平行線だからこそ続く関係も、酸欠少女さユり 新曲に込めた希望
INTERVIEW

平行線だからこそ続く関係も、酸欠少女さユり 新曲に込めた希望


記者:木村武雄

撮影:

掲載:17年03月01日

読了時間:約10分

酸欠少女さユり。「平行線」には人との関わり合いに対する希望を込めたという

 2.5次元パラレルシンガーソングライター酸欠少女さユりが3月1日にシングル「平行線」をリリースする。慎ましい女性の恋心を描いた前作「フラレガイガール」では、歌手として、表現者として、新たな魅力が惹き出されたさユり。期待が高まる新譜は、今年1月からフジテレビ“ノイタミナ”で放送中のアニメ『クズの本懐』とドラマ『クズの本懐』のダブルエンディングテーマ。男女の歪(いびつ)な恋愛関係を描いたアニメで、純愛の対極にありそうだが、さユりは「(歪な関係も)もともとは純粋な気持ちから生まれたもの」だといい、その根底にある人と人との関係性や、人の弱さにまで考えを掘り下げ、歌にした。前作、今作を通して一歩を踏み出すこともできたというさユり。今後の活動の上でも転換点とも言える「平行線」、そして、そのきっかけとなった「フラレガイガール」は彼女にとってどのような曲なのか。表面に隠された本音を探った。

弱さを肯定したからこそ

酸欠少女さユり

――前作「フラレガイガール」が大変好評だったようですね。慎ましい女性の心情が歌詞と楽曲でものの見事に表現されていて、主人公の表情までもが浮かび上がってくるように、さユりさんがこれまた見事に歌で表していました。新たな魅力が惹き出されたとも感じますが、すんなりと歌えましたか。

 ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。曲の世界観には不思議と距離感というのがなくて、感情が素直に込められて、逆に気持ち良く歌うことができました。

――純愛というか慎ましい恋心を描いた「フラレガイガール」に対して、今作「平行線」はアニメ『クズの本懐』という男女の歪な関係を描いた作品のエンディングテーマですよね。ギャップは感じますか?

 ギャップというのは自分では感じていないんですが、「フラレガイガール」を歌ったからこそ書けた歌詞というのは確実にあって、そういう影響はあると思います。歌ったからこそ自信が持てた歌詞が「平行線」にはあります。

――具体的には?

 「平行線」は、漫画を読みながら歌詞を書き進めたんですけど、『クズの本懐』と重なる部分が自分にもあって。それは自分の「弱さ」の部分だったんですよ。傷付くことが怖いから踏み出せないという弱さが自分にはあって。そういう弱さを肯定するところから歌詞を書き進めていきました。

 作品では徐々に主人公・安楽岡花火(やすらおか・はなび)が行動を起こすようになって、自分もその姿に刺激を受けて、最初は弱さを肯定するだけだったんですけど、何かしなきゃと思って一歩を踏み出すような歌詞を書いたんです。

 結果的には登場人物達の行き先を照らせるような曲になれたらいいなという思いで歌っています。その先を照らせるように、そして、その先を書こうと思えたのは「フラレガイガール」があったからです。

 「フラレガイガール」は、こっぴどく振られて感情の揺らぎがあって傷付いて、やるせなくなって、そのなかでちょっとずつ歌っていくことで前に進んで。曲は<次の 涙も 溜まった 頃よ>という歌詞で終わるんですけど。「次の涙が溜まって進む」というのはこれから来るであろう痛みも前向きに捉えるというか、痛みも受け入れて、それでも次の恋に進む、ということで。それを強い思いで歌っています。

 この曲、その歌詞、そしてメッセージがあったからこそ傷付くのは怖いけど、その先を描こうと迷いなく書けました。確実に「フラレガイガール」があったからかな、という実感があります。

――「フラレガイガール」はRADWIMPS野田洋次郎さんが歌詞を書かれています。さユりさんが書く歌詞との違いはありますか?

