制作終盤で生まれたPIGGY BANKSらしさ、新譜は1年の記録音源
INTERVIEW

制作終盤で生まれたPIGGY BANKSらしさ、新譜は1年の記録音源


記者:木村武雄

撮影:

掲載:16年04月08日

読了時間:約21分

掴めた感覚、その先の信頼

――矢沢洋子さんはこれまで様々なスタイルで音楽をやってこられた印象があるのですが、先程の「遊んでいいんだ」という気づきのような感覚は、確信的に「これが私だ」というものになったのでしょうか。

矢沢洋子 歌で言ってもそうだし、歌詞もそうだし、謎に自分の中で「変なこだわり」をつくっちゃっていたと思うんです。今回レコーディング以前の、歌詞を書く段階とかでなんか「だってもうバンドだもんね」という、自分だけじゃないというか、どこかの部分は完全にメンバーに任せきっちゃうというか、「どうせカッコいい事してくれるんでしょ?」みたいな安心感があるんですね。その中で自分もボーカルとしてどう輝けるんだろうとか、そういうのがPIGGY BANKSを始めてからいろいろ考えるようになってきましたね。

 今までライブをスタジオミュージシャンの皆とやっている時は「私が何かやらなきゃ」という感じで、振り返ってみると何かとっ散らかってた部分があったんだなと思うんです。そういう意味で言うと、最初にPIGGY BANKSでライブをしてから丸2年経ってる中で、そういう風に「どこかの部分では完全に預けられる」という感情になれたのも、ある程度時間があったから今そういうテンションになれているんだなと思うんですね。振り返ると、多分3人ともどこかで遠慮していた部分もあると思うし。

――遠慮されてたんですか? kemeさん。

keme 遠慮っていうよりかは、「自分の音はきっとそんなに合わない」と思っていたんです。無理して合わせなきゃいけないんじゃないかって。でもこのレコーディングを終えて、音的に自分の得意なものであっても洋子ちゃんはついてこられる人なんです。何でも歌えるんで。だから私も無理しなくても、寄り添わなくてもいいと言うか。自分の好きなプレイとかもできるという発見があったんです。

――曲にもよりますがギターのカッティングプレイが多いですよね。あれはカッコいいですね。

keme 「カッティング、イイですね」って初めて言われた(笑)。ありがとうございます!

矢沢洋子 彼女はかなり個性的なギタリストだと思っていて、PIGGY BANKSでも並行してやっているバンドでも、以前のバンドでも、そのプレイを聴いたら「あ、これkemeギターだ」と分かる感じなんです。だからこそやっぱりこだわりもすごく強いし、本人的にもPIGGY BANKSの核がまだ定まっていない時に、「どこまで自分の色を出していいのかな?」というのがあったと思うんです。

 そういうところでちょっと“遠慮”というか。120%のkemeちゃんを出しちゃうのか、PIGGY BANKSだったら合わないかもしれないし、あえて抑えるのかというのがあったと思うんですけど、レコーディングで「各々全開で個性を出して正解なんだ」というのが今回わかったので、今後さらに“PIGGY BANKSの音”というのが浮き彫りになるんだろうなと思っています。

――そうなるとライブが楽しみですよね。やっぱりガンガン個性を出してくるのかなと。

矢沢洋子 レコーディングの前後では、私たちのライブはすごい変わったと思ってます。

――akkoさんは鹿児島におられて、楽曲制作に苦労した点はありますか?

akko 最初の頃は、私自身も通いながら音楽活動するという事が初めてだったし、バンドととしても何にどれくらい時間がかかるというのが全くわからない状態だったので、1週間や10日ぐらい東京に来ていた事もありました。それでもなかなかスタジオ作業が進まないみたいなジレンマもありましたけどね。3人でいる時間も限られているのに、すごく探り探りだったので。

