「あのころの息吹を取り戻せたら」ロックバンドがまた面白いことをやってくれたらいいなと思っています
――今回のアルバムは全体を通して、世相を反映したものからご自身の内面の奥まで、非常に幅が広くてバランスがいいように感じられますね
加藤ひさし だから30年もバンドをやっているんです。まだ、ザ・コレクターズをご存じない方も多くいらっしゃるかと思いますし、メンバーも50歳を過ぎちゃっている上に、これから10代、20代の子で、50代のバンドを聴こうと思う連中もなかなかいないと思いますけど、ちょっと面白いことをやっているバンドだし、いろんな人に一度は覗いてみてもらいたいなという気持ちはありますね。
――先ほど他のバンドに「俺たちはこんなことができるんだ!」ということをアピールするというお話がありましたが、同様に自分たちの存在を誇示するような意味も込められているのでしょうか
加藤ひさし そうですね。本当に「余計なお世話だ!」と言われるところもあるかもしれません。同世代のバンドとか、新人さんとかね。でもこんな頑固オヤジって絶対必要じゃないですか? 聴いてもらえれば「なぜ彼らは30周年も続けられたのか?」という理由も分かってもらえるだろうし。
――来年で結成30周年ということですが、デビュー当時とか、バンド活動を続けてこられた中で、30年もその歴史を続けるということを考えられたことはありますか
加藤ひさし それはない、全くないですね。ただ逆にすぐ終わるとも思っていなかったし、何年続けるなんてことも考えたこともない。正確にはデビューして28年で21枚のアルバムだから、1枚のアルバムに大体1年半かかるわけですよ。その中でレコーディングには3カ月くらい必要で、曲を書くのはもっと必要。それをやってライブツアーをやるとしたら、1年なんてあっという間に過ぎちゃう。それを「次!」「次!」とノルマのように作っていったら、いつの間にか29年たっちゃった、という感じなんです。だから、その間には「もう辞めたい…」「辞めた!」なんてことも考えたこともなかった。今もその真っ最中で、来年のアルバムも作らなきゃいけないから、そろそろ準備を始めなきゃという感じだし。
――来年はアニバーサリーながら、意外にご自身としては「えっ? 30周年? あっそう?だから何?」くらいにしか思われていないところも正直あるのでしょうか
加藤ひさし まあなかなかそうも言えないですけどね、周りが盛り上がっている中で(笑)。だから「そうなんだよ、苦労したんだよ!」って言っていますが(笑)。
――でも実際には「苦労した」という気持ちもあるんでしょうかね
加藤ひさし いやない、全然苦労していない(笑)。本当に。飯が食えなくなったこともないし、娘もちゃんと大学を出したし、全然。何か向いてたのかもしれないかもね。ただ「売れる」という行為が、「みんなに知ってもらえる」という行為だったとしたら、もっと売れたいと思いますが。
――今回アルバムのリリースに伴って、今年復活したレーベル「TRIAD」に復帰したということですが、そのいきさつを教えていただけますでしょうか
加藤ひさし CDがもっと売れている時代が90年代にあって、その時に日本コロムビアレコードが作ったロックのレーベルが「TRIAD」だったんです。その「TRIAD」はもちろん、俺たちもいましたし、THE YELLOW MONKEYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT、ピチカート・ファイヴとか、そういう連中がいて、業界や周りからも「ロックレーベル」という位置づけで見られていたんですよね。だから「TRIADに行きたい」というアーティストもすごくたくさんいました。ところがCDの売り上げが減少し始めてからは、各バンドの移籍も始まって、「TRIAD」自体が消滅してしまったんですよ。で、今年THE YELLOW MONKEYの吉井(和哉)くんが、また日本コロムビアに移籍して、彼もその時代を振り返って「もう一回やりたいよね」という話になってきて、であれば「もう一回、ロックの日本コロムビアを」という話になって「TRIAD」を復活させようということになったんですよ。
――その復活という部分にザ・コレクターズも、一役買っていたということでしょうか
加藤ひさし まあ最初に「TRIAD」にいて、変な話もう俺たちしかいないですよ、オリジナルの「TRIAD」にいてまた戻ってきたバンドって(笑)。
