Anonymouz「今の私の全てを――」デビューアルバムで見せた可能性
INTERVIEW

Anonymouz

「今の私の全てを――」デビューアルバムで見せた可能性


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:23年02月22日

読了時間:約15分

 ミステリアスなシンガーAnonymouz(アノニムーズ)が2月15日、デビューアルバム『11:11』(イレブンイレブン)をリリース。2019年3月より、YouTubeでJ-POPの英語カバーをスタート。歌詞の翻訳は全てAnonymouz本人が手掛け、抜群な翻訳センスと歌唱力が評価され、動画の総再生回数は1500万回を突破し注目を集めている。満を持してリリースされるデビューアルバム『11:11』には、 テレビ東京系アニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』EDテーマ「Ladder」、TVアニメ『ヴィンランド・サガ』SEASON2 のOPテーマで、ストリーミングとMusicVideoがわずか2週間で100万回再生を突破した最新曲「River」、さらに澤野弘之や島田昌典、andropの内澤崇仁らが作曲やプロデュースで参加した楽曲など、Anonymouzの魅力を堪能できる全18曲を収録した。インタビューでは、アルバム『11:11』に込めた思いから、楽曲の制作背景について話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

“名前”を探していたような3年間

Anonymouz

――2月15日にメジャーデビューされますが、どんなお気持ちですか。

 メジャーデビューはすごく嬉しいです。手に取ってもらえるものとしてCDをリリースできることも嬉しかったです。

――18曲収録されていますが、大盤振る舞いですね。

 今の私の全てを出し切りたくて、満遍なく見せようと思ったら18曲になりました。自分を見せるのにこういう曲が足りないんじゃないかと、昨年の12月まで作業していました。

――曲順を決めるのも大変だったのでは?

 3年間活動してきたのですが、このアルバムからがはじまりなんだ、というのを感じながら作っていたので、殻をぶち破っていくイメージで曲を並べていきました。自分が持っている柔らかい要素や、楽曲のかわいい部分など、飽きずに最後まで楽しんでもらえるように、というのを意識していました。ただ、最初と最後の曲は自分の中で決まっていて、最後に“はじまり”というメッセージを伝えたかったんです。

――この3年間というのは助走みたいな感覚ですか?

 Anonymouzのコンセプトでもある匿名性、名前を探していたような期間でした。でも、名前がついたというわけではないのですが、シンガーとしての指針が見えてきた3年間だったという気がしていて、アーティスト・Anonymouzとしてのはじまりが今作だと感じています。歌が好きな1人の人間が、アーティストとしてみんなに届ける、というのをイメージして作ったアルバムになっています。

――アルバムタイトルの『11:11』は縁起の良い数字なんですよね?

 はい。エンジェルナンバーと言われていて、天使が進むべき道を示してくれるというものなんです。私は自分のアーティスト活動への期待も込めて正しい道へ進むように、そして、このアルバムを聴いてくださったみなさんを、少しでも導いていけたらなと思いつけたタイトルです。

――エンジェルナンバーは、どのようなきっかけで知ったんですか。

 私の母がこの11:11というエンジェルナンバーをすごく大事にしているんです。例えば車に乗っていて、前を走っている車のナンバーが“1111”だとすぐに反応したり。なので、自然と私も意識するようになりました。その中でアルバムタイトルを考えたときに、『11:11』が浮かんで「これだ!」と思いました。自分のルーツも含め、すごくしっくりきました。

――他にも意識している数字はありますか。

 私の誕生日が5月21日なので、時間の17:21を大事にしています。待っているわけではないんですけど、その時間に時計を見られるようになっていて(笑)。あと、1と7と2と1を全部足すと11になるので、すごく特別な気がしています。

今までの積み重ねがあって、ここから花開くという気持ちで進んでいきたい

――さて、1曲目の「Waterfall」は所信表明のような1曲だと感じました。

 はい。未知なる世界へ飛び込んでいく、行きたいという気持ちで書いた曲でした。

――「River」や「Underground」もそういう感じがありますが、つながっているところも?

 「Waterfall」、「Underground」、「River」は同時期に書いていた曲なんです。ちょうどTVアニメ『ヴィンランド・サガ』を観ていたときで、そこで感じたものが反映されています。

――TVアニメ『ヴィンランド・サガ』を観て、どんなことを感じました?