 もともとバンドを始める時って、基本的には「やりたい事があって、だからこの人とやりたい」みたいなのがバンドだと思うんですけど、このバンドの集まり方はちょっと特殊で、「これをやりたい!」というよりも「とにかく集まった!」みたいな(笑)。バンドの軸として「これがやりたい!」という明確なものを誰かが持っていた訳ではなかったので、そこを探すのが時間がかかったんだと思います。

――東京と鹿児島という物理的な距離があり、2人と比べると近くにいないぶん「どうすればいいんだろう」という思いなど考える事も多いのかと思いますが。

矢沢洋子 物理的な距離はもちろんあるんですけど、今の時代はLINEがあったりこうやってskypeでインタビューもできるくらいのものもありますし。あと、akkoちゃんが言っていてすごいなって思ったのは、オンとオフが自分の中でちゃんとできるから、というのがありますね。東京にいる時の「覚醒状態のakko」と、鹿児島にいる時のakkoちゃんは違うと思いますし。それも今となっては東京に頻繁に来るというのはかなり慣れっこなのかもしれないですけど。始まった頃はたぶん体力的にもそうだと思いますし、自分のテンションをキープするのがなかなかパッとはいかなかったのが、今ではすごい得意になったと思っていまして。最初の頃は、だからこそスタジオ入って終わっても、ずっと3人で話をしてたりとかありましたね。

――音楽以外の話もしますか? ガールズトークとか。

矢沢洋子 しますよね。

keme します!

――どんな話をされるんでしょう?

keme 年老いたな、とか(笑)

――お酒飲みながらとかですか?

keme akkoちゃんはそんなに飲まないけど、ウチらはガブガブ飲んでる。

――でも鹿児島は焼酎が有名ですよね。

akko お酒強そうだとは言われますよね。

矢沢洋子 akkoちゃんはペース配分がちゃんとできるんですよ。うちらは「1時間にこんな飲んだらダメだな」ってわかってるのにグワーって飲んでオェーって(笑)

――そんな中でできた曲はないですか?

keme 無いですね(笑)。生まれたものはないです。吐く一方です(笑)

――ちなみにお酒は何を飲まれるんですか?

keme 洋子ちゃんはテキーラを。

矢沢洋子 違います! 違います! 私はウーロンハイかハイボールです。あと、たまにホッピーです。ビールも飲みますね。

keme この会話、意味あるんですか(笑)

PIGGY BANKSにとって歌詞とは

――違う一面ものぞいてみたいと思いまして(笑)。さて、歌詞の部分についてですが、みなさんにとって「詞」とはどういった意味を持っているでしょうか。

矢沢洋子 歌詞は、PIGGY BANKSになってからけっこう面白がって書いているというのがあって、歌詞を書くのがすごく楽しくありますね。私が書いているのは「絶大的なメッセージ性が」とかではなくて、割と“言葉遊び”だったりとか、物語のような世界観をあえて創っちゃうというのが楽しくて。SF感を出してみたりとか。

――例えば小説の世界ですと、現実離れしてスペーシーに書いていくものと、忠実に再現しているものがあると思うんですけど、どちらかというとファンタジーな感じがありますね。

矢沢洋子 ファンタジーな感じが面白かったですね。「ゾンビーボーイ」とかも、実際にはゾンビはいない訳ですけど、普通のゾンビっぽい、いかにもありがちなものにすると、ただのゾンビの歌になっちゃうかなって思って。ある意味での“バカっぽさ”みたいなのをちょっと出してみたかったんです。そんな時にちょうど「テーマはゾンビーボーイでこんな感じで」というのができている時に、サポートで入ってくれているドラムの高橋浩司さんがバンド界きっての“ゾンビオタク”で。監修じゃないですけど「こういうゾンビはどうですかね?」みたいな感じで彼に聞いてネタ集めしたりとかしましたね。

