シマ唄広めたい、中孝介 美声育てた奄美の音楽文化と昭和歌謡
INTERVIEW

シマ唄広めたい、中孝介 美声育てた奄美の音楽文化と昭和歌謡


記者:木村武雄

撮影:中孝介にインタビュー「シマ唄を広めたい」【1】

掲載:16年01月18日

読了時間:約13分

“歌唱専業”は昭和歌謡がルーツ

歌唱にこだわる背景に昭和歌謡

歌唱にこだわる背景に昭和歌謡

――お母様は何を歌われていた?

 高橋真梨子さんや桂銀淑さん、ちあきなおみさんとか、いわゆる昭和歌謡ですね。レコードをかけて、それに合わせて歌ったりとか、鼻歌をしたりとか。昭和歌謡は何と言いますか、歌心というか。昭和の時代の歌い方は人間味が前面に出ているといいますか、その頃は何も感じずに聴いていましたが。でも、歳を重ねていくうちに、やっぱり日本の昭和歌謡は歌詞を見ていても言葉の向こう側にちゃんと景色が見えてきますし、誰もが聴いてもその景色を自分の人生に染める事が出来るといいますか。詞と歌い手の連携プレーが素晴らしいなと思うのです。

――中さんはご自身で作詞されたものもありますが、ほとんどが作家にお任せになられている。そうした昭和歌謡への想いが現在の中さんのスタイルに繋がっているわけですね

 そうですね。昭和歌謡時代は、「創るプロがいて、歌うプロがいる」という、完全にセパレートしているんだけど、出来たものは本当にクオリティが高い、ものばかりなんですよね。その当時のアイドルと言われている人達も凄く歌が上手いですからね。松田聖子さんや岩崎宏美さんもそうです。

――お母様は今も歌われている?

 今も歌っています。当時、歌謡曲ばかりだった母も、僕がシマ唄をやりだしてからは後追いでシマ唄をやっています(笑)

――シマ唄は皆が皆やっているようなものではない?

 そうですね、皆がやっているというわけでもありません。今では、若い子も増えてきていますが、僕が小さかった頃や学生の頃は周りにやっている人は誰もいませんでした。だから言えなかったですね、「シマ唄をやっているんだ」とは。

――ある三味線奏者も言っていました。「幼い頃は恥ずかしくてやっているとは言えなかった」と

 そのような感じです。伝統音楽というと「古くさい」とか「ダサい」といったイメージがありました。年齢も17〜18だとなお一層ですね。周囲にはコピーバンドをやっていた人も多くて、ギターやベース、ドラムをやっているなかで「シマ唄?」みたいに。まあ、言うつもりもなかったですけどね(笑)

――出場した大会で初めて知る方も多かった?

 そうそう、そういう感じでしたね。

――奄美民謡大賞で新人賞、日本民謡協会の奄美連合大会では総合優勝しています。その時の友人の反応は?

 「いつの間にやっていたの!?」と、びっくりしていましたね(笑)。

シマ唄は「神に捧げる」もの

――そもそもシマ唄はどのような場面で歌われるものですか

 いろんな文献を読んでみますと、起源は神様に捧げる歌だったそうです。各集落にノロ神様というのがいて、神様に歌を奉納したというのがもともとの奄美の起源です。村の豊穣を願うという。それが、ある集落で歌われる8月踊りという毎年旧暦の8月15日に豊年祭といって各集落でお祭りがあるんですけど、そのお祭りの時に男女が輪になって太鼓を打ち、歌いながら踊ります。それが歌になって、後に三味線が入ってきて。それで三味線を付けて歌うようになったと。だからもともと三味線はなかったんですよね。

――沖縄の「三線」とは異なりますか

 違います。長さは一緒ですが、全く異なる楽器です。三線はニシキヘビの皮を胴に貼るのが伝統で、奄美も素材は沖縄の三線と一緒ですが、弦とバチは違うものです。奄美は、弦は高い音が鳴るように沖縄のものよりも細く。バチは、沖縄の場合は水牛の角を指にはめて弾きますが、奄美は竹の皮を薄く裂いて割り箸くらいの幅で。それを指に挟んで弾きます。

――音色は全く異なりますか

 違いますね。奄美の三線はどちらかというと津軽三味線に近い音色です。また、旋律は奄美大島独特のものを持っています。どちらかというと、琉球音階よりは日本民謡の音階の方が合わせやすいですね。沖縄の民謡とコラボしようとしても全く出来ません。

――普段のコンサートでの楽器はピアノやアコースティックギターが多いようですが、先日の東京国際フォーラム公演ではヴァイオリンとピアノだけのスタイルでした。ヴァイオリンを入れた意図は?

 デビューした頃からオーケストラと一緒にやる事が多くて、それに馴染んでいたといいますか「そういう楽器と自分はやった方がいいんだろうな」というのを感じていました。

――アコースティックギターとでは歌い方にも変化が?

 歌い方はそんなに変えませんが、アコースティックギターみたいに減衰していく音の伸びではなく、ヴァイオリンのずっと伸びていく音。それをギターで表現するのは難しいので、その伸びる音に対して、歌の最後の尻とかをブツ切りにするのではなくて、デクレッシェンドで小さくなっていって自然に消えていくようなところが僕にはしっくりきていて、それは弦楽器のイメージに近いんです。

――中さんの歌声を中国では「胡弓のようだ」と評価されていたようです。中さんにとって「歌」とは?

 自分自身も歌詞から元気もらいますし、共感して心が解き放たれる瞬間もあります。自分の感じた事を相手に伝えられる一つのツールだと思います。支えられる杖みたいなものかなと思います。

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