フェス「NAONのYAON」から見える女性ロックの今
多様化で難しくなった世代を超えた定番曲
今回このイベントに出演した相川七瀬は「夢見る少女じゃいられない」「Sweet Emotion」、山下久美子は「バスルームから愛をこめて」、中村あゆみは「翼の折れたエンジェル」、そして、SHOW-YAは「限界LOVER」と、この日登場したベテラン勢は、日本のJ-POP、J-ROCKシーンの歴史に残る代表曲を残している。また、過去に行われた『NAONのYAON』のイベントにおいても、しっかりと歴史の中で金字塔を打ち立てたアーティストが名を連ねている。
とあるアンケートの中では、J-POP、J-ROCKという音楽を最も趣向する年代は30~40代という結果が発表されており、国内のリスナーの中心も、ロックを愛好するのはこの世代となると考えられる。この時期的な観点からしても、先に挙げたヒット曲の数々は、その琴線に触れるサウンドとして中心に立たせることには、大きな意味がある。先人のスタイルを踏襲してきたサウンドが、いわゆる「女性のロック」のスタイルを形成した一つのスタイルとも考えられるからである。
仮に、他の年齢層のロックを中心に考えるとすると、たとえばメディアの多様化が進み、色んなスタイルの音楽をさまざまな形で楽しめるようになった現代では、同じように10年、20年と歌い継がれ、人々の記憶に幅広く残っているような曲を、新たなアーティストが出していくのはかなり難しい。そのため、イベントを開催したとしても、リスナー傾向はより偏ったものとなり、『NAONのYAON』のスタイル、ターゲットとはまた違ったイベントになることだろう。
女性ロックシーンの縮図
また、この『NAONのYAON』のステージは、「女性のロック」というテーマが抱える、これからの課題を浮き彫りにしている。たとえばビジネス的な観点や、リスナーたちの趣向、聴く層の年代、あるいは音楽的な情報を集める手法など、時代はロックというカテゴリの中でも、一つのスタイルや様式をずっと維持することはない。
そのため、当然、新たなアーティストたちは、その変化の中で培ったスタイルを、いかにそのテーマの中に存在させるかを考える必要があるだろう。その意味で、さまざまなスタイルを持ったアーティストが多く登場し、同じように肩を並べて活躍することで、「女性のロック」の本質を広げていく必要がある。
『NAONのYAON 2015』にて、トップバッターの相川七瀬のステージでは、観衆にとってなじみのある楽曲を披露した相川のプレーにフロアは総立ちだったが、続いてFLiPが登場した際には、そこまでの盛り上がりを受けられなかった。観衆はガラッと変わったサウンド、曲調に少し戸惑いを感じていたようにも見えた。しかしその後、フロントの3人がおのおのパーカッションによるパフォーマンスを入れ、さらにコール&レスポンスを始めた。これにより観衆の反応は代わり、大絶賛のうちにプレーを完遂した。
プレーを終了し、寺田よりインタビューを受けた彼女らは、2年連続でこのイベントに立ったことで「ホームのように感じている」と語っていたが、同時に、真にそう感じるために「自分たちにはその場でしなければならないことがある」と考えていたのではないだろうか。彼女らのこのステージは、「女性のロックのイベント」の中で取り組んでいかなければいけない課題をあらわにし、且つ積極的にその課題に挑戦したというようにも見られた。
また、SHOW-YAのステージにおいて、「勝手にしやがれ」がプレーされたことに関しても、男性的な表現があふれるこの楽曲をプレーすることで、女性がどこまで台頭できるかを、敢えてこの曲のプレーでチャレンジし、新たな可能性を模索しているようにも見えた。
現在「女性のロック」であろうと思われるスタイルを啓蒙しながら、さらに女性が作り出すロックの可能性をより拡大し追及していく。そのような取り組みができることも、このイベントの持つ意義の一つであろう。
これからの『NAONのYAON』、そして女性のロックの課題
寺田はステージの最後に、このイベントについて「楽しまなければ意味がない」と語っていた。この日登場したアーティストたちは、ステージを目いっぱい楽しんでいた。が、もっと楽しめるはず。「女性のロック」を敢えて意識するということは、逆にいえば女性がロックすることに対し、構えている姿勢が見えるからだ。
その意味でこのイベントを通じて、さらにたくさんの新たなバンドが出てくる必要がある。今年のイベントの終わりには、8月23日に再び『NAONのYAON』を行うことが発表された。異例の開催であるが、たくさんのアーティストが一堂に開始、その意義を訴えるという意味では、この開催決定は必然的なものともいえる。
新たなアーティストが今後台頭していく上では、さらに新たな取り組みが必要だろう。新たなリスナー、ファン世代に移行しつつある歴史の中で、今度は『NAONのYAON』がどのように意味を持つものとなっていくのか? その動向に引き続き注目していきたい。 【桂 伸也】
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