 SEASON1が復讐心というものが強かったのですが、SEASON2ではその復讐が終わり、新しい世界に出ていくことになると感じました。それを私の音楽活動と重ねたときに、今までの積み重ねがあって、ここから花開くという気持ちで進んでいきたいと思ったので、その思いに重ねて書いた3曲になっています。なので全てテーマが一致しているのはそういった背景がありました。

――2曲目の「Ladder」は日本語に訳すと梯子(はしご)ですが、『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』とどんな接点があるのでしょうか。

 雲の隙間から光が差し込んでいる、その光のすじを天使の梯子と呼ばれているみたいで、その言葉をいつかどこかで使いたいなと思っていました。曲を書いている時にLadderという言葉が自然と出てきました。BORUTOの世界は怪物が仲間をさらっていってしまう、それを助けに行くというストーリーが多かったので、大切な人を連れ去ろうとしていても、その梯子で必ず迎えに行くからという意味でつけたタイトルでした。

――エンジェルナンバーと天使の梯子もつながりを感じますね。

 意識していなかったのですが、結果的に全てつながったような感じになりました。素敵な言葉集みたいな本があって、面白そうだなと思い図書館で借りたんです。そこに天使の梯子が写真付きで載っていて、すごく素敵だな思ったのがきっかけでした。

――その本で気になっている言葉はまだまだたくさんある?

 はい。蝶のことを夢見鳥とも言うみたいで、それは蝶が鳥のように羽ばたくことを夢見ているというものなんです。それもすごく素敵だなと思っていて、いつか曲に落とし込めたらと思っています。

――言葉との出会いが曲につながっていくんですね。そして、アルバムタイトルと同じ「11:11」ですが、どんな気持ちでこの曲を書かれたのでしょうか。

 この曲は中村泰輔さん、TomoLowさんとコライトさせていただきました。そして、一緒にスタジオに入ったのですが、私が到着する頃にはアレンジが出来上がっていました。アルバムがほぼ完成していた中で、語りかけるような曲がないなと感じたので、それをテーマに作っていきました。ライブを意識したところがあって、チャレンジする価値があるものは、失敗する価値もあるという言葉がすごく好きなので、それをテーマにしようと思い、歌詞を書きました。チャレンジすることは恐怖でもあると思うので、全て飛び越えていこうという曲です。

――「11:11」のイントロはダークな感じがありますね。

 チャレンジすることへの恐怖心みたいなものを表現しています。そこから、サビで飛んでいくような、開けた感じにしたいと思いました。恐さを楽しさに変えてしまえ、というイメージなんです。ライブでも楽しんでもらいたいですし、チャレンジすることへの恐さも楽しんでもらえたらうれしいです。<Why don't you try?>という歌詞のパートは、囁くように歌っているんですけど、天使の囁きと言いますか、「やってみれば」と囁こうと作ったパートで、アルバムのテーマにそってできた曲です。

――そんなAnonymouzさんが最近チャレンジしたことは?

 「恋をして」、「夜行性」という曲があるのですが、こういう曲を書いたことがチャレンジでした。なので、アルバム自体がチャレンジだったと感じています。「夜行性」は今の流行りを研究して書いた曲で、色んな曲を探りながらどうやったら自分のものにできるか、というのを考えながら作っていました。

――この2曲は日本語の歌詞になっていますが、今お話ししている雰囲気に近い歌声だなと感じました。

 日本で私は育ったので、自分に近い感覚があります。英語圏で育ってはいないので、英語で歌っている自分のことはよくわからないんです(笑)。なので、自由さがあって色んな表現ができると感じているのが英語、日本語で歌うときは“私になる”という感覚はあります。

――ちなみにAnonymouzさんは“夜行性”な一面も?

 私が夜行性になることはほとんどないんです。ここ2カ月くらいは、朝7時に起きるようにしています。例えば、好きな人からのメールやLINEを待っているときは、いつ返事が来るのかと思うとなかなか寝付けないんじゃないかなと思います。片思いの気持ちと夜行性を掛けてみました。

――寝られないときはどうします?

 ストレッチしたり、あの手この手を使ってなんとか眠りにつく努力します(笑)。

――眠れないときはゲームをプレーしたり、ドラマを観たりはしない?

 ゲームは今はやってないんですけど、ドラマは時間が空いたときに観ています。でも、夜は面白すぎて眠れなくなってしまうので、あえて観ないようにしています。

――どのようなドラマをよく観ていますか。

 『ベイクオフ』というドラマがあって、そのときのテーマに沿ってお菓子を作ったりするんですけど、最近はそれを夢中になって観ています。自分では作らないんですけど、見ていて夢があるんです。

――お菓子、お好きなんですね。

 甘いものが大好きなんです。『ベイクオフ』でチョコレートケーキの回があって、それを見てすごく食べたくなって、昨日はチョコレートケーキを食べてしまいました(笑)。

自分の声がすごく少年っぽいと思った。

Anonymouz

――「Eyes」や「Oxygen」は既にリリースされていますが、今回収録したポイントとして、どんなところがあげられますか。

 まず、「Oxygen」は、私の神秘的なところを見せることができる曲だと思い選びました。ライブで披露すると空気をガラッと変えられるような曲なんです。そして「Eyes」は私にとってすごく大事な曲です。当時、声の柔らかい成分を使うことがあまりなかったので、ど
うやったら柔らかく歌えるかというのをすごく考えていたのですが、今では呼吸をするかのように歌える曲になってきました。どんどん自分の心とつながっていく、人の幸せを願える曲で、私は誇って歌っています。

――以前行ったインタビューで、ご自身の声は癖がないとお話されていたのですが、今もその印象は変わっていない?