 一番感じているのは「あなたとの距離」です。どちらかと言うと私が使う「あなた」は同じ言葉でももう少し俯瞰しているというか、何かの対象があってそこから一歩を置いて「あなた」と言っているんですけど、「フラレガイガール」は「私とあなた」という関係性のように面と向かっているような感覚、その距離感が新鮮だと思って歌っていました。

――過去のインタビューでは、なるべく一歩を置いて物事を見ているというお話があったと思いますが、その姿勢は現在も変わらないのでしょうか。

 そうですね。そのような物の見方は変わらないです。でも、「フラレガイガール」を歌ったことで、こういう距離感で歌ってもいいんだと思えましたし、歌いたいなと思えたのは新たな発見でした。

――先ほど「これから来るであろう痛みも前向きに捉える」という話がありましたが、「フラレガイガール」という楽曲を通じて、何かと向き合えることができた?

 そうですね。最初は振られた「自分」と振った「あなた」という、すごく限定的なシチュエーションだなと思ったんです。でも、歌っているうちに限定的だからこそ他の人にも伝わる濃密さがあるんだと気づきました。

――相手に対して深く関わっていこうという気持ちが芽生えた?

 ちゃんと相手がいて、その関わりの中で自分が生きているんだなあ、と改めて感じました。「平行線」も今までの作品があって、これまでの作品に影響されたからこそ、書けた歌詞ともいえます。

「平行線」だからこそ続く関係

酸欠少女さユり「平行線」

――私感ですが、野田さんとさユりさんが書かれた歌詞の決定的な違いというのは、野田さんは男性がイメージする「女性」を描いているのに対して、さユりさんの歌詞の中には「男性っぽい」ところがある気がしました。「平行線」ではそれが顕著に出ているといいますか、力強さと怒りにも似た刺々しさがあるような。そのなかで、歌詞にも出てくる「太陽系」と恋愛をどう結びつけたのかも気になりました。

 「平行線」というのは、自分の中にずっとある大切なキーワードで、今回の『クズの本懐』と上手く繋がるような気がして作りました。宇宙という意識はないんですけど、「ミカヅキ」もそうだし、空を見上げるのが好きというか、ここではない世界に興味があったり、想いを馳せることがあって「太陽系」という言葉が出てきました。

――冒頭にもありましたが『クズの本懐』の物語は歪な男女の関係ですよね。どういう気持ちで書かれたのでしょうか?

 『クズの本懐』では交われそうで交われない、そういう歪な関係が広がっていくんですけど、その関係も元々は純粋な気持ちから生まれたものだと思うんです。「平行線」ではその種を大事に育てて書いたんです。

 <太陽系を抜け出して 平行線で交わろう>というのは不可能なんですけど、それを願うくらいの気持ちを表したかった。相手との想いが交錯しない「平行線」や、自分の願いと現実が上手くいかない「平行線」だったり、悲しい意味で使うこともあるのですが、一方で、「平行線」だからこそ続く関係、それでも繋がっていけるんじゃないかということもあるかなと。そういった“希望”を込めて「平行線」を歌ってます。

――「平行線」という言葉に特別な思いがある?

 「パラレルワールド」とか「境界線」という言葉が好きで、“線”そのものが気になっています。「平行線」というモチーフは私の中ではずっとあります。

――観客との距離も平行線を張っている?

 お客さんはどういう線を張っているのか、わからないけど…。人ってきっとみんな交われなくて、でも交わりたいから音楽を聴いて、ライブに行ったりするのかなって。それこそ本当に<平行線のまま交わる>というか。

 『クズの本懐』の曲を歌うときにただ単純に交わるんじゃなくて、<平行線のまま交わる>と歌うことが大事だと思いました。自分の弱さを認めつつ、交われないと分かっていても、それでも交わろうと試みる、“それでも”というデビューの時から大事にしている想いです。

――今は「孤独の時代」とも言われています。SNSは、誰かとの繋がりを求める点においてその象徴とも言われていますが、平行線の間にも「孤独」というものがあるのでしょうか。

 そうですね、あります。孤独だからこそ、曲が生まれるんだと思います。「誰かと繋がりたい」という想いは大事だと思います。

――孤独にも様々な色があると思います。なかには、もう返ってこない後悔という孤独。そうした返ってこないものへの切なさを感じることはありますか。

 それは根底にあります。何をなくしたのか分からないのですが、自分の中に空洞があってそれを探るような感覚で曲を作っています。それがいくつもある空洞なのか、それとも一つの大きな空洞なのか、分からないんですけど、でもなくした感覚だけがあります。

――「平行線」で見えてきた答えはありますか?

 私は傷つくのが怖くて生きてきて、それでできなかったことが沢山あって。でも、「傷つくのを恐れない」と言葉にしたことで、少し出口のようなものが見えてきた感じはします。

――<勇気がないのは 電子のせいにしてしまえばいい>という歌詞にはどのような意図が?