――それはご自身でこのタイミングで何かやろうという意思があってのことですか
加藤ひさし そうですね、俺はずっとロックマニアだったので、いろんなロックの聴き方をしていたんですけど、例えば海外にも60~70年代からいろんなレーベルがあった。「Island Records」というメジャーレーベルがあって、ここはレゲエをやったりしているけど、その昔はSteve WinwoodなんかがいたTrafficっていうバンドとか、通な音楽しかやらないんですよ、渋くて。それで一つのレーベルなんで、「『Island』のものだったら、そういうものが聴けるだろう」という印象があり、同様に「『A&M』ならカーペンターズみたいなAOR」っていう雰囲気もあり、そのほかにも「Creation Rebel」や「Virgin Records」とか。そういった古(いにしえ)のレーベルみたいになったら面白いなと思いますね。「『TRIAD』のアーティストだったら聴いてみようか?」「『TRIAD』だったらこんな感じかな」みたいなことになったらちょっといいかなと思いますね。
――では逆に、例えばザ・コレクターズとして新たなアルバムやイベントを打ち出そうとした時に、何か新たな方向性や意気込みを打ち出そうという動きもあるのでしょうか
加藤ひさし まあ方向を変えるというよりは、せっかく吉井くんがそこまでこだわるんだったら、粋なロックバンドを連れて来て「ロックのレーベル」というところで、今までやって来たことの中からさらに新しいことができればと思います。例えば「『TRIAD』のアーティストだけのライブイベント」をやるとか、そんな風なこともやっていくと、またロック自体が元気になってくるのかな?と。
――活性化のきっかけになるかもしれませんね
加藤ひさし はい。そうすればほかのレコード会社も、かつて存在したロックレーベルを復活させるかもしれないし。そういった意味では、せっかくなんで「TRIAD」のために頑張れればいいと思うんですけど。
――レーベル復活の際に、吉井さんとお話をされたことはありましたか
加藤ひさし いや、まだないんですけど、『ARABAKI ROCK FEST.15』がこの前あって、その時にザ・コレクターズTribute Nightをやってもらって、(奥田)民生くんやら加山雄三さんやら、スピッツやらと一緒に、吉井くんも入ってくれたんです。打ち上げの時にはちょっと話をして「あのころの息吹を取り戻せたらいいね」と。まあ、これからだと思います。何せまだ復活して間もないし。
――自分のことたちだけでなく、今後ロック自体のシーンというものを自分たちから盛り上げようと考えられているということですか
加藤ひさし もちろん! それは「TRIAD」があってもなくても、盛り上げていきたいですね。だからそこで「TRIAD」という塊が、そういうことができるものであれば、ザ・コレクターズ単体でやるよりも、もっと波及するでしょうし。もしかしたらそんなきっかけでロックバンドがまた面白いことをやってくれたらいいなと思っています。
――そうすれば、ご自身の「言いたいこと」というのも、もっと伝わっていくであろうと…
加藤ひさし そうですね、あまり頑固オヤジに見られない程度に(笑)。
――では最後に、アルバムリリースや来年、再来年の30周年に向けての意気込み的なところを含んで一言メッセージをいただければと思います
加藤ひさし 実は30周年って、やっぱりお祭り的な気持ちになると思うんですが、俺たちみたいに制作する方の気持ちにとってみれば、いつも通り、いやいつも以上の作品をリリースするだけなんですよ、俺たちは職人ですから。ただそのお祭りって楽しいものですから、そこに自分たちの作り出すものをどうリンクさせていくか?そして、みんなで2年続く30周年を、どんな風にザ・コレクターズ祭りにできるか?っていうのが重要。そのやり方次第で31年目というのも見えてくる、ということもあるし、通過点ではあるんですけど、一つのけじめになることは確かだと思うんです。それに今まで本当に応援してくれた、それこそデビューしたころから応援し続けてくれている人もたくさんいる中で、そういう人たちに向けても一度、「お疲れ様」「ありがとう」そして「これからも宜しく」という年になるだろうし、それにふさわしいイベントができたらいいなと思っています。それだけですね。いや、あとはミュージックステーションに出たい(笑)。まだ一回も出てないんですよ、敷居が高くて。でも30周年のご祝儀で出させてくれないかな(笑)。
(おわり)