INTERVIEW

石井一彰

17年ぶりの『レ・ミゼラブル』で見せたい“頑固なジャベール”


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:24年12月17日

読了時間:約6分

 俳優の石井一彰が、12月20日から2025年2月7日まで帝国劇場で上演されるミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演。主人公ジャン・バルジャンを執拗に追跡する冷徹な警部、ジャベールを演じる。石井は、2006年東宝ミュージカルアカデミーに第 1 期生として入学し、翌年にミュージカル『レ・ミゼラブル』で俳優デビュー。その後は、舞台を中心に活動し、ミュージカル『ミス・サイゴン』 などに出演し、映像では、ドラマ「科捜研の女」(テレビ朝日)にシーズン15から、内藤剛志演じる土門の相棒、捜査一課刑事・蒲原勇樹役でレギュラー出演。インタビューでは、2007年に俳優デビュー作となった『レ・ミゼラブル』に再び参加する心境から、ジャベールをどのように演じようと考えているのか、また、普段の生活のなかで正義感が出てしまう瞬間について話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

石井一彰のジャベールを見てもらって、何か感じ取ってもらえたら

石井一彰

――本作は石井さんが舞台デビューされた作品で、とても思い入れがあると思います。今回ジャベール役に決まったとき、どんな心境でしたか。

 嬉しさ以上にジャベールを演じる責任感みたいなものがすごく押し寄せてきました。少し経ってから「ジャベールを演じられるんだ!」といった感情がでてきました。

――石井さんが2007年に出演された時のジャベール役は阿部裕さん、石川禅さん、岡幸二郎さん、今拓哉さんの4人でしたが、その方々のお芝居はどのように映っていましたか。

 自分の中のジャベールはその方々のイメージがとても強いです。そのあと僕は『レ・ミゼラブル』の世界から離れていたので、今回17年ぶりですが、17年経ってもそのときの記憶が僕の中の『レ・ミゼラブル』なんです。ミュージカルの大スターたちがジャベールやジャン・バルジャンを演じていたのでとても大きな存在です。今回ご一緒する駒田一さんもすごく尊敬する方で、時を経て共演させていただけるので、石井一彰のジャベールを見てもらって、何か感じ取ってもらえたら嬉しいなと思っています。

――稽古の進捗状況はいかがでしょうか?

 「エコール レ・ミゼラブル」という歌稽古だけをやる期間があるのですが、それを今、週3 回やっています。(※2024年9月取材時)

――どんなことを意識されて、「エコール」に臨まれていますか。

 今は音程と譜面に忠実にしっかり歌うことを意識していて、本稽古が始まった時に柔軟に対応できるように、歌を体に染み込ませています。ジャベールはソロ曲の「Stars」と「自殺」が有名ですが、実はそれ以外にもたくさん歌っているところがあることに改めて気づきました。ジャン・バルジャンとの掛け合いをする曲があるのですが、音程を取るのに苦労しました。しっかり音程を取っていくとしっくりくると言いますか、やはりこの音程でこの歌詞を歌うことが正解なんだと強く感じました。それによって自然と心が流れていく感じがあります。

――ジャベールを演じるにあたり心掛けていることはありますか。

 原作を読むとジャベールの出生についてなどいろいろ書いてあるのですが、もしかしたらいろんなジャベール像があるんじゃないかと思いました。例えば、ジャン・バルジャンに対する執着や、絶対逮捕してやるという執念も、演じる人によって出し方が違うと思います。そこは石井一彰が出せるものを出していきたい。自分はこういうのが得意とか自覚しているわけではないのですが、ただ自分だからこそやれるという部分はあると思っています。

 特にジャン・バルジャンを追い詰めて絶対に逮捕する、俺とあいつは絶対に相容れないという頑固さを打ち出したいと思っています。演出家の方から「それはジャベールのイメージじゃない」となったら、また違うものを用意していけばいいので、いろいろ試しながら、僕なりのジャベールを作っていきたいと思っています。

――注目してほしいシーンはどの部分ですか?

