清塚信也が語るクラシック音楽の今昔、「人に伝えてこそ芸術」

ピアニスト・作曲家・俳優に共通するもの

音楽のあり方について語る清塚信也

――目標とされてきた、ピアニスト・作曲家・俳優、それぞれ通じるものはありますか

　ありますよ。やっぱり表現の元。それほど器用ではないと言ったのはそこにも理由があって。メソッド（方法や方式）として使えないものはできないんです。培ってきたものをそのままどこかで使えるということであるから、やっているというのもあるんですね。

　「ピアニストと作曲家」はまだわかる。隣同士といいますか。だけど、芝居とは何が一緒なのかというと、役作りをする上でのメソッド。１回きりの本番。「映画とかドラマは舞台と違ってNG出してもいいから気楽だね」とよく言われるんですけど、全然そんなことはない。むしろライブの方がミスしてもまだ気楽です。

　理由は、映像は本当に多くの人が関わっていて一点に向けて録っているので、毎回本番に入ったら、同じ動きができないんです。「攻める」と業界用語で言うんですけど、ギリギリまで映り込まないラインまできてカメラや音声が狙ってきたり。そこでNGを出して次の回またそこを狙って来たら、映り込みに入っちゃったり。皆ギリギリの所を目指してやっているんですよね。だから毎回同じ動きが出来ないんです。極限過ぎて。

　だから相手の役者さんももちろんそうですし。そういうことを考えると、芝居の方がむしろ、二度と帰ってこない１回を録っているというプレッシャー大きいですね。だからNGなんか出せると思っている人は本当に悪徳だと思います。その人のおごりというか。役者でもしそういう方針の人がいるとしたら、もうちょっとスタッフの事を考えてあげるべきだなと思う。

綾野剛の役者としての凄さ

――清塚さんは過去に俳優さんに演奏指導もされて、共演もあります。そして、現在放映中のドラマ「コウノドリ」で綾野剛さんに演奏指導をされています。綾野剛さんの印象は？

　綾野さんは、練習やリハーサルでわざと「留めておいている」というのを感じますね。

――それは感情を？

　感情もそうですし、「できること」を。練習とかで何か「掴めた」ことがあると普通の人は「できるようになった」ということをプレーなり、口になり出しちゃうんですけど、綾野さんは「できた」ということを自分のなかに留めておいて、本番で「ガッ！」と出すんですよ。それまでは１回もスタッフに見せないんです。本番で「こんなにできたんだ」という姿を皆に見せてくれるんです。それによって皆も今まで以上のものを出すようになるし。

　それで、その姿にビビってしまう人は準備不足というか。やっぱりみんな「後は出すだけ」という状態で現場に来てたら、綾野さんのそういう姿を見て皆が「グワーっ」とテンション上がるんですね。それを、綾野さんが知ってか知らずかはちょっとわからないですけど、そうやっているのは裏で今回見させてもらってよくわかりました。

――それはご本人には言っていないのですか

　言えないですね、彼の仕掛けかもしれないですし。「僕はそれに気付いてるよ」みたいなことを言うと、やっぱりそれは核心に触れる事だし、非常に繊細な事だから。それくらい、本番一回きりでどれだけ出せるかという力は必要で、ピアノ練習している人、音大生なんかもここに盲点が凄くあって、皆コツコツと凄く練習するんですよ。放っておいたら12時間でも24時間でも。偉いんです。だけどそれを「一回きりで出す練習」をしないんです。それが盲点なんです。

　「一回しか本番無いんだよ」という状況で、その24時間毎日やっていた情報量というのは多すぎて、むしろ出せないんですよ。それをもう３つくらいに絞って最後はお届けしないと人には伝わらないんですよね。それがやっぱり表に出る人の最後のスキルなんですよね。だからそういう所でピアニストと俳優は同じスキルを使っていられるというのがありますね。綾野さんを見てても、そういう所が凄いなって感じますし。

――清塚さんご自身は俳優の幅もどんどん拡げていきたいとお考えですか

　そうですね。どんどんやりたいですね。