定額制音楽配信サービス、いわゆる「サブスクリプション型音楽配信サービス」の元年と言われる今年。各社の参入が相次いでるなか、かねてから同サービスを展開するNTTドコモとレコチョクは24日、都内で共同記者会見を開き、両者が共同提供する「dヒッツ」の現状や今後の展開、国内外における音楽市場の展望などを語った。

減少する音楽市場

[写真]ドコモとレコチョクが会見(1)

ドコモ前田部長

 米国ではアップルが定額制音楽配信サービス「アップルミュージック」を開始するとして話題を集めているが、日本でも続々とサービス立ち上げの動きがみられる。エイベックスとサイバーエージェントによる「AWA」が先日、本格的にサービス開始を告げる会見を開いたばかりだが、この分野では老舗のドコモとレコチョクが両者が展開する「dヒッツ」の展望を説明するために会見を開いた。そこで気になったのが「各社が参入することで市場の活性化になれば」と、dヒッツ側もAWA側も同じ見解を示したことだ。

 この日、会見に出席したNTTドコモ・コンシューマビジネス推進部・前田義晃部長によると、NTTドコモは2001年にPHS向けに音楽配信サービスを開始。2006年には着うたフルの配信を始めた。会見の説明資料によると国際的にも音楽市場は縮小傾向にあるようだ。243億ドルを記録した96年と比べ、2014年は150億ドルまで下がっている。国内に関しても同様の現象が起きており、98年には6075億円あった市場規模は14年では2979億円まで縮小している。

 その大きな理由に、レンタルサービスやYouTubeなどの無料動画視聴(投稿)サイトの登場など、消費する手段が多様化したことが一つと考えられている。ドコモ前田部長は「携帯電話の登場で利用シーンが広がった。昔よりもハードの機能は良くなっているが、音楽に限らずゲームなど他のエンターテインメントも充実化している。ただ、音楽を聴く時間は減っている訳ではないと思う」と見解を述べている。

 パッケージを含む音楽市場は減少傾向ではあるが、配信においてはスマホの普及によって回復傾向にある。2013年で底を打ち、2014年では437億円に回復した。そして、音楽市場の活性化に期待されているのが定額制というわけだ。成功の鍵を握るのは無料で視聴が出来る環境からいかにユーザーを呼び込むか、という事だ。レコチョクの板橋徹執行役員は「当然、そうしたニーズも考えてプログラムを強化していかなければならない。プロモーションメディアとして強化していく」と対応策を講じていく必要があるとの認識を示した。

ラジオ型とオンデマンド型

 この定額制音楽配信サービスには、楽曲をシステム側でリスト化して垂れ流す「ラジオ型」と、自身の好きな楽曲を選曲して聞く「オンデマンド型」がある。一般的にユーザーの行動指向が受動的なテレビやラジオなどの既存のメディアに対し、能動的と言われるネットでは、ラジオ型では満足できないという意見もある。「dヒッツ」に関して言えばこれまで、ラジオ型のみであったが、オンデマンド型のサービスもここ最近取り入れている。レコチョク板橋執行役員も「世界をみても類を見ない唯一のサービスだ」と自信をのぞかせている。

 低価格も魅力だ。他社がベーシックプランが300円から900円台(幅有)、プレミアムプランが1000円台に対して、dヒッツはベーシックが300円、プレミアムが500円と低め。そうしたことやプログラムの充実化もあってか最近では試聴期間が過ぎてから正契約になる成約率が上がってきているという。また、会員数は現在300万人を超えている。

 もう一つの強みは配信楽曲数が150万曲、著作権許諾率8割を誇る点だ。しかしながら、レコチョク板橋執行役員は「著作権者の理解を深まれば他社もすぐに当社に追いつく」としている。そうしたことから他社との差別化をはかるために、音楽を自ら生み出すためのアーティスト参加プロジェクト「Eggs」(エッグス)や、プロモーションメディアとしての価値を高めて自社だけの配信楽曲や先行配信、そしてフェイスブックとの連動(9月予定)を図るなどサービスの充実化を図っていく。

