2.5次元パラレル・シンガーソングライターの酸欠少女さユりが12月7日に、ニューシングル「フラレガイガール」をリリースする。同曲は今年、アニメーション映画『君の名は。』の主題歌のひとつ「前前前世」などで注目されたRADWIMPSの野田洋次郎(Vo.Gt)が提供&プロデュースした楽曲で、さユりの新たな一面をのぞかせる作品となっている。「フラレガイガール」の制作過程や、カップリング曲の「アノニマス」に込められた思いなど話を聞いた。
愛しい気持ちがあって真っ直ぐな想いを詰めた曲
――新曲「フラレガイガール」は、RADWIMPSの野田洋次郎さんの作詞作曲プロデュース曲です。どのような経緯でそうなったのですか?
昨年12月に2ndシングルのカップリング曲をレコーディングしていて、隣のブースで野田さんが作業をされていたんです。私は昔からRADWIMPSさんのファンだったので、挨拶にうかがって自分のCDを渡したら、受け取って握手までしてくださって。それからしばらくして野田さんが、“自分ではなく、女性に歌ってほしい”って思う曲を歌う女性ボーカルを探しているとき、以前渡した「ミカヅキ」を聴いてくださったそうなんです。それで、お声がけしてくださったんです。
――うれしかったですね。
すごくうれしかったです。私が音楽を始めたのは14歳のときで、そのときに一番と言っていいくらい聴いていたのが、RADWIMPSさんでしたから。最初はネットで「有心論」の歌詞を読んで、「揶揄」という曲でドはまりしたんです。
――野田さんから声をかけてもらったときは、何か言われましたか?
野田さんが言っていたのは、湿っぽくなりすぎず、かといって強すぎない、ちょうどいいバランスの声を探していたそうで。それで最初に聴いたデモ音源は、ピアノと野田さんの歌だけで。でもすごく優しくて歌詞がスッと入ってくる曲という印象で、途中で泣きそうになるのをこらえながら聴きました。優しいだけじゃなくて、切なさや、やるせなさなどいろいろな気持ちがぐちゃぐちゃになって、それでも…、という強さがあって、とてもグッときました。
――歌詞が、すごく面白いですよね。さユりさんが書く歌詞とは、やはり違うと思いますか?
そうですね。私が今まで書いたラブソングは、好きだった想いがなくなっちゃうのはどうしてだろう? と考えたり、そういうテイストが多かったんです。この曲のように、愛しい気持ちがあって真っ直ぐな想いを詰めた曲はなかったので新鮮でした。
――今までと歌い方を変えたりは?
意識して変えるようなことはなかったのですが…入り込むと言うか潜り込む感じで気持ちよく歌えたし、感情を込めやすかったです。実は歌入れをする前に、歌詞を朗読しました。最初はメロディを付けずに歌詞だけをただ朗読して、その後にメロディを付けて歌ったら、メロディと言葉の密接具合がすごいことに気づきました。
歌っているのに、まるでしゃべっている言葉のように感じて、今感情がこぼれ出したんだと思うくらい。Aメロ、Bメロ、サビという流れも、ストーリーがそこにあるようで、私はそれに導かれながら歌った感覚でした。実際にフラれた経験もあるので、そのときの気持ちが掘り起こされて、自然と自分の過去の想いも乗せることが出来ました。
――新宿ReNYで初披露したときのファンの反応は、どう感じましたか?
泣いて聴いてくれていた女の子がいて、やっぱり女の子は共感してくれるんだな、と。女の子がフラれたとき、次に進むための力になってあげられたらと思ったりもするので、すごくうれしいと思いました。
それはきっとピュアな行為
――C/W曲の「アノニマス」は、どういうきっかけで生まれた曲ですか?
モチーフは2年くらい前にありました。学生時代とか今もそうですけど、どこにいても自分は馴染めていない感覚があって。輪の中にいても、輪の中にいる自分を俯瞰から見ている自分がいて、どこにいても楽しくないし、私は何で生きているんだろう? とか、誰とも繋がっていない私は、精神的に孤立しているんだろうか? とか、考えてしまって。今世の中的にも、当事者になりたいけどなれなかったり、なりたがらなかったり。当事者でありたい、生きている実感が欲しい、という思いから作りました。
――インスタやTwitterとか、今日何したとか何食べたとか発信する行為もまた、その人が当事者になりたいからなんでしょうね。
けっこう厳しいことを言うのも、それってきっとみんな何かを信じたいのかなと思って。たくさんの情報や価値観がある時代だから、きっとみんな混乱していて、自分が信じられるものを探しているんじゃないかな? と。
「生きるのがちょっと楽しいかもしれない」と思った
――ちなみに、ジャケット撮影はどんな感じでした?
このときは、空気が澄んでいて今まででいちばん気持ちいい撮影でした。
――そんな今回のシングルを含めて、今年はシングルを3作リリースしましたが、1年を振り返り何か手応えを感じたことは?
すごく面白いです。デビューのときもすごくシンクロしていると言ってもらえたし。梶浦由記さん(作詞家)の曲を歌わせてもらうことにもなって。それもデビュー前は考えもしなかったことだし、今回の曲もまさにそうです。
お客さんから手紙をもらったりして、結果的にその人に寄り添えたりとか、こういうことがあってこういうときにこの歌詞が響きましたとか、話を聞いたり手紙を読んだりすると、そうなんだ〜って。巡り巡る感じがすごく面白くて、「生きるのがちょっと楽しいかもしれない」と思いました。自分の中だけで完結しないで、世界と繋がっていく感じが楽しくて、良いなと思いました。
――そういうお客さんの反応で、今までは自分のために書いていた曲が、じゃあ今度はこういう人のために書こうと思うようになったり?
今までは、1曲1曲でこれはこうだよとか、答えを出して行くような感覚があったんです。でも気持ち的に変化があったのは、私が歌うことそのものが、その人の苦しみの出口と言うか、答えになったらいいなと思うようになりました。私は出来ないことがいっぱいで出来損ないだと思っていたけど、それでも歌いたくて、不揃いだけれど人前に出させていただいています。「それでも」という想いで立っている、そのことが聴いてくださる方への答えになったら良いなと。
――2017年は?
足りないところがあるからこそ辿り着ける場所もきっとあって、楽しみながらそこに行って誰か人と出会って。何かを生み出したり誰かの居場所を作れたり、何か面白いことが出来たら良いなと思います。もちろん早く全国で出来るようになりたいし、今やっているライブハウスよりも大きな場所でもやりたいです。
(取材・撮影/榑林史章)
◆酸欠少女さユり 福岡県出身のシンガーソングライター。新宿、渋谷などでの路上ライブなどの活動を経て、昨年8月にアニメ『乱歩奇譚 Game of Laplace』エンディングテーマ「ミカヅキ」でデビュー。12月7日にリリースの最新シングル「フラレガイガール」のC/Wには、スマホゲーム『消滅都市』とのコラボ曲「アノニマス」などを収録。12月28日から31日に幕張メッセで開催される「COUNTDOWN JAPAN 16/17」に出演。(さユりの出演は、12月29日)
作品情報
さユり ニューシングル「フラレガイガール」 2016年12月7日発売 《初回生産限定盤 A》CD+DVD 《初回生産限定盤 B》CD+DVD 《通常盤》CD
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