多彩なサウンドで踊る中田の声

優しく、そして力強く歌い届けた中田裕二

優しく、そして力強く歌い届けた中田裕二

 一転、ドラムが紡いだ「en nui」は夜更けの様だった。バイオレット色に染まるステージ。ジャジーなサウンドがダンディズムの世界へと誘う。アコギに持ち替えて乾いた音を奏でる。「東京! 久々の中野です。5年ぶり。皆の笑顔を見せてください」と語って「SO SO GOOD」へと移行。涼しい風が部屋に入り込んだ夏の午後のように、爽やかでゆったりとした時間が流れる。全面イエローのライトに照らされるステージを前に観客はヒマワリのように肩を揺らし、和む。そうした日常が足早に過ぎていくように、ファンキーな「誘惑」は再び夜を迎える。髪を優しく撫でるかのように歌い捧げた。

 改めて挨拶する。椿屋四重奏時代や今回のツアーを回顧しながら思いを伝える。「ずっとホールでやりたいなと思っていて。バンドの時もあまりやれていなくて。東京ではいくつかあったけど、各地ではやれなかったので。バンドの時はロックが主体だったけど、ソロではいろんな表情を見せたいなと思って。そう考えると自然な成り行きで」。

 そのまま「座ってください。くつろぎゾーンです。ゆったりとした楽曲を届けたいと思います。ガチのボッサ歌謡をつくりました」と言って「とまどい」を届けた。カリブ海や西大西洋のサンセットのように弱い暖色の光がステージ後方から差す。吐息交じりの粘り気のある伸びやかな歌声がホールに凛と響き渡る。それをウッドベースの音色が支えた。

 ここから更にディープなサウンドに潜る。照明が消され、地を這うようなSEが響く。キーボードの音色がひと際輝く。ジャジーな「春雷」に、カルメンのようなアコギが特長的な「MUSK」。しっとりとしたメロディの上で優しく、そして力強く歌い届けられた「朝焼けの彼方に」は観客の心を寄り添うようにまろやかで美しかった。

 心も洗い流され、お洒落に着飾る様にシティポップが踊る。「ヴィーナス」。中田のギターが疾走する。情熱的に深紅に染まった「ROUNDABOUT」。雷鳴の如く力強いロックナンバーが轟く。

 「椿屋四重奏時代もここでやった曲をやりたいと思います。感動を再び!」と話して披露したのはラップを織り交ぜたミクスチャーロックの「NIGHTLIFE」。観客は体でリズムを刻みながらノリノリで掲げた手を前後に振る。「UNDO」では中田もかがみこむように感情をぶつけて歌った。

 弾むポップな「LOVERS SECRET」を披露して、サウンドを乗せながらメンバー紹介。それぞれがソロ演奏をおこなって、中田の35歳の誕生日を祝った。「ここからはみなさんの出番です。おもいっきり歌ってね。僕のふるさとの名前を呼んでもらっていいですか。熊本、ありがとう!」とコール&レスポンスで熊本に声援を送る。

 そして、最後は「月の恋人たち」「STONEFLOWER」と届ける。アコギを持ったままの中田はセクシー且つアグレッシブに歌う。ピアノの音色が曲間を繋ぐ。赤や青など多彩な音色と明かりはツアーを回顧するように走馬灯のように映像が蘇る。高揚感を満たしたまま本編を終えた。

地元・熊本に思いを届ける

多彩な音色と光が中田の歌声を更に輝かせた

多彩な音色と光が中田の歌声を更に輝かせた

 アンコールでは、中田一人でステージに現れた。アコギを構え、震災に苦しむ故郷の熊本への想いを秘めたまま「今日は本当に来てくれてありがとうございます」と感謝を伝える。しかし故郷への思いは涙となって伝う。こみ上げるものがある。多くを語らず、東日本大震災の時に作った楽曲「ひかりのまち」をアコギ1本で弾き語った。

 歌い終え、深々と頭を下げる。「熊本、大分、九州全域。大きい地震がきちゃって…。復旧復興は時間かかると思う。交通もストップしちゃって行けないけど、いずれは皆さんも遊びに行ってほしい。皆さんからいただいた募金もちゃんと届けるので。宜しくお願いします」。最後は声が震えていた。

 「情けないな」。涙で濡れる目頭を吹き「ちょっとまた、メンバーを呼んで何曲か歌わせてください」と、再びバンド編成でリリースされたばかりの新曲「ただひとつの太陽」「夜をこえろ」と立て続けに披露した。そして、「MIDNIGHT FLYER」ではステージ下に降り、観客の前で熱唱。

 ポップなサウンドで踊る中田のスキップは、端から端まで。笑顔と優しい歌声を直に、会話するように届けた。そして、上空には無数の白い紙飛行機が旋回しながら舞う。最後に「ありがとう! 楽しんでいただけましたか? 夜空に向けて!俺の故郷あたりに皆の声が届けられたら嬉しい」と語って終了した。

 念願だった初のホールツアー。それはサウンドを追求する中田たっての希望ではあるが、中田を通じて体感できる多彩なサウンドは、きっと心を上品にしてくれるだろう。観客の後ろ姿を見てそう思うのである。中田のサウンドの根幹はそうしたロマンと思いがある。大事なのはそれをどのようなサウンドに乗せて届けるほうが伝えやすいか、それを改めて感じた夜だった。(取材・木村陽仁)

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