僕らにしか表現できない夏、ココロオークション 切ない思い出も
INTERVIEW

僕らにしか表現できない夏、ココロオークション 切ない思い出も


記者:村上順一

撮影:

掲載:17年08月10日

読了時間:約14分

「僕らにしか表現できない夏の切なさ、儚さ」を語るココロオークション

 ロックバンドのココロオークションが8月2日に、ミニアルバム『夏の夜の夢』をリリースした。粟子真行(Vo&G)、大野裕司(B)、井川聡(Dr)、テンメイ(G)の4人組で、2016年4月にミニアルバム『CANVAS』でメジャーデビュー。今作はインディーズ時代の楽曲でYouTubeでの累計再生回数300万回を超える夏の短編小説シリーズ3部作「蝉時雨」「夏の幻」「雨音」と、その続編となる楽曲「線香花火」を含む7曲を収録。ボーカルの粟子は「『蝉時雨』を書いたときは全く思わなかった」と元々、コンセプトにするつもりはなかったという。アルバムの制作背景や夏の短編小説シリーズのMV、さらに夏の思い出など4人に話を聞いた。

長い時間をかけて

粟子真行(Vo&G)

――「線香花火」は夏の3部作の続編となる4作目です。「蝉時雨」から始まってこんなに続くと思っていましたか?

粟子真行 「蝉時雨」を書いたときは全く思わなかったです。

大野裕司 「蝉時雨」を作ってから映像を作るまでだいぶスパンがありました。そこからMVの反響が凄かったので、その続編を作ろうと思いました。これだけ長い時間をかけて作ることになるとは思っていませんでした。実際に3作目からは1年置いています。僕らも3部作で終わりかな、と思っていた時期もありました。

――続編として4作目を作ろうと思い立ったきっかけは?

大野裕司 次にリリースするのが夏ということがあって、僕らは夏が好きなので、夏の曲を作るなら4作目にあたる曲がいいな、という思いがありまして。

テンメイ 夏の曲をつくるということは…「だろうな」みたいな。

――着想は曲が先?

粟子真行 先に「線香花火」というタイトルがありました。そこから膨らませました。今のものとは全然違う“デモのデモ”がありまして、それを聴かせて「『線香花火』というタイトルどう思う?」というところから始まりました。

――大野さんが「線香花火」というタイトルを聞いたときに「切ない」とTwitterで発言していましたね。

大野裕司 タイトルを聞いた時そう思いました。4作目を作るということは、必然的にMVも作るということなので。僕らはMVのシナリオには関わっていなくて、監督の馬杉(雅喜)さんにお任せしています。確固たる世界観が出来上がっているので、わざわざ僕らが口出しするレベルではないと思っています。

 でも、タイトルや曲調は僕らが先に決めて、もちろんそれにインスパイアされて映像も作られるので、「線香花火」というタイトルにするということは、「“切な悲しい”物語にしたんだな」と思いました。

――まだMVを拝見していませんが、仕上がりはどうですか?(取材日である7月10日の21時にMVは公開)

粟子真行 実は僕らも観ていません。楽しみに待っているという感じです。撮影にはちょっとお邪魔しましたが。

――メンバーは基本的にMV自体に出演なさらないスタイルですよね。ロケ地はどうでしたか?

井川聡 京都府にある笠木町という町なのですが、行く度にいい町だな、と思います。あの町にこだわり続けている馬杉さんと僕らも映像を作り続けてきたから、本当に僕らに合っている町だと思います。

――何故その町に馬杉さんはこだわっているのでしょうか?

井川聡 笠木町が日本で2番目に人口が少ない町で、ああいった田舎的な情緒や、2番目に人口が少ないという部分に思い入れがあるのだと思います。

大野裕司 僕はその町が凄く素敵だと思っています。馬杉さんは、町おこしも兼ねてこだわっているみたいです。実は僕らが今までのMVを公開して町が盛り上がったらしく、それでだんだんと希望が持てるようになったというお話を頂いて凄いことだと思いました。

――町おこしに一翼を担っているのですね。私も行ってみたいと思いました。

粟子真行 メチャクチャいいですよ。

大野裕司 あそこにいると時間を忘れます。

イントロのシンセの音色は線香花火をイメージ

――楽曲自体は今回スムーズに出来ましたか?

大野裕司(B)

大野裕司 制作に時間はかかりましたけど、今回は制作日数に余裕がありました。1曲目の「景色の花束」は映画の主題歌で既に書き下ろしてあったので、実質取りかかっていたのは2曲なのです。「なみだ」も早い段階で出来上がっていたので、リード曲である「線香花火」に時間をかけました。

――「線香花火」のアレンジでのポイントは?

