらに彼女らが作り出そうとする風景のイメージを大きなものにしているかのようでもあった。

 リズミカルでアクティブな「Dulaman」、タラのバイオリンやサポートメンバーをフィーチャーした「Across the World」と、3連またはワルツのリズムが刻まれるケルト音楽の特徴的な部分が明確に見える楽曲に、映画『タイタニック』の主題歌として有名なセリーヌ・ディオンの「My Heart Will Go on」、さらにアイルランドの小説家・作曲者のブレンダン・グラハムによる「希望にあふれ、涙にあふれる島」と、どちらかというとポピュラーな楽曲を織り交ぜて披露されたこの日のステージ。有名な楽曲である一方で、映画『タイタニック』はイギリスからアメリカへの移民に関連した物語であり、「希望にあふれ、涙にあふれる島」は同様に、アイルランドからの移民者を歌ったもので、どれも彼女たちのルーツであるアイルランド、ケルトに根差したものであることは興味深い。

 特にバグパイプの音色から厳かな雰囲気を見せた「Amazing Grace」、タラの奏でるアイリッシュハープの音色とともに披露された「Danny Boy」と、楽曲自体がアイルランドの象徴ともいえるこの2曲は、このセクションの大きな見せ場ともなり、彼女らが表現の中心に置くケルトの世界観をいかんなく披露する。そして迎えた第1部エンディング。ラストの「Nil Se'n La」では、アクティブなリズムに乗せ3人の力強いハーモニーが映える。美しいハーモニーとともに、そのハッとさせるほどの煌びやかな姿で、第1部を終えた。

個々が持つ個性、広がる表現力

ケルティック・ウーマン

 続く第2部も、勢いを感じさせるドラムとパーカッションのリズムより、序盤から聴く者の気持ちを高ぶらせる。そしてドレスを着替え、お色直しをしてきた4人は、再びステージに現れた。タラ以外の3人もそれぞれ楽器を手に登場。さらにマレードは観衆に手拍子を煽る。観衆と一体となり奏でたその音は、単に美しいサウンドを堪能するという場のものというよりは、何かステージから強いパッションすら感じさせるものとなったように見えた。続く、同じくアイルランドのアーティスト・エンヤの大ヒット曲「Orinoco Flow」では、もともと幾重にもオーバーダビングを重ねて撮られた重圧なコーラスを、彼女たちならではの生コーラスで披露と、大きな見せ場を作っていく。

 さらにタラのバイオリンのメロディが哀愁感たっぷりの小曲を間に挟み、マレードのソロによる「Ave Maria」、イーハをフィーチャーした「Walk Beside Me」と、ゆったりしたグルーブの中でそれぞれの歌がさらに聴くものの気持ちをステージに引き込む。クラシカルな美しい発声も、ポップな雰囲気も表現できるマレード、少し低い音程で個性的な性質を持つイーハ、そして伸びやかな声を聴かせるスーザンと、ハーモニーの完成度だけでなく、それぞれが一人でも強い個性を見せる歌い方ができるのも、彼女たちの強みだろう。

 次にステージはサポートメンバーをフィーチャーした「Ray Solo / Floorplay」で、観客席の方から嵐のような手拍子を呼び起こし、徐々に熱気を会場に満たしていく。そして、日本でもCMで使用された楽曲としてよく知られている「Time To Say Goodbye」を披露したあたりから、いよいよクライマックスへ。彼女たちの代表曲の一つでもあり、かつてトリノオリンピックで日本代表の荒川静香が、エキシビジョンの際に使用したことでも有名な「You Raise Me Up」で、滑らかで至福の空間を盛り上げ、エンディング曲「The Parting Glass」で幕を下ろした。この曲はイギリスのスコットランドやアイルランドで古くからある民謡で、友人や親しい人との別れの際に歌われるものとして親しまれている。彼女たちがその想いをしっかりと込めたその歌に観衆は拍手喝采、人々は総立ちで称賛の声を送る。そんな観衆に彼女たちはこの日のステージへの礼を何度も見せ、青々とした大地の光景を感じるような深い余韻を残していた。

【取材=桂 伸也】

セットリスト

『CELTIC WOMAN JAPAN TOUR 2017「VOICES OF ANGELS」』
2017/09/12 @Bunkamura オーチャードホール

第1部:
01. すばやき戦士(Mo Ghile Mear)※
02. My Heart Will Go on(cover of Celine Dion)
03. Dulaman※
04. 希望にあふれ、涙にあふれる島(Isle of hope, Isle of tears)※
05. Amazing Grace※
06. Across the World※
07. She Moved Thru' the Fair
08. The Kesh Inn
09. Danny Boy※
10. Nil Se'n La

第2部
01. Teir Abhaile Riu※
02. Orinoco Flow(cover of ENYA)
03. Ave Maria
04. Walk Beside Me
05. Ray Solo / Floorplay(サポートメンバー演奏)
06. The Voice
07. Sean-nos song
08. Westering Home
09. Time To Say Goodbye※
10. You Raise Me Up(Cover of Secret Garden)※
11. The Parting Glass

注1:※はアルバム『Voices Of Angels』収録曲
注2:曲名はアイルランド語に付随するアキュート・アクセント付きが正式表記。

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