冒険だった、グッドモーニングアメリカ 生死の環境で生んだ新曲
INTERVIEW

冒険だった、グッドモーニングアメリカ 生死の環境で生んだ新曲


記者:小池直也

撮影:サムネイル用

掲載:16年10月21日

読了時間:約14分

グッドモーニングアメリカの金廣真悟。新曲「ノーファング」は、「死」というものが身近にあった制作環境下で生まれた

グッドモーニングアメリカの金廣真悟。新曲「ノーファング」は、「死」というものが身近にあった制作環境下で生まれた

 グッドモーニングアメリカ(グドモ)が10月12日に、ニューシングル『ノーファング』をリリースした。この作品に収録されている2曲は、グドモらしいロックチューン「ノーファング」とオーケストラによる演奏から始まる冒険作「クラスター」。両者ともスマートフォン向け本格サスペンスRPG『BLACK ROSE SUSPECTS』のメインテーマとオープニングテーマ曲として採用され、注目を集めている。さらにこの秋には、新しい主宰フェス『八王子天狗祭 2016』も控えている。今回は様々な活動目まぐるしい彼らに、新譜に込められた想いや取り組み、そして主宰フェスと地元・八王子のことなどについて、ボーカルの金廣真悟に話を聞いた。

「死」というものが身近にあった制作環境

金廣真悟

金廣真悟

――新作「ノーファング」はどのような作品になりましたか。

 そうですね。シングルとはいえ、スマホゲーム『BLACK ROSE SUSPECTS』をテーマとしたものとなったので統一性はありますね。曲的にも納得できていますし、新しい事ができたなとも思っています。そういう意味では新しいグッドモーニングアメリカとしての第一歩っていうのが踏み出せたかなと。

――スマホゲームの音楽についてオファーがあってから動き出されたのですか。

 大体そんな感じですけど、今年の頭に曲作り合宿をしたんですよ。山中湖の山地で。その時くらいにちょうどオファーを頂いたんです。それとは別に作り始めていた曲があって、それとゲームの世界観がぴったりだった。それを提出したら喜んで頂けましたね。それが「ノーファング」。もう1つの「クラスター」は、自分が制作したゲームのスタート画面でループで流れる音楽に、続く歌とかギターやドラムだったりを追加して曲にしていきました。

――実際にゲームをプレイしてからイメージを膨らませたんですか。

 ゲームはやってはいないんですよ。でもどういうゲームなのか、特に世界観を知った上で制作しました。「クラスター」に関しては「ここでこういう大きな音が欲しい」という様なオーダーも織り込みながら、修正しながら、という感じで作りましたね。ゲームの世界観が「自分の意志で頑張ってきたのに、自分が生きていた世界は遺伝子レベルで操作されたものだった。でも、そういう悲観的な世界から脱出していこう」という様なものなんです。

 自分たちが合宿をした山中湖は結構雪がバンバン降っていて、しかも陸路で荷物もパンパン。普通の坂道が全然上がれないんですよ。地面に付く様なツララもある、音も少ないし。「死」というものが身近にある世界だなって思いましたね。そんな隔離された環境で曲を作っていったので、ちょっとゲームとリンクするところがありました。自分がこれまで書いてきた歌詞に「死」というものを題材としながら、それ故に「生きる」というテーマのものもありましたし。なので、割と歌詞は自分の中からすらすらと出てきた感じですかね。

――楽曲自体はどの様に作られたんでしょうか。

 音に関しては、合宿の時「雪の中」というイメージで僕が最初のアルペジオを作ってたんです。これで何かできないかな、と試行錯誤していた時にゲームのお話しがあった。そこからゲームにも寄せながら、アイディアを基に皆で膨らませていって。合宿中にほとんどのアレンジとメロディはできていましたね。シングルになるかは、正直わかんなかったんです。でもなることにもなって、よりリード曲っぽくしていこうと思って詰めていった感じ。合宿後は、僕が「ここの順番かえよう」とか「もうちょっとここを無くして」という引き算をしていきました。

「牙」を選択した背景に「生」への執着

グッドモーニングアメリカ「ノーファング」

グッドモーニングアメリカ「ノーファング」

――「ノーファング=牙が無い」というのはどこから発想されたんですか。

 単純に歌詞を探していて、元々は「獅噛む(しがむ、しかむ)」というところから始まったんですよ。まあ、しがむって事は牙があるということなので自分は牙があるかな、ないかなって考えてみて。実際ゲームに沿って考えても、システム化された社会だから牙がある様で牙が無いのと一緒というのがわかりやすいかなと。そう思ってこの言葉を選びました。

