公開レコーディングを見学した羽田圭介氏(撮影・村上順一)

 デーモン閣下(聖飢魔II)の新曲の歌詞を芥川賞作家ら3氏が担当した。このなかに聖飢魔IIのファンという羽田圭介氏の名もあった。18日に都内でおこなわれた公開レコーディングで、閣下の歌う様子をやや緊張した面持ちで見守っていた氏は質疑応答で「小説と歌は時間の芸術だと思う」とその共通点をあげた。

 3月15日に発売される、デーモン閣下としては5年ぶりとなるソロアルバム『EXISTENCE』。その作品に収録される新曲の歌詞を、芥川賞作家の羽田氏と長嶋有氏、そして、アニメ『テラフォーマーズ』原作者の貴家悠氏がそれぞれ担当した。3氏とも初めての作詞だったという。

 3氏が書いた詞をもとに、デーモン閣下が作曲。アレンジはスウェーデン人のサウンドプロデューサー、アンダース・リドホルム氏が手掛けた。その曲調は、閣下の魅力を十分に発揮するヘビーメタル(HM)・ハードロック(HR)をベースとし、ブラスサウンドが効いたシャッフルのリズムが特徴的。今作を一言で表現すれば「プログレッシヴ・ポップ」といえる。

 この日の公開レコーディングを見学した羽田氏。大学時代にバンドをやっていたという意外なエピソードも出たが、その時のオリジナル曲「悪魔の就職666」で既に作詞を経験。ただプロとしては本作が初めてでデビュー作となる。依頼を受けた当時は「本当に光栄であることと同時に、自身が関与するということは、とんでもないという思いがあって。断るという選択肢はなかった」と感慨深いものがあったそうだ。

 この日、羽田氏に寄せられた質問には、歌詞と小説との違いについて問うものもあった。

 羽田氏は「自分が何を言いたいのか、自分を掘り出すというところは小説とあまり変わらなかったです」としながらも、「数分間という曲の中で、直接的すぎるものではなくて、ある程度抽象的な方がいいかなと思い、そこにフィットした言いたいことをセレクトしていくという感じだった。それを新幹線や自宅で状況を変えて客観視しながらやっていました。言いたいこと、社会的なメッセージがなくなってきた時に出てくるものが、純粋なる歌詞なんじゃないかなと思いました」との考えを示した。

公開レコーディングに参加したデーモン閣下(撮影・村上順一)

 一方、羽田氏の詞について閣下は「羽田君の歌詞で個性的だったのは、ワンセンテンスごとにカッコで文字数が書いてあって、この人は真面目だなと思った」と人柄が反映されているとし、さらに「歌われている内容は社会派だよね。説教メタルというのをやっていた、昔の自分の歌詞を見ているようだった」と過去の自分と重なる部分もあったと述べた。

 今回は、歌詞が先行で、あとからメロディを作る「詞先」だった。メロディがないなかで歌詞を描いていく作業だったが「ひょっとしたらメロディ先のほうが楽かもしれないです」とも。なかでも難しかったのは「文字数」だったようで「曲のない状態で手探りでやっていくという地味な作業が難しかったです」と述べた。

 ただ、これについて閣下は「非常に音楽になった時にどうなるのかというのが練ってくれてあった歌詞だった。Aメロ、Bメロ、サビというのがわかりやすかったので苦労しなかった」と羽田氏の配慮が垣間見えたとも語った。

 更に、羽田氏は小説と歌詞の共通点を「小説と歌は時間の芸術だと思う」とあげ、「絵とか写真だったらパッと全体図を捉えられますけど、小説や歌というのは読んでる間、聴いてる間しか存在しない芸術なので似ている部分もある。思っていたより違いはなかった」と共通する芸術性を説いた。(取材・村上順一)

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