縦長シングルでみる録音媒体の変化、聴くスタイルはどう変わったか
楽曲の保存形式の今と昔
現在、例えば配信シングルをダウンロード購入した場合は、iTunesなどPCのメディアプレイヤーに保存し、各楽曲のファイルを音源として管理する方が多いだろう。スマートフォンやmp3プレーヤーに移せば手軽に何万曲も楽しむ事も出来る。
では、縦長シングル時代はどう音源を管理していたのだろう。当然、メディアプレイヤーやフォルダ、スマホではなく、「棚」や「カセットテープ」だ。CDは棚に並べ、編集や自身オリジナル・ベストをつくる際は、ラジカセなどで神妙にカセットへと録音していた。全くもって手軽ではない。一仕事である。
しかし、その容赦なく時間のかかるその作業は、何だかとても感慨深いものであった様に思える。「ハイポジ」「メタル」という、変にそそる響きの種類があったカセットテープ。それらを好みに応じて選び、手動で一曲づづラジカセなりコンポを用いて録音する。そしてカセットケースの裏に手書きで曲名を綴る。
この時、愛する楽曲のタイトルとアーティスト名を、全身全霊を込めた渾身のタッチで丁寧に書く。あのえもいえぬホッコリ感、自分なりのオリジナル・ミックステープ制作による所有感、当時ならではの満足感を味わったという方も多いのではないだろうか。
時代と共に変化するリリース形式
こうしてみると、現在主流の録音メディアは、ここ20年で信じられない程に変化している。鑑賞方法としても、CDやダウンロードの他に、Youtubeなど動画サイトの閲覧や、定額制ストリーミングなど、インターネットを通じた音楽鑑賞方法として著しく変化を遂げている。
そうした中で、アナログレコード盤のリリースの再燃や、演歌界ではカセットリリースが現在も行われ、順調なセールスを見せるなど、歴史をもったリリース形式は未だ色褪せないという側面もある。過去のリリース形式が淘汰された訳ではなく、様々な音楽に応じた媒体や、聴く人のスタイルに適したリリース形式の拡大は、多様な形で音楽を楽しめる時代に移り変わったという事ではないだろうか。
ふと縦長シングル時代をしみじみ振り返ってみると、現代は音楽を楽しむにあたり、より広く深く音楽を聴ける時代に変化した。棚から発掘した縦長シングルを数枚、10分おきにCDプレイヤーに出し入れして聴きながら、今改めてそう思う。 【平吉賢治】
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