独特な世界観を持つピアニスト「まらしぃ」の実態を探る
INTERVIEW

独特な世界観を持つピアニスト「まらしぃ」の実態を探る


記者:編集部

撮影:

掲載:15年11月09日

読了時間:約17分

聴いてきたものに偏り

ピアニスト「まらしぃ」の実態を探る[2]

――まず、まらしぃさんが、ご自身の音楽を手がけられる基となったバックグラウンド的なところをおうかがいいしたいのですが

まらしぃ 僕がピアノを始めたのは4歳の頃でした。ピアノに限らず何か音楽を聴くのが好きだった母親が、習い事として習わせたかった、ということで始めたんです。僕は何かわけもわからず連れられて行きましたが、「叩くと音が出る」ものとして、わりと楽しんでやっていたみたいです。

――いやいやでなくて?

まらしぃ そうですね。始めたてのころは、前向きにやっていたようです。自分で言うのもなんですけど、どうやらスジは悪くなかったみたいで、当時の先生に「私よりもっといい先生についた方がいいよ」という話になって…中学校に上がるか上がらないかの頃だったかな。じゃあということでその新しい先生についていきました。でも、その方はガチガチのクラッシック指向で、かつ超スパルタな方でして、週に1回のレッスンの中で、「次のレッスンまでこの曲やってこい!」みたいに続いて、だんだん嫌いになっちゃったんです。そんなわけでかなり食傷気味になってしまい、当時高校受験があるとかいう理由をつけながら、あと先生といざこざがあって「辞めます!」と。そこから一旦ピアノ活動はストップしてしまいました。

 その反動か、高校の3年間はまったく音楽に携わらなかったんですよ。友達と一緒に「ポケモン」とか「ぷよぷよ」などのゲームをして遊ぶとか。結果、音楽とはまったく関係ない大学に進みました。でも、その一年目の夏休みに、「暇だな~」と思っていたところ、当時僕がすごく入れ込んでいた「ぷよぷよ」でオンライン対戦というか、パソコン上で対戦できるものがあって、それで知り合った人に、「ゲーム音楽でいいのがあるよ」と教えてもらいました。いわゆる「東方Project」(同人サークルの上海アリス幻樂団によって製作されている著作物)というもので。それはピアノが激しくて難しいものでして、最初は「いい曲だな」と思って聴いていたんですけど、だんだん「わりとまじめにピアノやっていたころだったら、これくらい弾けるかな?」とか思い始めて(笑)。

――だんだん燃えてきた?

まらしぃ そうですね。そんなちょっとしたきっかけでやってみたんですけど、やっぱりブランクがあるので弾けないわけで、最初はちょっとイラッとしていましたが(笑)、少し頑張って何とか形になるまで練習をしました。で、教えてくれた人に聴かせたいなと思ったけど「自分の家で録ったから聴いて」と、そのままメディアを渡すというのもなんか変かなと思っていたら、そのころからよく見ていた「ニコニコ動画」で、他にギターやドラムとかベースなんかを投稿されているのをチラっと見て知っていたので、そこにアップして「これ、僕なんだよ」とURLを教えてあげる方がいいかなと思いついたんです。それで動画アップまで持っていったのが最初のきっかけだったと思います。

――先生が変わったときに、一つ大きな節目を迎えられたのかと思いますが、それまではどんな音楽を聴かれていたのでしょうか

まらしぃ 母親が、イージーリスニングが割りと好きで、リチャード・クレイダーマンなんかはすごく僕に弾かせたかったみたいですね。僕の実家は名古屋なんですけど、彼は毎年来日して名古屋でもコンサートを行っていたので、それには毎年行っていましたし。

――逆に純粋なポップスみたいなものは聴かれなかったのでしょうか

まらしぃ そうですねえ、わりと僕は根がサボり魔なので、あまり音楽に対して勉強したり、聴き込んだりするようなことはなかったんです。弾くのは好きだけど、いろんな音楽を研究するのは、どうかなと。

――一番簡単に聴けるというか…まさしく「イージーリスニング」ですね(笑)

まらしぃ まさしく(笑)。それこそバックラウンドというお話をするなら、むしろ大学時代から聴いている自分の好きなゲームとかアニソンとか、ボーカロイドなんかもそうかもしれません。あと大学時代には週7でゲームセンターに通って(笑)やっていた「音ゲー」(音楽ゲーム)ですかね。そういうものからは、わりとがっつり影響を受けていると思います。

――ゲームは昔から結構やられていたのでしょうか

まらしぃ いや、実は家が結構厳しかったもので…ピアノを弾いていなかったら「あんた、練習しなさい」とかよく言われていましたし。学校が終わって友達と遊んだ記憶がないんですよね。家に帰るととにかく練習をさせられていましたし。だからその反動かわからないんですけど、親に反抗できる歳になると、ゲームはメッチャやるようになりました(笑)