 あと今回、全部が英語の歌詞というのはソロ名義の時とかはなかったし、初めてですね。私は英語はネイティブでも何でもないので、言い回しとか「間違っていたらどうしよう」とか「なんか後で言われちゃったりするのかしら?」とか抵抗があったんですけど、「間違っていたら間違ってたでいいじゃん」みたいな感じが最近はあって、それよりも、曲に乗せた時、ライブでやった時に「どういう感じで聴こえるか」「どういう英語だったらカッコいいか」とかそういうのを重点に置いたらいいのかなと思ってましたね。

――この曲に関しては歌詞が先にできてから曲をつけたんですか。

矢沢洋子 今回のアルバムに関してはほとんど曲が先ですね。

――言葉遊びやグルーヴで気に掛けたことは?

矢沢洋子 無理矢理に歌詞を詰めたりとかしてメロディに入れちゃう事もあるんですけど、自分が考えた言葉が上手くメロディにスコーンって乗る時とかは「やった!」となりますね。

――英語の歌詞と日本語の歌詞のギャップがすごく面白くてカッコいいなと思いました。akkoさんも歌詞を書かれていますが、akkoさんにおける「歌詞の意味」とは何でしょうか。

akko 私はどっちかっていうと、もともと書き出したのは自分の日記みたいな感じで、とにかく何か自分の中のものを吐き出すために書き始めたみたいな感じなんです。人にそれを聴いてもらいたいとかいう訳ではなく、「とにかく自分のために書いてきた」という感じで始まったんです。だから最初は自分が書いた歌詞の曲を聴いて、「ライブ中にお客さんが泣いている」とかそういうのがすごく気持ちが悪くて。

 なんで泣いてるんだろ?って本当にわからないくらい、自分の一部というか。とにかく日記すぎて。最近はちゃんと外側に開いている気はするんですけど。でもやっぱり、自分の中の何かモヤッとしたものとか、何かを喋ったりするのが得意ではなかったりするので、それを「書いてスッキリしている」というところはありますね。

――「らんらんらん」はご自身の心がそのまま投影されているような気がしなくもないのですが、「Oct.」はまた違うような感じもするんです。その違いは?

akko 違いはないですかね…。

矢沢洋子 曲を書く時や、歌詞を書く時とかも、akkoちゃんにしても私にしても、「今回はこういうテーマで書こうと思います」みたいなのがあって、「らんらんらん」の時に持っていたテーマと、「Oct.」の時のテーマは違いました。「らんらんらん」は、PIGGY BANKSが始まって割と初期の頃にできて、その時「PIGGY BANKSだから、バンドだから、しかも女のバンドだから、合う声の出し方というか声色というか、何なんだろうな?」というのはけっこうテーマとしてあったんです。そんな中で出てきてたのが「ヒリヒリ感を」と言うので、akkoちゃんがそんなヒリヒリになれる洋子を多分イメージして書いてくれたんだと思ってます。

――ヒリヒリ?

矢沢洋子 「ヒリヒリ」は何て説明したらいいんですかね?

akko 「心がヒリヒリしてる」。

矢沢洋子 切なくもあり、もどかしいというか。

akko 情景が浮かぶような空気感だったりとか、景色が浮かぶような歌がいいなって思って。洋子ちゃんの歌を聴いていてそういう風に思った事がなくて、それをたぶん言葉にして「ヒリヒリ感」だと思うんですけど。それまでの洋子ちゃんって歌がもっとパンクっぽかったっていいうか。「派手ではないんだけれど内面からジワッとくる」ようなものをやれたらいいなって思ったんです。

――音的には爽やかな感じですね。

矢沢洋子 音は爽やかなんだけど、ちゃんと歌詞に「ヒリヒリ感」が出ている曲だと思って。単純に、自分が歌っていても気持ち良さがあるし、世代を越えて共通してあてはまる部分が出ているというのがありますね。「らんらんらん」とか「Oct.」とかもそうなんですけど、私はこういう歌詞がとにかく苦手で、自分では絶対に書けない世界観なんですよ。だからこそ、akkoちゃんの手によって書いてもらって自分的にはすごいイイなって思っているんです。