ライト層の活性化へ

[写真]ドコモとレコチョクが会見(2)

レコチョク板橋執行役員

 「Eggs」については、ドコモには子会社のタワーレコードがある。タワーレコードには自社レーベルのT-Paletteなどもある。タワレコ系列のレーベルからCD化するという展開は明言していないものの、dヒッツでの配信やCD化の出口(発表の場)を見出すことで音楽を生み出す仕組みを作り、「Eggs」発の楽曲を増やしてオリジナルコンテンツの充実化を図る方針だ。ただ、あくまでもライトユーザーの獲得が主眼だ。膨大な楽曲数の確保よりも、より多くのリスナーが満足できる価値の高い楽曲獲得を目指す。

 ドコモはかつて、米ナップスタージャパンやタワーレコードとの協業で一早く国内での定額制サービス「ナップスタージャパン」を展開した。月額1886円で1000万曲を誇る楽曲配信数で、ピーク時の会員数は6万人であったが、当時は洋楽中心であったためにライトユーザーの獲得にはならなかった。そうしたこともあって「楽曲数が多いのは魅力だと思うが、人気のある、流行りのある市場価値がある楽曲も重要」との認識があるようだ。

 ドコモ前田部長も「音楽ライト層を活性化することで音楽の広がりに繋げたいというのがもとの考え。着うたフルで配信市場が盛り上がりをみせはじめたなか定額制を開始したが理解・浸透は得られなかった。先行的な取り組みを展開して失敗・反省に基づき、強いパートナーとやりたい。そこでレコチョクさんと提携してdミュージック、dヒッツが生まれた」と振り返る。

音楽スタイルの変化

 それでは、定額制音楽の登場で音楽のスタイルは変わるのであろうか。AWAの会見に出席した小室哲哉は「音楽の原点に戻れる」と語っていたが、制作サイドの考えでは「売れる曲づくり」から「聴いてもらう曲づくり」への心理的変化があるという。ユーザーから見た場合は、これまで出会えなかった楽曲に触れる機会は増える。

 AWAはラジオ型とオンデマンド型を提示するとともに、レコメンド機能とプレイリストをウリにしている。レコメンド機能とは、ユーザーが過去に聞いた楽曲からお勧めの楽曲を紹介する機能だ。そしてプレイリストは、自分オリジナルの楽曲再生リスト、要は仮想のアルバムを作るようなものだ。AWAではこのプレイリストに小室哲哉などが参加。また、エイベックス所属アーティストも参加させて付加価値を高めようとしている。

 一方のdヒッツも同様にレコメンド機能とプレイリストを今後強化していくという。また、LINE MUSICは、成功を収めたラインスタンプのように「楽曲を贈る」機能を全面に押し出している。

 更に、気になるのは最近話題の「ハイレゾ」対応だ。現在の音質はACCで128kpsだ。これはiTunesなどにもみられる現在の一般的な配信音質レベルだ。LTEの回線安定性も向上しており、将来的な導入にも含みを持たせているが、あくまでもライトユーザー向け。通勤時間やドライブでの利用を想定しており、楽曲が途切れないことが最重要であるとしている。

存在価値を高めるレコチョク

 そうしたなかで会見では「市場の活性化が必要だ。既存のシステムと協創していきたい」との認識を示した。例えば、フェイスブックとの連携やレーベルとの「協創」によって年度内に500万曲の配信を目指す。更にレコチョクとの連携を更に強化しサービスの向上を図っていく。これらの展開により、市場の活性化、そしてライトユーザーの獲得をねらっていく。

 一方のレコチョクは最近、企業とのコラボが活発だ。パイオニアに続いて、USENとの共同サービスも開始した。前身のレコード直営から始まり、音楽配信サービスの雄でもあるレコチョク。企業にとっては、同社が有する膨大な著作権許諾数も魅力の一つだ。レコチョクにとっては市場における存在価値を今後も高めていくことになりそうだ。  【取材・紀村了】

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