大野裕司 リズムです。ドラムとベースのパターンは今までにないものを試しています。横に乗れる4つ打ちというか、“激しく乗る”というよりも“ちょっと乗ってしまう”という感じです。首がフワっと揺れるような。そういうグルーヴのバラードを作りたいなと意識しました。そうなってくると、上モノのリズムパターンもある程度決まってきます。そこがポイントです。

――その上に乗るギターは今までと違うアプローチで臨んだ?

テンメイ フレーズ的には単調かもしれないですが、サビはガツンといってます。

大野裕司 最近やりだしたアプローチです。

――ココロオークションの最近のブームのような感じでしょうか?

大野裕司 そうですね。

――そういったブームは制作毎にありますか?

大野裕司 めっちゃありますね。『CINEMA』を作っているときはTaylor Swift(米ポップ歌手、シンガーソングライター)でした。好きなアルバムがあって、ああいうリズムを入れたいな、と思いました。迷ったら、とりあえずTaylor Swiftのアルバムを聴いて、みたいな感じでした。

――裏テーマがあった?

大野裕司 裏の裏ではあります。でも、それは単純に僕の流行でもありますが。

――ちなみに今作では?

大野裕司 アーティストで言うとThe Weeknd(カナダ・スカーバロー出身の男性R&Bシンガー)です。『Starboy』というアルバムが良くて聴いていました。

――「なみだ」のドラムパートはハイハットのパターンが面白いと思いました。

大野裕司 あのへんのハットのニュアンスは、打ち込みだからこそのパターンという感じだと思っています。実際に叩いているのですが、パターンとしては打ち込みから発想を得ました。自分で身体を揺らしてドラムを叩いていると、普通、あのようにはやらないだろうなと。

井川聡 「一定にするのは難しいな」と思いながら叩いていました。あと、「完全再現してやろう」などと思ってやっています(笑)。ニュアンスはみんなでやっていくと変わってくるので、そこはスタジオでやって「やっぱりこのままじゃだめだな」ということもあります。

――「線香花火」のイントロのシンセのアプローチは、ココロオークションらしいなと感じました。自身の王道という感じ?

大野裕司 そういうものが好きなんでしょうね。良いと感じてもらえるのは、あれがココロオークションらしさなのかなと思います。このシンセの音色は線香花火をイメージしました。世の中には「線香花火」という曲は、たくさんあると思うんです。

 そのテーマで今更曲を作るとなると、何か意味をつけようと思ったら、僕のなかでは一音目から「線香花火」だったらいいかなと思いました。最後の方で「線香花火の曲なんだな」とわかるのではなくて、一音目が鳴ったときに「作っている人は線香花火をイメージしているんだろうな」と思ってもらえるように作りました。

――何故「線香花火」というタイトルで進めていこうと思ったきっかけは?

『夏の夜の夢』通常盤

粟子真行 「蝉時雨」「夏の幻」「雨音」と和風な感じで時系列的に昼から夕方になっているイメージと、テーマに“今を大切にする”というキーワードがあって、それならば「線香花火」じゃないかなと。

――みなさん線香花火はやりますか?

粟子真行 僕は好きですよ。

大野裕司 線香花火は“わびさび”を感じますから。

――渋いですよね。線香花火の良さがわかるのは大人です。

大野裕司 やっぱ「ドラゴンかロケット花火だろ」みたいな(笑)(*ドラゴン:噴出型花火の元祖として人気を博した小型の箱型花火。現在は生産中止)

――粟子さんは線香花火をやっているイメージが湧くのですが、偏見ですけど大野さんはそうでもないというか…。

粟子真行 ドラゴンのイメージですか?(笑)

大野裕司 そんなことないですよ。僕もちゃんと線香花火をやりますから(笑)。ロケット花火を地面に45度の角度で差し込んでやるのも勿論いいのですが。

――なんとなく過激な花火を好みそうなイメージです。

大野裕司 (笑)。

――「線香花火」が出来たときのみなさんの手応えは?