――自分の中にないものを歌うにあたって、akkoさんから「こういう風に歌って」などはあるんでしょうか。

矢沢洋子 スタジオに入っている時は、割とakkoちゃんは直球で「こういうのどう?」とか。「やれ!」とは言わないですけど、アドバイスというかそういうのはすぐ言ってくれるので助かりますね。

akko イメージが持てないと書けないんですよ。何を書いていいのかわからなくて。このバンドでやる洋子ちゃんが歌っているイメージがちょっとでもないと。そのイメージが見えているものに関しては伝えます。

――「らんらんらん」の場合だとどんなイメージ?

akko 「ヒリヒリ感」

――ヒリヒリ感ですよね。

矢沢洋子 言わせたいだけでしょ(笑)。「ヒリヒリ」という曲つくりましょうか、もう(笑)。

akko ヒリヒリする時ないですか? 季節の変わり目とかに何か切なくなったりしてとかあるでしょう? 心がこう何て言うか…。

矢沢洋子 なんかもどかしいとか?

インタビューに応じた矢沢洋子(右)とkeme(左)。鹿児島からテレビ通信を通じて参加したakko(中央)

インタビューに応じた矢沢洋子(右)とkeme(左)。鹿児島からテレビ通信を通じて参加したakko(中央)

――そういう感覚が失っているかもしれないですね。「らんらんらん」を聴いてそれを思い出すようにします。ところでakkoさんが弾くベースはこれまでと少し違うグルーヴを感じましたが、何かありますか。

akko 実は今回初めてピック弾きしているんです。それまで指でしか弾いたことがなくて。

――それで曲ごとに少し違う雰囲気があったんですね。さて、レコ発ツアーに対して意気込みをお願いします。

矢沢洋子 去年ライブはやっていたと言っても、なかなかリリースもしていない状態でしたからね。北海道とか九州も今回初めての所ばかりですし、頑張るのはもちろんの事で、ようやく出来たアルバムという気持ちがあるので、みんなに聴いてもらいたいし観てもらえたいし、というのがありますね。今回のツアーにだけ言える事ではないんですけど、徐々に広く深く、まずPIGGY BANKSの名前と音を浸透させていかなけれないけないなと思っています。みんな若いメンバーではないので、いい意味でそういう“焦り”も持ちつつ。危機感を常に自分達で持ってやった方が良いような気がして。特に、自分の性格とか考えるとそういうのは大事かなと。

 もちろん楽しみつつ、カッコ良い事をやりつつという事で。ただ、今回のアルバムは出来上がったばかりでまだリリースにもなっていないんですけど、ちょっとイイ感じに“PIGGY BANKSらしさ”が見えてきているので、次の作品作りもツアーの後からとかではなくて、既にこないだもちょっとやったりとかしていて。けっこう激しく動き回りたいです!

――ツアーを回ったらまた感覚が変わってくるかもしれませんね。

矢沢洋子 そうですね、また何かグッとブラッシュアップされた感じにですね。お互いのマインドもそうだと思うし。だから今すごく「動いている感」と言うか、そういうのが嬉しいですね。楽しいですし。

――akkoさんはいかがでしょうか。

akko このバンドで初めてのでかいツアーなので、「このバンドでどこまで行けるかな?」とうのはとても楽しみです。今回PIGGY BANKSを初めて見るお客さんばかりなので、絶対楽しんでもらえるライブにしたいし、今ロックンロールって全然流行ってないので、「ロックンロールかっこいいな!」ってちょっとでも思うキッカケになるようなツアーが出来ればいいと思います。

――kemeさんはいかがでしょうか。どういう想いで臨みたいでしょうか。

keme 「ヒリヒリ感」ですかね。

 笑い

(取材・木村陽仁)

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