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俳優の田中圭が、連続ドラマW OZU ~小津安二郎が描いた物語~『第1話 出来ごころ』(WOWOW 11月12日午後10時放送)に出演。妻と別れ息子の富夫(演・森優理斗)と二人で暮らしながらも、酒や博打に夢中になってしまうダメ親父・喜八を演じる。日本を代表する映画監督・小津安二郎。1903年12月12日の生誕から120年を迎えたことを記念し、小津監督の初期サイレント映画6作をリメイク。田中圭、柄本佑、前田敦子、成田凌、石橋静河、中川大志が出演する。オムニバスドラマ形式で、現代設定に置き換え、カラーかつトーキー(発声)で蘇る。田中圭が主演を務める『第1話 出来ごころ』は、 約90年前に公開され、1933年のキネマ旬報ベスト・テン第1位を獲得した人情喜劇。リメイクの脚本・監督は、デビューから100本以上の作品を手掛けた実力派監督・城定秀夫氏が挑む。田中は城定監督と『女子高生に殺されたい』以来のタッグを組む。インタビューでは、『出来ごころ』の印象から撮影の裏側、よく聴いている音楽について、話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=山田健史】
一番気をつけていたのは富夫との関係性
――オファーを受けたときの心境は?
城定監督からお声を掛けていただいたことに僕は「やった!」とわかりやすく浮かれた気持ちでした。そこから小津監督のことを調べ始めて、当時の『出来ごころ』を観て「なんで僕が選ばれたのだろう?」って。
――浮かれたというのは前作『女子高生に殺されたい』(2022年)の手応えが良かったからですか。
そうです。『女子高生に殺されたい』でご一緒して、素敵な監督だなと感じましたし、あがってきた映像を見て監督の作るワンカット画の強さ、格好よさがあって、またいつかご一緒したいと思っていました。僕を選んでくれたのは、城定監督からのリクエストだと聞いていたので、すごく嬉しかったです。
――喜八の見た目、そこはどのように考えていましたか。
喜八の持っているズボラ感を出すには、無常ヒゲが生えている方が良いという話が最初はありましたが僕はヒゲが生えないんです。今回も最初はヒゲをつけてみようという案もあったのですが、「つけたヒゲだとわかるよね...」と却下になり、結果見た目に関してはあまり気にせずに演じました。
――父親役でしたが、富夫役の森優理斗くんとの撮影はいかがでした?
この作品において、富夫との関係性はすごく大事です。そこは一番気をつけていたところで、カメラが回っていないところでも距離感はすごく大事にしていました。城定監督はワンカットの長回しが多いので、セリフの行間などを登場人物で埋めなければいけない瞬間があります。そこを自然に埋められるような関係性を作らなきゃダメだなと思っていました。お芝居も抜群で懐いてくれて、良い関係が作れたなと思っています。
――小津作品が持っている空気感は意識されましたか。
監督はそういうところを100%意識する方です。これは勝手な印象ですが、撮影も期日までに渡したカードでベストなものを作る。こだわりが強い方なので小津さんの世界観みたいなものは、城定監督に任せておけば大丈夫だと思いました。僕は喜八と富夫の関係性や、『出来ごころ』が持っているもの、今でも変わらない何かがあるといったところを大事にしたいと思っていました。
衝撃だったラストシーンのワンカット撮影
――ラストシーンも印象的でしたが、どのような意識で臨まれていたのでしょうか。
城定監督はお芝居に関してあまり言わないんです。『女子高生に殺されたい』のときも、今回もそうなのですが、「◯◯してください」と言われた記憶がなくて。それが逆にすごく不安になるときもあるのですが、城定監督の仕上がりは絶対に格好よくなるという信頼があります。
最後のシーンを台本で読んだときに感じたのは、まさに「ザ・ラストシーン」といった感覚でした。撮影日の朝、ラストシーンなので気合いも入っていて、すごく大事なシーンなのできっと今日は時間がかかると思って撮影に臨みました。いざ現場に行くと、城定監督が「ここワンカットでいきます」と言うんです。 「このシーンワンカットなの? 嘘でしょ!?」って(笑)。ラストシーンのインパクトを強くするためにワンカットにしたのか、その真意はわからないのですが、ラストシーンをワンカット撮影というのはすごく衝撃でした。
