[写真]金子國義さんが築いたカルチャー

金子國義さんが描いた「放蕩娘」(左)に扮するTAOのメンバー(右)。左から紗夜さん、美里悠茉さん、咲良さん(沖本竜也さん撮影)

 『不思議の国のアリス』(オリベッティ)の挿絵で知られる奇才の画家・金子國義さん(享年79)を追悼するイベント『VampNight ~金子國義へ捧ぐ夜~』が8月29日、東京・銀座の「砂漠の薔薇」で催される。絵画だけでなく、写真や着物デザイン、舞台演出から歌舞伎美術などでも活躍し、多くのアーティストやミュージシャンに影響を与えた。その故人の芸術性や昭和・平成のカルチャーをイベントでは伝える。

金子さんが愛したカルチャーを表現

 金子さんは、自著伝『美貌帖』(河出書房新社)のあとがきに「芸術は遊びの精神からくるものだと今でも信じて止まない」と記していた。それを示すように、作業場を離れては、映画や音楽、歌舞伎、書物を嗜んでいた。氏の芸術性は絵画に収まらず、写真や浴衣、着物デザイン、舞台演出や歌舞伎の美術など多岐に渡った。そして、「初代四谷桃子」の名では女装して女優に、いわゆるドラァグクイーンとしても活躍した。

 その故人の想いを表現しようと、イベントでは、ドラァグクイーンのマーガレットさんや、ポールダンサーのKAORIさん、パフォーマンスダンスグループのstorydancegroup-TAO/美里悠茉さん・咲良さん・紗夜さん、オペラ歌手のヒロユキさんたちが出演。また、トークショーでは、新宿二丁目で最年長ママの洋ちゃんさんが登場する。このうち、storydancegroup-TAOは金子さんが生み出した「放蕩娘」=写真=に扮する。

その分野のトップが出演

 出演者はその分野で名を馳せている。例えば、マーガレットさんは、日本における「ドラァグクイーン」文化を広めた草分け的な存在。ドラァグクィーンを起用した日本最大のクラブパーティでグランドホステスを務め、テレビ番組初ドラァグクィーンのパーソナリティとしてレギュラー出演。また、ミュージシャンのコンサートツアーにも同行した過去がある。

 そして、ポールダンサーのKAORlさんは、「砂漠の薔薇」のトップポールダンサーとして数々の賞を受賞。日本POLE DANCE協会理事、松涛ポールダンススタジオ TRANSFORM代表でもある。洋ちゃんさんは、映画『メゾン・ド・ヒミコ』やTBSテレビ『有吉ジャポン』などに“新宿二丁目最年長ママ”として登場。78歳にして軽快で巧妙なトークでも人気を集め、昭和文化を華麗な大スター達と楽しみ語り尽くしたレジェンドとも言われている。

 3人に代表されるように、金子さんが嗜んだそれぞれの分野で活躍する面々が、身なりや動き、歌、言葉などを使ってそれぞれの「美」を表していく。

美意識

 光に照らされた面によって異なる輝きを放つ多面体のダイヤモンドのように、美意識は人によって様々。金子國義さんが描く耽美的な画風は、人間の本能を映し出した。激しさとその反面性。美と本能。そして光と影、理性と欲望の両極を映し出すことで「美」を追求した。

 慈母の着物の紅絹裏(もみうら)にあった赤が、ものごころついて最初に意識した色という金子さんは幼少期、慈母の着物などを付けて花魁のように踊って家中から喝采を浴び、東京宝塚劇場で少女歌劇『ローレライ』で西洋の香りの洗礼を受けたと自著伝『美貌帖』(河出書房新社)で振り返っている。この頃から「美」の意識が芽生え、その後、映画や歌舞伎などあらゆるものから「美」を吸収していく。それはやがて絵画へと反映されていった。

ドラァグクイーン

 近頃、テレビ番組で多く見かけるようになった「女装家」。海外ではドラァグクイーンとも呼ばれ、サブカルチャーとして確立しているようだ。昨年5月にデンマークの首都・コペンハーゲンで開催の『ユーロビジョン・ソング・コンテスト』で優勝したオーストリア代表のひげを生やしたドラァグクイーン、コンチータ・ウルストさん(当時25)の歌唱姿は記憶に新しい。

 ドラァグクイーンは、男性が女性の姿で行うパフォーマンスの意味も含み、身なりを美しく表現するための方法の一つとも言われている。女性の美しさ、ひいては人間の美しさを体や服装で表していく。金子さんは生前、「四谷桃子(初代)」の名で女装した女優として舞台に出演しており、元祖・ドラァグクイーンとも称される。この女優としての顔が絵の表現にも影響されたとも言われている。

感性

 金子さんは、芸術性における鬼神でありながら極めて人間的で、男性でありながらも女性的でもあった。全ては「美しさ」を求めることに端を発する。幼少期、そして青年期に目にした光景や出来事が美意識に変わり、それはやがて本職となる絵画、そして写真へと移っていった。

 それを養ったのは知識の美、言葉の美、体の美への追求であるとも言われている。影があって光が成すように、「美」は対極があって際立つ。それは人間の心にも両極が宿る。その人間の美と対極を絵に表現したのではないかとの声も聞かれる。ドラァグクイーンもまた美を表現する一つだったのであろう。

美の表現方法

 「美」はすべてに関わるもの。氏が亡くなったいま、改めて彼の考えを受け継ぎ表現していこうとする動きの一つが今回の追悼イベントであり、遺作となった画文集『天守物語』に続くものとして行われる。

 氏の考えを忠実に再現することは不可能に近い。しかし、彼の美意識を汲んで、悩み、考え、伝えていくことは必要なのであろう。奇才で知られた氏もまた極めて人間的で「何度も迷った」という。迷うからこそ考え抜き、調べ、知識を養っていく。それが「美」に繋がる。

 イベントには、多方面で美を求めた故人に相応しく、ありとあらゆるパフォーマーが出演する。それぞれの特質なパフォーマンスやトークで「美」を伝えていく。

 主催者は「画家としてでなく多面な活動で多くのアーティストやミュージシャンに影響与え、写真や浴衣、着物デザイン、舞台演出や歌舞伎の美術など上げればきりがないほど御活躍した方です。一貫した美学は他にみない華麗で、それでいて職人気質な先生の人生そのものでした。でも茶目っ気たっぷりな性格や金子先生自ら女装をされて、今回のVampNightのテーマの放蕩娘を築いた初代四谷桃子を皆様に伝えられたら感無量です」と述べている。  【文・紀村了】

イベント情報

Vamp Night(放蕩娘ナイト) ~金子國義へ捧ぐ夜~

▽日時 8月29日土曜日 夜9時~翌朝
▽料金 前売3800円、当日4000円(1drink付)
▽会場 東京銀座・砂漠の薔薇
▽出演者
ドラァグクイーン マーガレット、おりぃぶぅ、東雲ほか
ポールダンサー KAORIほか
パフォーマンスダンスグループ storydancegroup-TAO/美里悠茉・咲良・紗夜
トークショーゲスト 新宿二丁目 洋ちゃん、マーガレット
オペラ歌手 ヒロユキ
ほか
▽そのほか
金子國義リトグラフ販売
金子國義イベント限定グッズ販売
金子國義映像ショー

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