スキマスイッチ、音楽の楽しみを広げた全編カバー公演　個性光る

　スキマスイッチが10月12日に、東京・豊洲PITで『COVER LIVE “THE PLAYLIST”』をおこなった。６日の大阪・Zepp Nambaと、この日の豊洲PITの２カ所でおこなわれた同ライブはその名の通り、オリジナル楽曲ナシの全編カバー。小泉今日子から英バンド・ジャミロクワイまで、実に幅広いアーティストの楽曲を歌い届けた。サポートメンバーはこの日、「THE PLAYLISTERS」というバンド名を冠した。山本タカシ（Gt）、紺野光広（Ba）、TRICERATOPSの吉田佳史（Dr）と個性豊かな面々が名を連ね、一筋縄ではいかない選曲とアレンジでオーディエンスを魅了した。

シェリル・クロウの「If it makes you happy」でスタート

　豊洲PITには超満員のオーディエンスの姿。カバーライブということもあり、どのようなアーティストの楽曲が演奏されるのか期待が高まっていく。ドラムが左端にセットされているのも新鮮に映る。定刻を少々過ぎたところで暗転するとバンドメンバーと、赤い衣装に身を包んだ大橋卓弥、常田真太郎がステージに登場した。

　大橋のソリッドなギターストロークが豊洲PITに広がる。ライブはシェリル・クロウの代表曲のひとつ「If it makes you happy」でスタート。色気のある常田のキーボードとどっしりとしたリズムの中、伸びやかな歌声を会場に響かせる大橋。続いてアコースティックギターにチェンジした大橋、ジョーン・オズボーンの「One of Us」を存在感のある歌声で届けた。マイナーコードの切ない響きが大橋の声によく合っている。そこに常田のオルガンの音色が世界観を鮮明にした。

　MCでは今回のライブのコンセプトを大橋が丁寧に説明。セットリストを考えるにあたりまずはバンドメンバーを決めてから５人で選曲したといい「一筋縄ではいかない選曲になっています」と自信をのぞかせ、「知らない曲を聴いて、原曲まで辿ってもらえたら嬉しい」と語った。

　ここで邦楽から１曲、CHAGE and ASKAの「天気予報の恋人」を披露。大橋の時折見せるファルセットがセクシーに響く。バンドメンバーによるコーラスも広がりを与え楽曲を彩った。そして、吉田のリズムから常田のオルガン、山本のリードギターが切なさを醸し出す。映画『ボディガード』の主題歌で大ヒットしたホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」、シンディ・ローパーの楽曲「Time after time」をグラミー賞歌手のカサンドラ・ウィルソンのバージョンで情感たっぷりに届けた。両曲ともオリジナルとは趣きの違った新たな魅力が垣間見れた。

　そして、ステージが真っ赤に染まる中で届けられたのは、アメリカのシンガーソングライターであるドン・マクリーンの楽曲「American Pie」。これを現代の世界３大ギタリストの一人とも言われているジョン・メイヤーバージョンで披露。軽快なピアノサウンドとクリスピーなリズムが心地よく会場を包み込む。演奏後は「バディ・ホリーの死に嘆いてドン・マクリーンがこの曲を書いた」とこの楽曲のエピソードも話した。

「雨にキッスの花束を」のセリフも再現

　再び邦楽のコーナーへ。小泉今日子の「あなたに会えてよかった」を披露。キョンキョンのナンバーを大橋テイストで歌い上げる。続いて、常田のシンセサウンドが響きわたり今井美樹の「雨にキッスの花束を」を演奏。日本テレビ系アニメ『YAWARA!』のオープニングに起用された今井美樹の名曲。オリジナルを忠実に再現しようと、途中のセリフの＜やっと言ったな、コイツ!もう離れないから!＞もバッチリ決め、会場から大歓声が上がる。大橋は「こういう曲なんだからしょうがない」と照れる。30代以上の人たちには懐かしい曲の連続に、ノスタルジックな気持ちになる。

　ここで、大橋がヘアースタイルを気にして、ステージ袖に引っ込むアクシデントが。残った４人で呼び名について談笑。そうこうしているうちに、タオルを首にかけ、コーラの入った紙コップ片手にステージに戻ってきた大橋。その姿を見たメンバーが「石原裕次郎っぽい」と茶化す場面も。ここから今回のライブのロゴにもなっているカセットテープの話題に。テレビの前でアニメの主題歌など録音していて、母親の声が入ってしまう“録音あるある”話などで会場を沸かせた。

　長めのMCを経て、ビヨンセの「If I Were A Boy 」へ。赤、紫と妖艶なライティングの中、感情を叩きつけるような力強い歌声。そして、意外な選曲、ダンサブルなジャミロクワイの「Canned Heat」を披露。16ビートのドラムとスラップベース、そこにワウペダルを使用したギターが絡み、常田のシンセブラスがアクセントをつけ、グルーヴィーな演奏に体が自然と動いてしまう。アグレッシブな演奏に高揚感は高まっていった。

　そして、MISIAの「つつみ込むように...」ではソウルフルな歌声を聴かせ、続けてMaroon5の「Sunday Morning」を届けた。大橋の声に良く合う楽曲。常田のピアノも叙情的に奏で、スキマスイッチのオリジナル楽曲のような感覚に。アウトロではオーディエンスも＜ラララ〜♪＞とシンガロングし盛大に本編を終了した。

　アンコールを求める手拍子。Tシャツに着替えたメンバーがステージへ。アンコール１曲目は井上陽水の「氷の世界」。日本レコード史上初のLP販売100万枚を突破の名曲。ファンキーなアレンジで陽水の個性が強いナンバーをスキマスイッチ色に染め上げた。中盤ではソロを回していくメンバー。常田の派手なシンセソロから、大橋もエレキギターで長いソロを見事に決めた。

　ラストはスキマスイッチ２人の大好きな曲だという坂本サトルの「愛の言葉」。情景が浮かんでくるような歌声で丁寧に歌い上げた。ラストには美しいオーディエンスの歌声が会場を包み込んだ１曲で『COVER LIVE “THE PLAYLIST”』の幕は閉じた。

　一筋縄ではいかない選曲で送られたライブは、おそらく「この辺りで攻めてくるだろう」と予想を覆してきた楽曲たちにオーディエンスも新しい発見があったはずだ。音楽の楽しみ方の幅を広げる有意義な時間だった。男性曲と女性曲がバランス良く演奏されたのも今回のポイントで大橋の新たな魅力に気付かされた。どんな楽曲を演奏してもスキマスイッチになるという、２人の個性の強さが現れたライブであった。（取材・村上順一）

セットリスト

01.If it makes you happy（SHERYL CROW）
02.One of Us（Joan Osborne）
03.天気予報の恋人（CHAGE and ASKA）
04.I Will Always Love You（Whitney Houston）
05.Time after time（Cyndi Lauper）
06.American Pie（Don Mclean）
07.あなたに会えてよかった（小泉今日子）
08.雨にキッスの花束を（今井美樹）
09.If I Were A Boy（Beyoncé）
10.Canned Heat（Jamiroquai）
11.つつみ込むように…（MISIA）
12.Sunday Morning（Maroon5）
ENCORE
13.氷の世界（井上陽水）
14.愛の言葉（坂本サトル）