英ミュージシャンのデヴィッド・ボウイさんの訃報は全世界に衝撃を与えている。ロック界に偉大なる影響を与え「フランス芸術文化勲章コマンドゥール」を授与。更には「20世紀で最も影響力のあるアーティスト」や「100人の偉大な英国人」にも選出されるなどその功績は枚挙にいとまがない。そして、彼が取り組んだのはいつでも新しい音楽やビジュアルなどの革新だった。

 時代の空気感を察知して、ある時はグラムロック、ある時はソウルなど、どんどん自己改革していった。常に前進していこうとした姿勢に多くの人が影響を受けた。それは、世界中のミュージシャンやタレントだけでなく、政治家などから続々と発信されている彼への追悼メッセージからみてもうかがえる。

 日本においては、布袋寅泰やX JAPANのYOSHIKI、GLAYのHISASHI、清春、元JUDY AND MARYのTAKUYA、そして、つい先日ボウイさんの誕生日(1月8日)に合わせるように再結成が報じられたTHE YELLOW MONKEYなど。ヴォーカルの吉井和哉は過去に、彼の楽曲からインスピレーションを受けて作品を作っていたとメディアのインタビュー等でも語っていた。

 2013年に、10年ぶりに音楽シーンに復帰したボウイさん。そしてそれに続く復帰2作目として今年1月8日に発売された『★(読み・ブラックスター)』が残念ながら彼の遺作となった。作品についての彼からのコメントは残されていないものの、遺された作品に触れるだけで彼の創作への姿勢が最後まで貫かれていることがわかる。

 それはこの作品には、日本で「ニューチャプター」という言葉で形容される現代ジャズを取り入れている点にある。その分野で著名なマーク・ジュリアナ(Dr)などのミュージシャンをレコーディングに起用することで、今までとは全く違う音像を提出しているのである。

 この「ニューチャプター」はヒップホップやR&B、テクノなどのビートの影響を受けた「21世紀型の新しいジャズ」とも言われている。約100年の伝統を下敷きにしながらそれを突破し、高いスキルと発想の豊かさでヒップホップやテクノなどの電子音楽とまで融合している現代ジャズ。

 そのユニークな音楽性を持ちながらも、まだまだ認知の低いこのシーンにいち早く着目したボウイさんは、この音楽性を自分の作品に取り入れようと試みた。このこと1つ取ってみても音楽に対する分析眼は最後まで“時代”を見通していたことがうかがえる。

 そして、ジャズシーンも彼から多大なる影響を受けているのである。ヒップホップと接続した現代ジャズの旗手とも言われる、ピアニストのロバート・グラスパーは2013年に、グラミーの最優秀リズム・アンド・ブルース・アルバム賞を獲得したアルバム『Black Radio』でボウイさんのカヴァーを収録しているほどだ。

 ボウイさんの訃報に触れて「一つの時代が終わった」と空虚感に苛まれる人が続出していると伝えられている。それだけ彼が与えた影響は大きかった。そして、その功績と新進性は今後もジャンルの垣根を越えて影響を与え続けていくことであろう。ご冥福をお祈りします。(文・小池直也)

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