 はい。自分ではいまだに癖のない声だと思っています。女性らしく歌うこともできれば、少年のように歌うこともできる声なんじゃないかなと思っていて。邦楽っぽくも洋楽っぽくも歌えるというのは、匿名性の中で色んな面を見せることができるのは癖がないからこそで、色んな人物になれるんじゃないかなと思っています。

――少女ではなく少年なんですね。

 レコーディングで初めて自分の声を聴いたときに、「なんだこれは」と思いました(笑)。自分が想像していた声と全然違っていて、そのときにすごく少年っぽいなと思いました。

――もしかして、その少年というのは「はじめのはじまり」の歌詞にある<僕の名前>の“僕”とつながる部分もあります?

 「はじめのはじまり」はandropの内澤さんに書いていただいた曲なんです。

――もしかしたら内澤さんの中で、少年っぽさをイメージしていた可能性もありますね。最初聴いたとき、どんな印象を持たれました?

 この曲を内澤さんの声で聴いたときから、自分がライブで歌っている姿がイメージできるくらい、私にぴったりの曲だと思いました。自分の声のイメージと曲が一致したような感覚があります。タイトルも内澤さんが付けてくださったもので、すごく気に入っています。

――内澤さんとはお話されました?

 直接はお話はできていないのですが、メールとリモートでやり取りをさせていただきました。ワンコーラスのみのデモを聴かせていただいて、Dメロなどはそのあと追加されたのですが、それは私をイメージして書いてくださったのではないかなと思いました。<光をくれて ありがとう>というのは、私がライブのMCで「皆さんから光をもらっている」と話しているのですが、そういうことも全て詰め込んでいただいた曲になっていると思います。

――この曲は大切な人との出会いや、傷ついた過去からできた自分をもっと愛せるようにと願いを込めて歌った、とSNSで綴(つづ)っていましたね。

 思い通りにいかないことも多いですし、私自身もこの3年間でそう感じたこともありました。でも、それもあってこのアルバムができたり、今アーティストになれているということは、すごく幸せなことなので、愛せるようにという願いからでした。

――さて、「If I Was feat. K.E.I」はK.E.Iさんとのコラボ曲で、2月23日に代官山UNITで開催されるライブでもゲスト出演されます。そんなK.E.Iさんとの出会いは?

 私自身がつながりがあったわけではなく、いつもレコーディングをお願いしているエンジニアさんがK.E.Iさんとつながっていて、私と合うんじゃないかということで紹介していただきました。初めてK.E.Iさんの声を聴いたときから中性的で、この曲にピッタリなんじゃないかなと思いました。作品を通して2つの声が混ざるというのがすごく新鮮で、楽しかったです。「Pink Roses feat. Fleurie」でご一緒したFleurieさんとの制作も同時進行だったのですが、コラボする楽しさを知った2曲でした。

――Fleurieさんはいかがでした?

 「Pink Roses feat. Fleurie」をリリースしたときにリモートで取材を受けたことがありました。そのときに感じたことが、すごく綺麗な言葉を選んでしゃべられる方だと思いました。ふだんだったら見逃してしまうようなことも感知して、それを言葉にするんですけど、受け答えもそういうところに注目するんだと驚きましたし、センスに憧れます。そして、声も印象的でコラボできて本当に良かったです。

とにかく長生きしたいタイプなんです。

Anonymouz

――「Melodies」はすごくAnonymouzさんに合っているなと思いました。この曲はいつ頃書かれていたのでしょうか。

 3年くらい前です。中村さんと一緒に書いた曲で、中村さんがピアノで伴奏をしてくださっているところに、私がメロディーを乗せていきました。そのときに生まれたメロディーがすごく気に入っていたので、いつか配信やEPで収録できたらいいなと思っていた曲なんです。その中で出光興産 北製CM「手紙篇」のCMソングに決まったので、すごくうれしかったです。

――レコーディングは当時されていたものですか。

 もともとプリプロはしていたのですが、昨年、今の声で録り直しました。昔はまっすぐな声だったのですが、今は少し使い分けられるようにもなってきて、3年前と比べて大人の雰囲気も出せているんじゃないかなと思います。

――さて、「恋をして」は島田昌典さんプロデュースで、チャレンジの曲だと先ほど仰っていましたね。

 はい。チャレンジの曲でした。島田さんにプロデュースいただけることが決まってから、楽曲制作に臨みました。島田さんといえばJ-POPのキラキラした曲、というイメージがあったので、恋をテーマにしたかわいいポップスを書きたいと思いました。私の中でJ-POPに“全振り”した作品になっています。

――歌詞はどんな情景をイメージして書かれました?