井川聡 ココロオークションらしい楽曲に仕上がったなと思いました。レコーディングのときに歌詞が難航していました。言葉のイントネーションに凄くこだわって歌っていたので、そういうところにも注目してもらえたら嬉しいです。

テンメイ 綺麗だなと思いました。ドラマチックで美しい楽曲です。

儚さをバンド単位でずっと表現していたMenoz

井川聡(Dr)

――今までの三部作のMVの感想もお聞きしたいです。

粟子真行 観る度にだんだんため息の数が増えました。「蝉時雨」を観たときは「青春だな、戻りたいな…」というところから、第2話の「夏の幻」では「バイト先の先輩ふざけんなよ」みたいな感じで、第3話の「雨音」で「2話のあのすれ違いはそう、誤解だったんだよ」という感じから、最後にウワァ〜! と叫んでバタンと倒れこむ、みたいな。作品のなかにのめりこんでいる自分がいました。

――セリフは聞こえないのに、話に引き込まれますよね。

粟子真行 そうですよね。言葉はないのにわかるという。

大野裕司 「蝉時雨」のMVを初めて観たときは、ちょっとびっくりしました。ストーリーもそうなのですが、映像と「蝉時雨」の曲のマッチングも凄いと思って。行ったこともない町に何故こんなにもリンクするのかと、運命を感じました。バンドMVとして観たことのない感じでしたし、色んな偶然が重なって一気に出来上がった世界観だと思いました。

井川聡 僕ら作り手自身も引き込まれるのが凄いなと思いました。

テンメイ 楽曲からあれだけの映像を作って頂けるということが単純に嬉しいです。求めていたものがしっかりMVに反映されたということは凄いことだと思いました。

――続いて、今回Menozの「僕らのナツ。」をカバー収録した意図は?

大野裕司 ココロオークションはアコースティック形式でもよくライブをやっています。アコースティックだからこそ、見られる魅力というのがココロオークションの楽曲にはたくさんあって。

 だから「今日は特別にアコースティックセットですよ」という、とってつけた感じではなくて、もうひとつ新しくバンドを組んでココロオークションが2つある、二面性があるというくらいのモチベーションでやっています。それくらい自信を持ってやっていることなので、それを知ってもらうのに今作はいい機会だと思いました。

 それと、アコースティックではカバーをたくさんやるようにしています。そのカバー曲も自分達が好きな曲で、それに加えて観に来てくれているお客さんが、あまり聴いたことがないのではという曲を選びます。その中でMenozの曲は僕らが本当に好きな曲です。曲自体も素晴らしいし、夏というコンセプトだし、入れるのだったらこの曲だろうという訳です。

――ココロオークションの曲なのかと思うくらいハマっていますね。

大野裕司 やっぱり影響もされていると思います。Menozには、活動初期に出会って影響されたバンドなんです。夏の切なさ、儚さをバンド単位でずっと表現していたバンドです。今回の世界観にバンド自体が似ています。だからアルバムに並べても遜色がないし、違和感がないのだと思います。

――オリジナルとは全然違うアレンジなのですか?

大野裕司 ほとんど一緒です。基本的にアコースティックワンマンでカバーをするときはかなりアレンジするのですが、「僕らのナツ。」だけに関しては、原曲が素晴らしすぎて「再現する」という感じです。アコースティック形式なので、ある程度変わってはいますが、僕らとしては楽曲が表現していることを僕らがそのまま表現しているのです。イジる必要が全くない楽曲でした。

夏の思い出

テンメイ(G)

――ちなみに夏は好きですか?

粟子真行 夏がくれる気持ちは好きですが、夏はきらいです(笑)。

――気持ちとは?

粟子真行 夏休みワクワクしたり、お祭りもあったりフェスもあるし、イベントが好きです。でも、夏自体は嫌いです。蚊などの虫も。

井川聡 僕は、メンバーのなかで一番蚊に刺されます。夏は好きですが、蚊などの虫は大嫌いです。

テンメイ 夏の夜は涼しいから好きです。昼間は暑いから嫌です。

大野裕司 僕も虫はいないほうがいいと思っているし、夏は涼しいほうがいいと思っています。

――今作は「夏の夜の夢」というタイトルですが…。

大野裕司 それぞれの夏があると思います。僕らは割とインドアな夏を表現したい、と思っています。だから夏は大好きです! 「やっと来たか!」と思っています。

――みなさんの青春時代の夏の思い出はありますか。

井川聡 中学、高校と吹奏楽をやっていたので、夏はあまり遊んでいませんでした。毎日朝から晩までずっと練習する部活でした。

――パートはやっぱり打楽器?

井川聡 トランペットでした。実はフルートを吹いている先輩が大好きでした。

大野裕司 フルート吹いている先輩なんて絶対カワイイやん!