 生きる事にしがみつくというのは通常の意味なのですが、ディレクターと飲んでいる時に生死についての話になったんですよ。「死ぬのが怖い、死ぬのが怖い」と彼の2回くらい連続で言ったのが凄く印象的で。でも、自分も結局そうだなという。2回言うほどでも無いのかもしれないし、そこまで考えない様にしているだけなのかもしれないけど、同じようなものかなと。歌詞を作っている時にふっとそれが降ってきたんです。それでどんどん肉付けされてされていったって感じですかね。

――日常で牙が無いなと思う瞬間はありますか。

 牙は無くても、爪があればいいというか。牙が全てじゃないな、という感覚ですかね。自分たちの楽曲の中では割とポジティブな「頑張ってこうぜ」という曲が多いんですけど。今回に関しては「牙が無い」というのと「羽ばたけない」「ひれが無い」とか、答えが出ない。実際生きていく中で未来を知らないので、結果を出さなくて良い曲かなって。でも「死にたくない、故に生きていかなきゃいけない」という強い感覚。何も無くても生きていかなければいけないっていう。

 でもこれは自分が小さい頃からある感覚の様に思います。特技が無いとか、勉強ができないとかでもいいですけど、そういうものって結局ある人がいるから無いって思ってしまう自分がいるんじゃないですかね。でも生きていかなければいけない。なんなら、その人に勝たなければいけない場面もあるかもしれない。それでも、強く生きていけるぞとは凄く思います。

――「牙が無くても爪があればいい」と仰いましたが、牙と爪の違いは何でしょう。

 別に特にないですね(笑)。でも牙の方が何か、殺す感が強いかな。必死でやっている感じ。手はパンチやひっかき。でも手じゃなくて、口でしがみついているってやっぱり本気じゃないですか。もう手が使えない状況だと思うんで。そういう強いイメージがあります。

冒険としての戦利品となったオーケストラ

金廣真悟

金廣真悟

――ところで、「クラスター」冒頭のオーケストラ部分は金廣さんの作曲ですよね。

 はい。これも僕がやりました。リアレンジしてもらえるんじゃないかと思っていたんですけど、「このままで大丈夫」という話で。弦楽器と管楽器は全部生でやってもらいました。元々吹奏楽部でサックスを吹いていたんですよ。だから「どの楽器がどこを演奏するか」というイメージはつくので、なんとかできましたね。こういうのは1回やってみたいなとは思っていたんです。中々ライブでできるかどうかはわからないですけど。面白くはできたかなと。

 経験の無かったことなので、楽しかったですね。自分で曲を作って、アレンジしていく中で「これはトロンボーンよりもホルンの方がいいかな」とか色々考えたりしたんですけど、面白かったです。結果として、生の弦と管が入った時にどういう表現でニュアンスを伝えたらいいか、ということも勉強になりました。大分冒険でしたね。このオーケストラ部分がゲームのスタート画面で使われています。

 最初ゲームについて「ダークサスペンス」ということを伝えられたんですけど、イメージがつかなくて。そうしたら一番初めに作ったデモが「これはダークファンタジーですね」と言われちゃって(笑)。「やべ、難しいな」と思いました。テーマも4パターンくらい作ったんですよ。同じコード進行でメロディや構成が全然違うものを。結構迷いまくったんですけど。何とかOKが出たので良かったです。

――「クラスター」の後半からはバンドも合流してきますね。

 あれは先ほどの、4回メロディ作ったという話の1回目に全部作りました。バンドが入る展開も含めて最後まで一度作ってから、メロディだけ試行錯誤した感じです。結果、第3テーマのモチーフを運よくギターソロで使ったり、統一感が出せたかなと。この楽曲に関してはオーケストラも入っているし、世界観が完全に決まっていたのでギターソロもベースラインもドラムもほぼ作り込んで皆に投げました。もちろん、任せた部分もあるので、それを元に各々アレンジもしてもらいましたけど。基本的には僕が全部作りましたね。

散りばめたゲームの言葉

グッドモーニングアメリカ

グッドモーニングアメリカ

――「アンデッド」とか「リセット」とかゲームっぽい言葉が散りばめられているのが印象的でした。

 大分意識しました。例えば「ゾンビ」という言葉を最初入れていたんですけど、格好悪くて。実際ゲームの細かい内容まではわからなかったので、ゾンビが出てこなかったらどうしようって思いました(笑)。ゲームはしますけど、大人になってからなんですよ。だから言葉については結構調べて。違う曲で「ゾンビ」をテーマに作ったことがあって、その時ゾンビを殺すにはどうしたらいいんだろうって「ゾンビ 殺し方」で調べた時に色々勉強しましたね。

