楽曲作りより身近に、USENは発表の場を設置 シーンの活性化に
INTERVIEW

楽曲作りより身近に、USENは発表の場を設置 シーンの活性化に


記者:木村武雄

撮影:楽曲づくり身近にUSENの取り組み

掲載:16年04月28日

読了時間:約5分

楽曲づくり身近にUSENの取り組み

USENでおこなわれている審査会のようす

 音楽ソフトの普及やネット環境・携帯端末の進歩などを背景に、楽曲を作ることが身近になっている。初音ミクに代表される音楽ソフト用ボーカル音源の多様化やスマホの普及はそれを加速させた。作曲や演奏の知識がなくても手軽に作れることも大きな要因だ。そうしたなか、企業が発表の場を設けるなどの支援活動に乗り出している。今回は、BGMのUSENが、スマホ向けアプリ「スマホでUSEN」と連動して楽曲公募プロジェクトを展開しているということで話を聞いた。

お薦め楽曲は有線放送で

 株式会社USENは、店舗や施設、オフィス、家庭向けに音楽を放送する“有線放送”の最大手。独自の通信網を用いて音楽を中心とする多チャンネルプログラムを提供する。そのUSENが、近年のネットやスマホの普及などから、2年前に個人で利用可能なスマホ用アプリ向けのサービスを開始した。ラジオ型の月額定額制音楽配信(いわゆるサブスクリプションサービス)の「スマホでUSEN」である。

 アマチュアミュージシャンやインディーズミュージシャンの発表の場を、このなかの専用チャンネル「MUSIC TANK」で展開している。一定の条件を満たせば誰でも自作の楽曲を登録、配信することができる。この「MUSIC TANK」は昨年6月に提供を開始して、これまでに約1000のアーティスト、1500曲が登録されている。そのジャンルは実に多種多様で、ポップスやロックだけでなく、アイドルや演歌などもある。

 登録楽曲のクオリティも決して低いものではない。「MUSIC TANK」運営を担当する前澤奈月さんは「中には、一般の方のものとは思えない作品があったり、プロ並の作品を作られる方もいます」と話す。そうしたこともあってUSENでは、これら楽曲の中から「お薦めしたい楽曲」を、有線放送(USEN)の『A-25/週間 USEN HIT インディーズ・ランキング』チャンネルに「推薦曲」として放送する仕組みを作った。「推薦曲」となれば、店舗などにも流れる可能性があり、より多くの人に自作曲を聴いてもらえるチャンスとなる。

審査は毎週複数人で

 その推薦曲を決める審査会は毎週実施されている。審査会メンバーは、「MUSIC TANK」、有線放送(USEN)、音楽出版社(ユーズミュージック)それぞれの担当者。応募曲の中からあらかじめMUSIC TANKのスタッフが5曲程度に絞り、それを審査会メンバー全員で有線放送で流す1曲を決める。取材をおこなったこの日は審査会の日で、記者もその場に立ち会った。

 今回は1週間に応募のあった曲のなかから5曲を審査した。まだまだ粗削りのところもあるが、どれもレベルは高かった。作者のプロフィールと楽曲に込めた想いなどが記載された書類と照らし合わせながらそれぞれの楽曲を聴き、意見を述べる。今回選ばれたのは、神山ゆうこさんの「のらねこ」。独学で音楽ソフト、いわゆるDTMを使って作編曲した。楽器は弾けず、音楽の知識・経験も乏しいというが、その楽曲の世界観や背景などが独特であるとして満場一致での選曲となった。

 ところで、審査基準はどのようなものなのか。審査会メンバーはこう語る。

 「楽曲のクオリティはもちろんですが、“有線放送にマッチしたもの”であるかどうか。不特定多数の方にお届けする有線放送にマッチしたもの、そして、インディーズチャートにマッチしたものを選考しています」(MUSIC TANK大谷義則さん)

音楽制作環境の変化

 インターネット環境や音楽ソフトの充実化などによって気軽に楽曲を作り、発表できるようになった。特に2000年代は、デスクトップミュージックいわゆるDTMが流行した。そして、現在はPCソフト並みの作成ソフトがアプリとしてスマホに搭載ができ、更にサンプラーやボーカル音源の多様化、通信速度の飛躍的な進歩による音楽配信環境の整備などによって、より気軽に、そして高度な楽曲を作ることが可能になった。「MUSIC TANK」に登録されている楽曲もそうしたものを使用して作られたものも多い。

 「最近は、独学でDTMを学んで宅録で完結させる環境が整っています」(大谷さん)、「皆さんが制作に対して距離が近くなったという気がします」(前澤さん)

 そうしたなかで、「MUSIC TANK」はどのような役割を果たそうとしているのか。

 「そもそものコンセプトは、1つ目はUSENでインディーズシーンを盛り上げて行きたいというところです。2つ目はプロ志向の方だけでなく、趣味で音楽をやっている方々の作品を発表する場や、活動の場をつくりたいということです」(前澤さん)。

 なかには、高みを望む人もいる。そうした人や、自身の楽曲をもっと届けたいという人のために、そして聴いているリスナーに“隠れたお宝”を提供するためにも“楽曲の出口”を設けることは重要だ。発表の場は、楽曲を既設の放送で流して広めたり、CD化や配信リリース、音楽イベントなどがある。USENはどう考えているのか。

 「そうした取り組みもおこなっていきたいとは考えていますが、明確なゴールはあえて設けていないところがあります。いろんな方が寄り集まって盛り上がっていく“プラットホーム”を作っていきたいというのが前提にあります。露出の場を開放するとでも言いますか、“ここに出しておけば何か面白いことがある”というものを定期的に展開できればいいと思っています」(大谷さん)

純粋に音楽が楽しめる場に

 根底にあるのは、なるべく“商業”を排除した、純粋に音楽を楽しめる環境づくり、だという。大谷さんはこう続ける。

 「ただ放送で流したりラジオに出てもらったりということをゴールにするのではなくもっと大きくインディーズシーン全体が盛り上がるキッカケが作れるような仕組みはないかと常に模索しています。インターネット環境が充実しいろんな表現の仕方があると思うのですが、その中のひとつとして利用していただければと。多くの方に聴いてもらいたくて作っているというのが大きいと思いますので“届けるキッカケ”のお手伝いをしたいと思っています」

 スポーツの世界でも、自身がプレイヤーを経験することで、その選手の能力の高さを実感できることもある。音楽を作ることを体験すれば、もっと多くの人に聴いてもらいたい、もっと良い環境で録りたい、もっと違う表現をしたい、という探求心が生まれてくる。そうなれば音楽の楽しさは一層高まることであろう。そうした意味でも「MUSIC TANK」の役割は大切と言える。(取材・木村陽仁)

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