「ファーストペンギンアワード2017」を受賞した坂本龍一と、デジタルガレージ伊藤穣一取締役(左)、林郁グループCEO

 坂本龍一が29日、『デジタルガレージ ファーストペンギンアワード 2017』を受賞。都内でおこなわれた授賞式に出席し、ピアノによる演奏を披露した。危険を顧みず海に真っ先に飛び込むペンギンになぞらえて命名されたこの賞。3年前に中咽頭がんを患った坂本。これまでのキャリアの中で、一番リスクを冒したことを尋ねられると米・映画『レヴェナント』のサウンドトラックに挑戦したことを挙げ、「死んでもしょうがないという思いでやりました」と決死の覚悟で挑んだことを明かした。

 この賞は、海の中にいる獲物をを獲るために、シャチなどの危険を顧みず海に真っ先に飛び込むペンギンになぞらえて命名された。科学技術、芸術、スポーツといった分野で世界を舞台に独創的な挑戦を続けるアーティストやアスリートに贈られるもの。昨年7月に創設され、第1回は、サッカー日本代表の本田圭佑選手が受賞している。

 坂本は1970年代のデビュー当時から、最新の技術を取り入れた音楽活動を展開。1978年に結成した、テクノ・ポップバンドのイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)として世界的に活躍した。「尺八って、一から演奏するのは難しいじゃないですか。でも、シンセサイザーだったらそれに似た音が出せるんですね。だから好きなんです」とその前衛的な姿勢をうかがわせるコメント。日本初のインターネットライブやSNSを活用したプロジェクトなど、枠にとらわれない独創的な活動をおこなっている。

 近年では森林保全団体「more trees」を設立するなどの環境保全活動、東北大震災の被災地の学校楽器備品の点検・修理や音楽活動支援をおこなう『こどもの音楽再生基金』を設立するなど、後進の支援もおこなっている。

 坂本は受賞に際し「そんなに先んじて何かをやっているつもりはなかったのですが…。光栄なことです。気が付いたら、『more trees』など非常に気の長い、時間のかかる後進の育成をやっていました。これをしっかりと受け止めて、先んじる姿勢で改めてやっていきたい」と喜びとこれからの意気込みを述べた。

自身のキャリアを振り返る坂本龍一

 デジタルガレージの代表取締役で社長執行役員グループCEOである林郁氏は、「僕は当時テクノロジーを使ってあれだけ世界的に活躍して、音楽の著作権をインターネットに流すなど、その当時の常識を覆すような活動をしていて坂本さんは頭一つ先んじていたと思います」と坂本を称えた。

 そして坂本にはトロフィーと、賞金5000万円と九谷焼の陶工、四代徳田八十吉氏による記念品の香炉が贈られた。さらに、授賞式では「Merry Christmas Mr. Lawrence」などの代表曲3曲を演奏。坂本は「晴れやかな舞台で、こんな寂しい感じの曲で申し訳ない」と謙遜しながらも美しい旋律を会場に響かせた。

 危険を顧みず海に真っ先に飛び込むペンギンの名を冠した、今回の賞。長いキャリアの中で一番リスクを尋ねられると、第59回グラミー賞にもノミネートされ話題となった米・映画『レヴェナント』のサウンドトラックに挑戦したことだと答えた。

 3年前に中咽頭がんを患った坂本は「この間、がんになったばかりでまだ回復してないからちょっと難しい…」と依頼してきた、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督に答えようとしたが、「いや、やれ。明日LAに来い」と押し切られたという。

 坂本は当時を振り返り、「大変な仕事になると分かっていたし、これをやったら、またがんが再発するんじゃないか、と死ぬ覚悟で、これで死んでもしょうがないという思いでやりました」と当時の覚悟を明かした。

 そこまでして、挑戦していくことについて坂本は「僕は結構コラボレーションって、多いんですよ。一人で作っていても、まだ自分に出来ていないことが出来ることを望んでいて。そういう音楽がコラボレーションで出てくると本当に嬉しい。それが僕にとって生きることなので」と笑顔で、受賞者にふさわしいその信念を語った。【取材・撮影=松尾模糊】

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