 ただファミコンとかスーパーファミコンとかは少しだけやっていました。僕は戦国時代とかの戦略シミュレーションが好きなので、『信長の野望』とか『三国志』とか凄い好きなんです。そっち系はわかるんですけど。

――あとは「クラスター」という言葉は辞書的に言えば群れとか、イメージ的には爆弾、不協和音など色々発想できました。

 最初は単純に「群れ」ですかね。というか「集合体」。集合体があるってことは、別の集合体があるわけじゃないですか。クラスターαがあれば、クラスターβがあると思うし。とすると交わらないものが絶対あるなと思って。相反するものだったりとか、この場合はアンデッドとしていますけど。自分とは違うクラスターに属しているものとの闘いだったりとか、そこで生き抜いていくことだったりっていう意味のクラスターですかね。「敵」という意味のクラスター。

 タイトルに関しては歌詞を書いている時に浮かびました。題名どうしようかなと悩んでいたので。でも歌詞のテーマは決まっていたので、それをどう表したら格好いいかなって考えたときに「クラスター」に決まりました。でも正直今お話ししていて、一番しっくりきたのが「不協和音」ですね(笑)。今まで忘れていました。それあったかと思いましたよ。

――本当ですか(笑)。でも無意識の中にそういうイメージがあったんじゃないですかね。

 実際「不協和音」をテーマに作曲したんですよ。特に最初のイントロなんかはいかに不協和音を気持ち悪く、でもなんかそこまで嫌じゃない感じでやりたいなってずっと考えていましたから。

主宰フェス『八王子天狗祭 2016』

金廣真悟

金廣真悟

――あとは11月に主宰フェス『八王子天狗祭 2016』が開催されます。

 はい。今まで主宰しているオムニバスCD「あ、良い音楽ここにあります」のフェス版である「あ、良いライブここにあります」という中規模フェスをやってきたんです。これは自分たちで「日本語」「バンド」という縛りをつけていたので、それとは別なものでフェスをやりたいなと。そんな時に八王子の市役所から「何か一緒にやりましょう」という話になったんですよ。そこで「フェスをやりたいです」と提案したのが3年前とかかな。

 でもまず、自分たちがやりたいフェスと市役所が描いているフェスという物が違ったので、そこの擦り合わせから始まりましたね。それからやる場所を探したんですけど、なかなか見つからなくて。それで、ようやくそれが見つかったんです。それがエスフォルタアリーナというところなんですけど。そして「やりましょう」ということになったという感じですね。

 バンド主宰のフェスなので、他のバンドからして熱さが違うというか、イベントそのものへの意識が違う1バンド目から、トリは多分僕たちだと思うんですけど。そこまでのリレーが凄いと思うんですよ。どのフェスも熱いとは思いますけどね。特に僕らは今回手放しで力を貸してくれる同期のバンドだったりとか、先輩のバンドばかりを呼んでいるので、間違いなく熱いイベントになると思っています。

八王子の音楽シーン

金廣真悟

金廣真悟

――やはり、地元八王子というものに対して思い入れはありますか。

 そうですね。思い入れしかないんじゃないですかね。実際、自分たちがバンドをやろうと志したのが八王子だったし、そこで今の自分たちが形成されたというか。「バンドとはツアーまわるものなんだよ」とか「先輩がいるものなんだよ」って勉強したり。自分たちが八王子でやって頃はマキシマムザホルモンの(津田)大輔さんがライブハウスで働いていたりとかしていた。

 八王子は、RIPSとブロードハートクラブ(現・Match Box)という2つライブハウスがあったんですけど、そこでちゃんとそれぞれのシーンがあったんです。そのシーンの中で先輩にもみくちゃにされて、そこで育てられた。もちろん悔しいこともありましたけど、良い思い出しかないですね。恩しかない。

 実際、グッドモーニングアメリカを結成してからも、お客さん全然呼べない時から「ノルマ無くていいからライブ出なよ」と多い時には月に13回くらいライブやったりとか。そういう事もあって恩義を感じているので、いつかは恩を返したいなと思っていました。

 今までも八王子というものを背負ってやってきましたけど、ようやくもっと大きく返せるターンが来たなっていう感じ。自分たちも嬉しいし、このライブを見て若い世代が新しい八王子のシーンが生まれたらいいなっていう風にも思っています。自分たちが毎年毎年続けていければ、そういう結果に繋がっていくんじゃないかなと思っております。

