あの頃を照らす星空のサプライズ

武道館に無数の星空が灯った(撮影・佐藤広理)

武道館に無数の星空が灯った(撮影・佐藤広理)

 ここで、たなしんのベースが光る。その瞬間ステージに後ろには無数の星。それに合わせるように観衆も自身の携帯のフラッシュライトを灯した。暗闇のなかの武道館はすっかり星空に。そして星はそれぞれ揺れ動いた。息をのむ光景は、たなしんがファンと仕掛けたサプライズだった。バンド結成当時のライブで、ファンがサプライズをしてくれたものをこの日、壮大にやってみせた。金廣は「ありがとう! 思わず泣きそうになった」と語れば、渡邊も「俺を写さなくていいよ」と目に光るものを浮かばせ照れた。

 そんなサプライズを仕掛けたたなしんには逆サプライズが待っていた。普段から「3、2、1ファイヤー!」と掛け声として使っているたなしん。その生みの親であるプロレスラーの大仁田厚氏が応援に駆け付けたのだ。大仁田氏はまず、レジェンド・天龍源一郎氏が先日この場所で引退試合を行ったから“天龍チョップ”をたなしんにお見舞い。更に「沢山の人が入って良かったな! 夢を追いかけるのは良いよな」と述べて、会場全体で「3、2、1ファイヤー」を唱和。その瞬間にステージ前には8つの“炎柱”が上がった。たなしんは大仁田氏からプレゼントされた革ジャンを着て演奏を再開した。

 大仁田氏の登場で更に高揚した観衆はパワフルに彼らの楽曲に乗った。跳ねていくリズム、高まる鼓動、それを覆すようにグルーヴを早めたりゆったりとさせたり、一筋縄ではいかない変調を繰り返した。そして、14曲目「だけど不安です」では歌詞「ショッピングモールもいいね」を「日本武道館もね」と言い換える演出も見せてファンを喜ばせた。

 「日本武道館で歌われるために8年前、俺ら4人で作って生まれた曲です。みんなと歌ってくれると嬉しいです」と語ったのは「友よ」。渡邊のギターが導き、リズム隊が加わる。シンプルに届けていく。暖かみのあるライトがステージを包み、観客と共に合唱する。

 「グドモの決意表明です」とたとえた最新作『グッドモーニングアメリカ』からは「ディスポップサバイバー」を披露した。ステージにはMVと同じように、8人の相撲取りが振り付けをする。それを見て観衆も合わせて踊った。

本心に隠された自信

熱いハートをもった、たなしん(撮影・佐藤広理)

熱いハートをもった、たなしん(撮影・佐藤広理)

 勢いをそのままに曲はどんどん届けられた。静けさのなかで「ありがとう!」という言葉が何度も響く。そして、金廣が自分の生い立ちを語り始める。「当時はお客さんはゼロに近い状態。楽な道のりではなく、紆余曲折もあって、ライブしても全然増えなかったし、認めてくれない時期もあった。諦めずに目の前の個と一つ一つ積み重ねてきたからようやくここにたどり着けました。メンバー全員が感謝の気持ちをもってこのステージに立っています」。

 額の汗をぬぐう金廣。更に続ける「今年は日本武道館を成功させるために活動してきました。正直動員は思ったようにいかなかったし、大成功とはいえない。もっと良い景色をみせたかった。悔しいし、申し訳ない気持ち。自分達も力不足だと思う。でもバンドマンなんで本質はきょうここで一番良いライブをすること。何年かかるかわかないけど、武道館をリベンジ。また戻ってきてそのときにここにきていることを誇りに思わせるので見ていてください」。

 包み隠さず話す金廣の言葉に観客も心を打たれているようだった。

 またこうも語った。「割と泥臭くバンド活動しているなと思う。つまづいて這い上がってくるそういう宿命なのかな。そういう人生なんだなと思います。挑戦し続けていくのは正直しんどいし、なんでこういう道をえらんだのかな、と思うときもある。でも、スポットライトを浴びる度に自分の居場所はここだと思う。つまづいても歩みをとめることはないし、目の前のことを挑戦していくと思う。これからも、グッドモーニングアメリカを宜しくお願いします」

ファンと乗り越える

ペギのドラムはいつも以上にアグレシッブだった(撮影・佐藤広理)

ペギのドラムはいつも以上にアグレシッブだった(撮影・佐藤広理)

 深々と頭を下げて「輝かしい未来を願って歌います」と述べて「輝く方へ」。黄色の4つのライトを太陽の光のように回りながら照らした。彼らに輝かしい未来が待っているように光はその先を導いているようでもあった。感謝にも似た曲が次々と送られる。そして、最後に届けたのは、バンドとファンが目の前の壁を一緒乗り越えていこうとの思いを込めた「イチ、ニッ、サンでジャンプ」。歌い終えたメンバーは「ありがとうございました」と述べて、20秒間頭を下げた。

 彼ら去った後はアンコールが響いた。たなしんが登場してお礼を言う。ここで楽曲リクエスト企画。ファンから寄せられたアンコール曲をくじで引いた。その結果をみたメンバーは「セットリストに入れたかったのですごい嬉しいです。この曲を武道館で歌えて嬉しいです」と語って初期楽曲「アカクモエル」を歌い捧げた。

 アンコールでは3曲を披露した。全てを終えたメンバーは達成感に満ち溢れているように清々しかった。特に金廣の「終わりたくないな」と珍しく感情的に本音を漏らす姿は印象的だった。そうしたメンバーに送られる割れんばかりの歓声と拍手。この瞬間からグドモの第二章が始まったようにもみえた。ファンと築いた歴史。そして共有する気持ち。何度も口にした「ありがとう」という言葉と本音の数々はこの日の武道館で「自信」へと変わったようにもみえた。

(おわり)

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