 やはりジャベールの最期のシーンですね。最近もそのシーンを稽古させてもらって、自分が思っていた以上に多くの要素が求められると感じました。

――そのシーンは本作のハイライトのひとつだと思っています。

 一番最後に出る声とはどんな声なんだろう、と歌唱指導の山口先生と話しました。その山口先生がおっしゃっていたことで興味深かったのが、ジャベールは橋から叫びながら飛び降りるのですが、死ぬことを決心したときの声ってどんな声なんだろうねって。ジャベールは生前、己の信念に縛られていましたが、死によって初めて自由を得る。僕はもしかしたらその時の声は天使のような声なんじゃないかと思っています。正解はないと先生もおっしゃっているのですが、いろいろな声の出し方があると思うので、そういうところまで突き詰めて行けたらいいなと思っています。

家に帰ってきて「俺、何やってんだろう?」

石井一彰

――ジャベールの正義感の強さは目を見張るものがあります。それにちなんで、石井さんがこんな時に正義感が出てしまったという経験はありますか?

 ドラマ『科捜研の女』で刑事役を演じているので、どこかで自分が刑事だと思っているところがあるみたいなんです(笑)。いま思うと怖かったことがあって、コロナ禍の時にマスクが品薄で、薬局に行くと1人1箱までの時期がありました。京都で撮影している時に薬局に並んでいたら、ある男性の方が3箱買いたいと店員さんともめていて。僕は何を思ったのか、「ちょっと待ってください、一人一個って書いてあります」みたいなことをついつい言ってしまって。

――正義感出ましたね。

 家に帰ってきて「俺、何やってんだろう?」と我に返ってしまって。ケンカとかの仲裁に入ってしまうこともあるのですが、どこかでカットがかかると思ってしまっている自分がいて(笑)。それを俳優仲間に話したら、「そういうのトラブルになるから絶対やめたほうがいいよ」と言われました。刑事役を長くやらせてもらっていると正義について考えることも多くて、そこに落ち入りやすいと言いますか、危ないんですけど、常に正義でありたいみたいなところは、普段の生活の中でもあるかもしれないです。

――役者ならではの感覚かもしれないですね。

 他にも正義感とは違うのですが、親切心が出てしまうこともあります。浅草の地下鉄は、地上まで上がるのにかなりの階段数を上がるのですが、外国人がたくさん荷物を持っていて大変そうだったので、荷物を持ってあげて一緒に地上まで上がるというのを4 日連続でやったこともありました。何かを求めてるわけでもないんですけど。できるだけ困っている人がいたら何かしてあげたくなるんです。

――素晴らしいです。さて、ジャベールの両親が囚人で、ジャベール自身は刑場で生まれた背景があり、そのコンプレックスからか執拗に正義感が強くなってしまったのではと思ったのですが、石井さんはそういったコンプレックスはありますか。

 たくさんあります。20代の頃は自分と他人を比べることもすごく多かったんです。でも比べてもしょうがないと思ったのが30歳を過ぎてからで、30代後半からは自分はこういう人間だから、これでいいみたいな考えになってからは、一人でも僕のことをいいなと思ってくれる人がいればいいと思えるようになりました。自信が持てるものが一つあればそれでいいと思います。

――石井さんはそれが俳優業だったりするわけで。

 演技や歌が上手い人はたくさんいるので、演じる技量というよりは、応援してくださる方の存在が大きいです。石井一彰という俳優を認めてくれて、応援してくださる方がいるというのは自分の存在意義の一つなんじゃないかと思っています。それが自分の強さに繋がっていますし、原動力はそこにあると思います。

――最後に舞台を楽しみにしている方に一言お願いします。
 
 自分のキャリアは舞台から始まっているので、これまで応援してくださった方に関しては、ミュージカル作品に出演することによって、応援していただいた気持ちに対して誠実に役と向き合って演じることで恩返ししていきたいです。この作品を愛してくださっている方には、期待してくださっている以上のもの、心に刻まれるようなジャベールをお届けできるよう、全力で臨みます。どうぞご期待ください!

石井一彰

(おわり)

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村上順一

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