――金廣さんが思う八王子シーンのユニークなところとは何でしょう。

 なんでしょうね。昔はありましたけどね。昔はマキシマム ザ ホルモンとか、もっと先輩にニューロティカがいて。そこの流れからのバンド。あとは、海外バンドを輸入していたシュローダーというバンドもいました。そのバンドのドラムのSHUNちゃんなんかは今SWANKY DANKで叩いています。八王子はこの2つの流れが濃かった。メロコアとジャパコアな感じですかね。

 今はファンモン(FUNKY MONKEY BABYS)先輩もいるので、そういうシーンもあるだろうし。エモっていう音楽を輸入して実践しているバンドもいるし、20代前半の新しい世代のバンドも出てきています。そういうシーンが今でもありますね。

――今年も残り僅かとなってきましたが、どんな感じになりそうですか。

 今年はずっと曲作りしていました。今年かどうかはわからないですけど、どんどん発表したい事がたくさんあります。その第1弾が「ノーファング」なんです。

 でも僕たちはライブバンドなので、まずは目の前の「八王子天狗祭」というものを成功させるという、それだけですね。成功っていうか皆に楽しんでもらえて「来年もまた来たいな」って思ってもらえたら嬉しいです。それは出演してくれるバンドもそうだし、関わってくれた人たちに「来年も」って思ってもらえる様なそんなフェスに一生懸命したいなと思っています。

(取材・小池直也)

作品情報

「ノーファング」
スマートフォン用本格サスペンスRPG「Black Rose Suspects」メインテーマ
2016.10.12 RELEASE
(TYPE-A)CD:COCA-17239/1,200円+税
(TYPE-B)CD:COCA-17242/1,200円+税
▽TYPE-A
1. ノーファング
2. クラスター
3. ディスポップサバイバー
4. キャッチアンドリリース
5. 境界を越えて
6. 言葉にならない

▽TYPE-B
1. ノーファング
2. クラスター
3. 雨の日
4. 空ばかり見ていた
5. 一陽来復
6. 未来へのスパイラル

ライブ情報

グッドモーニングアメリカ主催フェス『八王子天狗祭2016』
日時:11月5日(土)開場10:00/開演11:00(予定)(終演20:30予定)
開場:エスフォルタアリーナ八王子
主催:ディスクガレージ
企画:グッドモーニングアメリカ / FIVE RAT RECORDS
制作:ライブマスターズ
後援:八王子市 / 八王子観光協会
協力:八王子Match Vox / 八王子RIPS / RINKY DINK STUDIO
オフィシャルサポートスタッフ:日本工学院八王子専門学校コンサート・イベント科
(問)ディスクガレージ 050-5533-0888(平日12:00 ~ 19:00)
開場/開演 10:00/11:00(予定)( 終演20:30予定)
チケット:前売 5,800円(税込)|一般発売日:9/10(土) ▶e+|ぴあ (P:298-139)|ローソン (L:72079)
▽出演
アルカラ, THE BACK HORN, THE BAWDIES, フラチナリズム、GOOD ON THE REEL, Halo at 四畳半, ircle, KEYTALK, LEGO BIG MORL、ニューロティカ, Northern19, Rhythmic Toy World, STRAIGHTENER、SWANKY DANK, TOTALFAT, THE WELL WELLS

ツアー情報

『あなたの街へ猛ダッシュで~ワンマンツアー2017~』

1/07(土)大分club SPOT
1/08(日)熊本Django
1/09(月・祝)福岡CB
1/11(水)長崎Studio DO!
1/14(土)周南LIVE rise SHUNAN
1/15(日)広島CAVE-BE
1/21(土)松本ALECX
1/22(日)神戸太陽と虎
1/25(水)八王子Match Vox
1/28(土)高知X-pt.
1/29(日)高松DIME
2/04(土)米子AZTiC laughs
2/05(日)岡山IMAGE
2/11(土・祝)新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
2/12(日)金沢vanvanV4
2/18(土)奈良NEVERLAND
2/19(日)京都KYOTO MUSE
2/23(木)千葉LOOK
2/25(土)水戸LIGHT HOUSE
2/26(日)宇都宮HEAVEN'S ROCK VJ-02
3/04(土)松阪M'AXA
3/05(日)浜松FORCE
3/11(土)旭川CASINO DRIVE
3/12(日)札幌DUCE
3/23(木)仙台MACANA
3/25(土)盛岡CLUB CHANGE WAVE
3/26(日)郡山CLUB #9
4/09(日)大阪心斎橋BIGCAT
4/15(土)名古屋BOTTOM LINE
4/22(土)渋谷TSUTAYA O-EAST
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