――本作は喜劇というところで、コメディ要素もあると思います。田中さんはコメディ作品にも多く参加されていますが、どのような意識で臨みましたか。
本作がコメディ作品と感じてもらえるのであれば嬉しいです。僕はコメディ作品が好きで、おもしろいでしょ? というコメディではなく日常の延長にある面白さみたいなものが好きなんです。本作でサイレント映画のよう無音になるカットがあるのですが、そのシーンの切り取り方、コメディ感の引き立たせ方はすごくかわいらしかったですし、おもしろいと思いました。
――田中さんがコメディ作品に臨むときのポリシーみたいなものはありますか。
僕はコメディをコメディだと思ってやらないのが理想です。コメディ作品であればあるほどシリアスにやる方がおもしろいと思っていて。すごく難しいところではあるのですが、そこは監督や共演する方とのバランス、自分の持っているものと役とのバランスでやっています。自分は城定監督とやるときはコメディだと一切思っていなくて、シリアスな作品だと思ってやっていました。たとえば本作では喜八が白石(聖)さん演じる春江にプロポーズするために、髪型をビシッと決めてスーツを着て花を持っていくシーンがあるのですが、喜八本人からしたらすごく真剣なんですよね。真剣だからこそおもしろいという感覚は、城定監督も同じだと思います。
――「出来ごころ」がリメイクされてどのような部分が強く出たと感じていますか。
原作を観たので先入観もありますが、ものすごく昔っぽい話ではあるなと。そのなかで本作では時代設定も昔なのか今なのかわからない、フィクションの時代みたいな雰囲気があります。
――確かに今なのか昔なのかよくわからない部分もあります。
スマホは出てこないので、昔っぽさが強いとは思うのですが、自然と見れる。それは人の気持ちの根本は変わってないからなんですよね。「出来ごころ」のような作品は少なくなってきていると感じていて、仕掛けがあったり、エンターテインメント性が強かったり、どんどん作品が凝ってきている中で、『出来ごころ』はすごくシンプルな親子の話です。ラストシーンではこんなにも心が温かくなれるというのは、小津さんが作品を通して伝えたかったことでもあると思っています。
――ラストシーンで皆さんがどのようなことを感じるのか楽しみですね。
おもしろいのが、自分が撮影に参加しているからラストシーンはわかっているのに、「終わった。なんだこの終わり方は!?」と思ったんです(笑)。余白みたいなものを小津さん、城定監督からのプレゼントなんじゃないかと完成した作品を観て思いました。僕自身、こういった作品に参加させていただけたことは俳優冥利に尽きます。
田中圭が良く聴いている音楽とは?
――さて、MusicVoiceでは音楽についてお聞きしているのですが、田中さんのモチベーションにつながっている音楽、よく聴いている音楽はありますか。
サブスクなどでトップ100を聴いていて、最近だとVaundyさんとSaucy Dogをよく聴いています。過去に音楽番組『MUSIC BLOOD』(日本テレビ)をやっていたのが大きくて、あの1年半で音楽をたくさん聴くようになり、調べるようになったので、そこからいろいろな音楽を聴くのが習慣になりました。
――好きな音楽の傾向は変化されていますか。
昔はカラオケが好きだったので、自分が歌えない曲はあまり聴かなかったのですが、年齢が上がってカラオケに行く頻度も落ちてきたのもあり、女性歌手の曲も好きになって聴くようになりました。
――たまにカラオケに行かれたときはどのような曲を歌われますか。
先ほどもお話しに出た最近よく聴いているVaundyさんやSaucy Dogです。歌ってみようと入れてみるのですが、たくさん聴いているはずなのに、全然歌えなくて。最近は歌を覚えるのもすごく遅くて、覚えようと思って聴かないと絶対覚えられないです(笑)。
(おわり)
ヘアメイク
花村枝美(MARVEE)
スタイリスト
柴田圭(tsujimanagement)
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