 そのときに読んでいた本からインスパイアされて書いた歌詞なんです。これまでの私の曲の中には恋をして心がズタズタになってしまった、というものはあるのですが、その恋で全てを失ってしまったわけではなく、そこから成長したことはテーマにしたことがなかったので、「恋をして」では前向きなメッセージも入れたいなと思いました。なので、メロディーも明るく転調もしてみたり、遊び心も伝わるように作った曲です。

――島田さんはどんなところをプロデュースしてくださったのでしょうか。

 私がどうしたいのかを聞いてくださいました。その中で「どんな楽器を入れたい?」と聞いてくださったので、私の中で恋の香りがする「ハープを入れたい」とリクエストさせていただきました。なのでハープもふんだんに取り入れたアレンジになりました。初めてこの曲を聴いたとき、すごくうれしかったです。島田さんは、私が英詞で歌うイメージから、アレンジはスウェディッシュ・ポップに寄せたと仰ってました。なので、曲はJ-POPなのですが、アレンジによって自分の個性を生かしたものになりました。

――「Hide & Seek」はクールですね。この曲はどんなきっかけで生まれた曲ですか。

 ギターでコード進行を弾いたとき、衝動的にと言いますか、骨組みができてしまった曲です。歌詞は英語で作り始めたのですが、そのときから今の歌詞にある<hide and seek>や<poker face>など、そういった言葉が既にいくつかありました。それらに意味を持たせられるように、丁寧に言葉をつなげてスムーズにできてしまった曲でした。ライブでやっていても自然と楽しめるような感覚がある曲です。

――澤野弘之さんがプロデュースした「Silhouette」はいかがでした?

 澤野さんとは、歌をレコーディングする直前とミックスダウンのときにお会いする機会がありました。澤野さんから曲を頂いたとき、絶対に自分では書けないようなメロディー、繊細で複雑なラインで新鮮でした。でも、このメロディーラインにしっかり歌を合わせることができなければ全て崩れてしまう、そんな危うさもある曲だと思いました。なので、レコーディングでは音とタイミングを外さないように、意識して歌った曲です。

――Silhouette=影絵というテーマになったのは、どんな背景があったのでしょうか。

 サビの部分でメロディーが叫んでいるかのように聴こえたり、逆にAメロはどこか孤独に聴こえました。そこから今の世界の状況、ネット社会だったり、酷(ひど)いことを平気で投稿する人も現れたり、その人たちは相手のことを本当の人間ではなく、画面の向こうにいる影みたいに見えているのかなと思ったのがきっかけでした。シルエットの中のその人のアイデンティティで、色をちゃんと見ることができれば、誰も傷つけることもなくなるのかなと思って書いた歌詞でした。

――今、Anonymouzさんが感じていることが、大きく影響している曲なんですね。そして、「Heaven」は、もしかして身近な人が亡くなられた?

 アイルランドに住んでいる祖父が亡くなりました。亡くなる直前に会うことができたのですが、遠くに住んでいるので、私はそんなに会う機会がなかったんです。会えないときは、私の心の中で見守ってくれているような感覚があったので、その優しいイメージを曲に閉じ込めたい、祖父は口笛をよく吹いていたので、口笛を吹きたくなるような曲を書きたいと思い、最後に口笛を入れたのはそこからなんです。悲しい曲では決してなくて、夢の中でまた会えたらいいなという優しい曲になっています。

――Anonymouzさんは生きることについてどんな考えがありますか。

 私はとにかく長生きしたいタイプなんです。長く生きたいと思えるほど、人生が楽しすぎて。つらい日ももちろんあるのですが、立ち直ったときは、またすごく楽しいんです。

――何歳まで目標にしてますか。

 とりあえず125歳くらいまでいけたらいいなと思っています(笑)。もしかしたら、科学の進歩でもっと長生きできるかもしれないので、200歳も夢ではないかもと思ってます。

――未来は明るいですね。もちろん歌い続けていますよね?

 はい。体力が続く限り歌は続けていきたいです!

(おわり)

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村上順一
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