 「電子」というのは身体をつくるものを意味していて、よくライブ前に緊張して息が苦しくなったりすることがあって。心は大丈夫でも、身体は緊張するんだね、と身体と心を分離して考えるようにしていて。

――例えば呼吸を意識すると逆に上手く息が吸えなくなりますよね?

 はい。高校生の時は息苦しくなることも多々ありました。今でもたまにあります。身体って難しいですよね。

――そうしたなかで前作と「平行線」では自身の物の考え方に変化があったと話しておられました。これまで書いてきた曲への印象も変わった?

 ガラッと変わったということはないですけど、今まで曲を歌ってきて、お客さんの中でも色々な解釈があって、自分が作った曲もこういう風に変化していくんだなあということは思いました。

広がる曲の世界観

酸欠少女さユり

――ライブでは、弾き語りや、二次元の映像を投影させて異空間を演出されていますが、今回の変化によってこれらの見せ方も変わってきますか?

 曲の世界観が広がっているのかなと思います。弾き語りは真っ直ぐに歌で思いを届けるという感じなのですが、アレンジや映像によって曲に余白ができて、入り込みやすくなっていると思います。私は映像を具現化する力がないので、漠然としていますけど…。映像を作って下さる方がいるので、そういう人との関係の中でも曲が変化していくんだと思います。

――ああいったライブで曲作りにも変化はありましたか?

 そうですね。今までは弾き語りだったけど、今はそういうアレンジなどを想定して曲を書くようになりましたね。歌詞はあまり意識してはいないですが、変わったのかもしれません。

――路上ライブの時は冷静にまわりを見渡していますか。

 意識が外に出ているので自分が小さくなる感覚はあります。

――路上ライブを見る人は、観るのも恥ずかしいと思ったり様々な感情があると思うんですが、さユりさんの路上ライブはそういう感情を取っ払って、観させてくれるものがあると思います。

 そう思ってもらえるのは嬉しいですね。路上では特に、お客さんとの境界線をなくしたいと思ってやっています。声は自分の内側から発せられるもので、歌は境界線を無くしていけるんじゃないかと思いながら歌っています。

――自分が小さくなる感覚というのは具体的にどのような?

 街はエネルギーが大きいので、自分対世界じゃないですけど、。特に渋谷のど真ん中で歌っていたので、いろんな人が歩いていて、それぞれが色んな感情を持っていて、自分がちっぽけな存在に思えたりする感じで。境界線が無くなれと思っているので、自分が切り刻まれるような感覚がありました。

――宇宙や海は底が見えないので怖いイメージがあります。

 逆にそれに惹かれますね。深海とか、自分が適応できないからこそ、違う自分になれるんじゃないかと思えて怖くはないですね。変身願望があるのでしょうかね(笑)。

――ところで、最近ハマっていることは?

 家の物件を探しています。24時間演奏できるところを探しています。今年引いた、おみくじには大吉だったんですが、「転居を急ぐな」と書いてあったんですが、転居を急がなきゃいけないと思っていて不安です(笑)。

――そこは平行線にしたくないですね。

 そうですね(笑)。

(取材・撮影=木村陽仁)

作品情報

さユり5thシングル「平行線」
2017年3月1日発売

▽初回生産限定盤(CD+DVD)
CD
1.平行線
2.アノニマス-弾き語りver.-
3.ネバーランド
DVD
平行線MV(フルレングスver.)
封入特典=酸欠少女さユりキャラカード(3種の中から1種ランダム封入)
スリーブ仕様
価格1481円+税
BVCL-780~781

▽期間生産限定盤(CD+DVD)
CD
1.平行線
2.スーサイドさかな
3.平行線-アニメ「クズの本懐」EDver.-
DVD
平行線-アニメ「クズの本懐」ノンクレジットED映像
封入特典=アニメ「クズの本懐」キャラカード(3種の中から1種ランダム封入)
「クズの本懐」×さユり 描き下ろしコラボアニメジャケット デジパック仕様
価格1481円+税
BVCL-783~784

▽通常盤(CD)
1.平行線
2.BANDAGE-弾き語りver.-
初回仕様限定封入特典=酸欠少女さユりキャラカード(3種の中から1種ランダム封入)
価格926円+税
BVCL-782

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事