井川聡 だよね(笑)。それで引退するタイミングでコンクールがありまして。そのときに一旦休みがあって、その際「先輩、ちょっとご飯行きましょうよ」と誘いました。それで河原に行って、そのときに告白しようかと思いました。

 でも、全然勇気が出なくて最後まで言えずに「お疲れさまでした!」って別れて、「クソ! 何で俺は言えなかったんだ」と思って、男らしくないのですがメールで「好きです」と送ったら返信がなくて。「俺は何でメールで告白したんだろう…」と、河原に戻って一人で泣きました。勇気が出せなかった、多感な時期ですよね。情けなかったです…。

――切ないですね。粟子さんの夏の思い出は?

『夏の夜の夢』初回限定盤

粟子真行 夏は小学生の頃に遠くの川に釣りに行ったくらいです。恋みたいなものは、全くなかったかな。高校生のときに、仲の良かった軽音楽部の友達と同じ人数の女の子で一緒に花火大会に行ったことがあります。僕が興味があまりなかった子と僕を、そこでくっつけようとする女子会議があったことがうすうす分かってしまいまして…。その流れで、その場から一人ずつだんだんいなくなっていくんですよ。

――なるほど。だんだん2人きりにしようと。

粟子真行 やばいぞ、となった僕は「俺らははぐれないようにしような」と友達に言ってしまいまして。傷つけてしまったかなと思いました。今思うとちょっとその女の子に申し訳ないことをしましたね。

――大野さんの夏の思い出は?

大野裕司 僕はないです。海も沖縄などにツアーで行った時に見たことはありますが、遊びで行ったことはないですし。基本、夏はずっとクーラーの効いた部屋でずっとゲームをしていました。『となりのトトロ』くらいですよ。僕の夏は。

――トトロ?

『となりのトトロ』は日本の夏を表現していると思います。でも僕には思い出が「ない」という、みんなとは違う切なさですね。

――テンメイさんは?

テンメイ 僕は初めて挫折したのが夏なんです。中学2年生までは順風満帆で、小学生のときはクラスで3番目にモテていまして。

大野裕司 それ誰がランキングしたんや(笑)。

テンメイ 勉強もそこそこ、野球もやっていていい感じだったので、ガールフレンドも6年生の頃にはいました。あと、中学2年生のときに水泳部の子が好きだったのです。夏休みになって会う期間がなくなって。その頃チャットが流行っていた時期で、僕は何を思ったのかチャットで告白をしたんです。そうしたら「ゴメン」と返事がきまして。僕はもう、そんなことになるとは信じていなかったので。そこから人間不信みたいになって…。

――立ち直れなかった?

テンメイ そうです。そこから性格が暗くなってしまいました。今は持ち直しましたが…。そういうことがあるんだな、と思った中2の夏でした。「失敗することがあるんだ」みたいな。本当に初めての挫折でした。

――そこでの挫折経験は逆に良かったかもしれないですね。

大野裕司 それがなかったら、くだらん奴になってたかもしれませんね。

テンメイ そのまま生きていたら、何も考えない奴になってましたね。そこで挫折をしたから、考えるということが増えました。

――大野さんは挫折経験はありますか?

大野裕司 僕はこまめに挫折するタイプなんです。僕は器用貧乏で、スタートダッシュが速くて後で抜かれるタイプなので。

――壁にぶつかったり?

大野裕司 それが、壁にぶつかる前にやめてしまう。諦めが早くて…。僕は挫折がすごく多い人生です。

――粟子さんは挫折体験ありますか?

粟子真行 あります。挫折だらけの人生です。

――どうやって乗り越えますか?

粟子真行 やっぱり音楽ですかね…。歌だったり、歌詞に勇気づけられたり。「人と違くてもいいんだ」とか、そういうところです。

――自身が書く曲にもそういった内容が多い?

粟子真行 そうですね。弱いものの味方でありたいな、とずっと思っています。

――今作収録の「なみだ」にはそういったメッセージも込められている?

粟子真行 友達が落ち込んでいたときに、というシチュエーションですが、自分もそう言われてみたいな、という気持ちもあります。

――それでは最後に読者へメッセージをお願いします。

粟子真行 僕らにしか表現できない夏の切なさ、儚さが詰まっているので、どのシチュエーションで聴いても夏にピッタリの一枚だと思います。色んな思い出と重ねながら、この夏をこのCDと一緒に過ごしてもらえたなと思います。僕らは最終的に感動させることを目指していて、心を震わせるライブをしますので是非会いに来て下さい。

(取材・撮影=村上順一)

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