――昔からそんな経緯を踏んだ部分は、今の自分のスタイルを形作るにあたってインスパイアされたものはあったのでしょうか

まらしぃ そうですね…イージーリスニングももちろんありますし、自分の好きな曲もあります。でも、自分の聴いてきたものは大分偏りがあるんじゃないかと思います。同世代の人と音楽の話になると、僕はまったくついていけないんですよ。人生で一番音楽を聴くであろう中学、高校、大学前半に、僕は音楽から全然離れていましたし、適当にどこかの飲食店で、BGMとして流れている音楽を耳にしていました、くらいで。

熱しやすく、冷めやすく

ピアニスト「まらしぃ」の実態を探る[3]

――逆にソロピアノというと、クラッシック音楽の指向が強いなのかな、という印象もあったのですが、それはそのころ変わった先生の影響で拒否反応が出てしまったのでしょうか? それとも、もともとそれほどクラッシックは好きではなかったのでしょうか

まらしぃ どうでしょうね…まあピアノを弾くこと自体は好きだったと思うんですけど。ただ、クラッシックの世界っていろいろなお作法があって、「この曲を弾いて来い」と譜面を渡されたら、自分で譜読みをして、自分なりに解釈をして、という手順があるらしいんですよね。でも僕は今でも譜読みがすごく苦手というか。今でも「ド、レ、ミ…」とか数えないと分からない時があるんです。

――わかります。本当に難しい

まらしぃ それよりはずっと母親が「これを弾きなさい」と渡してくれたカセットテープを聴いて、えっちらこっちらと音を探しながら弾く方が、僕としてはできる方法だったので「ベートーベンのこの曲を弾いてこい!」と言われたら、帰りに誰かがその曲を弾いているCDを、CDショップで適当に見繕って買ってきて聴いて「あっ、なるほどね」と思いながら練習していたんです。でも、それでレッスンに臨むと「おまえ、誰かのやつを聴いただろう?」とか言われて怒られたわけで(笑)。分かる先生もすごいな、と思うんですけど、そんな感じでよく怒られて、より一層モチベーションはなくなったかな、と(笑)

――今でもそんな感じなのでしょうか

まらしぃ いや、お作法や分別なんてものがわかってきたので、今でしたら例えば、一からクラッシックに向き合う、という気持ちになればまた新鮮な気持ちでやれるかもしれない。ただ今はもう自分の好きな曲を弾いていくことに大分満足しているので、今はいいかなって思います。

――やっぱり自分で作る曲や、そのピアノのプレーもそうですけど「自分がやりたいかどうか」が第一なのでしょうか? 「何かのイメージに合わせる」というのは逆に難しいですか

まらしぃ そうですね。といいますか、その人のプレーを弾いて「この人の手癖はこれだな」みたいなことを真似することはできるかもしれないけど、基本的にほかの方の演奏をあまり聴かないですし。

――プレーも曲作りも、すごく純粋に作られているんですね

まらしぃ そうですね。僕が曲を作るときは、自分で聴いて「こう来てほしいな」「ここで盛り上がってほしいな」というイメージをざっくり作って、また後日聴いて「こっちの方がいいかな」と手を入れていくので。あまりそこに他の曲のイメージから持ってきたものを入れるようなことはないですね。

――ちなみに、よくやられるゲームのジャンルや、その趣向はありますか

まらしぃ やっぱり「やり込み要素(普通にゲームをクリアする目的から外れ、ある分野を徹底的に極める遊び心のような要素)」があるものが好きですね。パズルゲームもそうだし、ゲームといっていいのかわからないけど、マージャンとか大好きです(笑)

――やり込み要素ですか。今回の件に関しては「パズル」という部分でつながりもありそうな感じも見えますね。結構熱中しやすいタイプなのでしょうか

まらしぃ そうですね。熱中しやすくもあり、逆に冷めやすくもあります。でもわりと長続きしてるかも。今やっているゲーム、ピアノももちろんそうなんですけど、すごくやる気があるときは寝ずにやるけど、ふとした瞬間に「ちょっといいかな」とかいう瞬間が訪れると、本当に2~3日離れているんです。すると「そろそろ戻ってこようかな」みたいなのが自分の中に出てくるので、ふらっと戻ると同じようなモチベーションで続きができるという…最近その原理に気づいたんですけど、意識せずに昔からずっとそれをやっていたような気がします。

――自分のバイオリズムに正直な感じ?(笑)

まらしぃ まさにそんな感じですね。義務みたいになって「やらなきゃ!」って思っていると昔のことを思い出してしまうし、あまり好きじゃない。

――逆に、気分が乗らなくったときに「もう完全に弾かなくなってしまうかもしれない」という方向に進んでしまうという恐れはないですかね?

まらしぃ まあ、それはないですね(笑)。レコーディング当日に「気が向かない」というのはヤバいので、何とかしますし(笑)

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